羽化に唇 ▽▽▽ ( UNION / GARDEN )

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 ぐちゅぐちゅと自分の中を掻き回す感触に限界を覚えた。腹の底の辺りがぎゅっと熱くなって、俺のチンコは触ってもいないのに勃ちっぱなしだ。どろどろとみっともなく先走りを流しているのが、快楽に勝てない自分を表しているようで滑稽だと思った。
 どうにかして先に透をイかせたい、と思っていると、突然体のバランスが崩れて俺は透のものをいっそう深くまで呑み込んでしまった。内壁が擦れて強い快感がぶわっと押し寄せてくる。目の前がちかちかする。思わず我慢するように腹に力を込めると、勢いよく体をひっくり返されて悲鳴のような情けない声が出た。
 何が起こったか分からず目を白黒させている俺が視界に捉えたのは、あの獣のような燃え上がる瞳。
 荒い息を吐いて、少し苦しそうに眉根を寄せて、けれどとても楽しそうに唇の端を釣り上げて、そいつは笑った。
「えっちだね、礼司さんは」
 耳元で囁かれて腰がびくつく。やばい声だけでイきそう。
 敬語を使う余裕もなくなったらしい透が焦らすようにチンコをぎりぎりまで引き抜く。俺は、これから透がするであろうことに期待せずにはいられなかった。
「ん、はぁ、あ……とおる」
「……俺、頑張ってたくさん待ったよ?」
 礼司さんは俺にご褒美くれなきゃだめだよね。そいつは情欲を隠そうともせずにそう言って、殆ど抜けかけていたチンコを一気に俺の中にぶち込んできた。
「ひッ! っぁ、ああぁあ――!」
 目の前がスパークする。真っ白でぐちゃぐちゃで、何も考えられなくなりそうだった。今までは自分が主導で動いていたからある程度快感をセーブできていたけれど、こうなってしまってはもう翻弄されるしかない。この獣に。
 こいつは、大人しいだけの飼い犬ではない。
「ひぁっ、ぁ、あああ、っも、やぇ、やぁぁあ……!」
「今度はっ、俺が、好きにする番だよねっ……」
「ぁっ、ばかっはげし、ひぅっ、ぅあ、あ、や、」
「こうされるの、っすき、でしょ」
「っつ、――ぁ、あー、あぁ、ぁあぁ」
 思い切り揺さぶられて内臓ごと引き摺り出されそうな快感が襲ってくる。だめだ、もう、我慢できない。このまま思い切り出してしまいたい。はやく、はやくイきたい。そんな欲求だけが脳内を占めていた。
「はぁ、ぁ、ふ、っんん」
「ん……かわいい、礼司さん」
 せめてもの意趣返しのキスも「かわいい」の一言で済ませられてしまってとても悔しい。こいつに跨って腰を振ってまで必死になっていた自分は一体なんなんだ。
 俺だって、こいつのことはかわいいと思っている。思わないわけがないだろ。男役を譲ってやってるんだ、余裕のない目で俺を見てろと思うくらい許せよ。
 俺は余裕ぶっているだけで、最初から余裕なんて無いんだから。
 お前に翻弄されっぱなしなんだよ、俺は。つっけんどんな態度にも怒らないお前が不思議なんだ。ちょっと俺に拗ねてみせるくらいで許してくれるお前が、不思議。
「っも、むり、いきそ」
「イっていいよ……っ俺も、だから」
「っぁ、ちょ、待っ……お前っ、中は」
「ごめんね聞こえない」
「ひっ!? っぁ、ああっやぇ、いく、いくいく、ぁああ――!」
 抗議する間もなくびくびくと透のチンコが俺の中で脈打つのを感じる。自分の出した精液が腹をべっとりと汚して、汗だくなのも相まってとても不快だ。けれど自分の中に注ぎ込まれる透の欲の証だけは心地よくて、ああもうベタ惚れだ、なんて顔を覆った。
「っ、っ、……くそ、とおる……」
「はー……気持ちよかったですね、礼司さん」
「ここで同意を求めるなって……見て分かんねえの?」
「いや、それは、まあ、よく分かりますけど。でも先輩の口から聞きたいなーって思ったんですよー」
 先輩呼びが余韻をぶち壊しているとこいつは気付いているのだろうか。いや、きっとこいつは呼称が先輩呼びに戻っていることにすら気付いていないだろう。大馬鹿野郎。
 俺が悩んでいることなんて、こいつにとっては些細なことなのだろうなと思う。けれど、それを些細なことだなどと言わずにいてくれそうなところが、好きだ。
 そういう奴だからこそ、俺も安心して体を繋げられる。
「今日の先輩は積極的でしたね」
「なにその感想オヤジかよ」
「ひ、ひどい……あんなに頑張って我慢してたのに」
「お前が見下されたいって言うからやってやったんだ」
「み、見下す? 見下ろすじゃなくてですか?」
「は? 俺に口答えすんの?」
「ええー違いますよぉ! でも、今日の先輩なんかいつもより必死な感じで、俺、嬉しかったです」
 すぐに上手い切り返しが思いつかなくて黙ってしまった。余裕がないのがバレると恥ずかしい。でも、それを嬉しく感じている自分がいるのもまた事実で、思わず叫びだしたくなるくらいだった。
「…………伊勢原」
「あっ、さっきまで名前で呼んでくれてたじゃないですか」
 なんで自分が呼ばれるときはすぐ気付くんだよポンコツかお前。
 なんだかいいように振り回されている気がして、俺はまだ自分の中に居座っていたチンコを思い切り締めつけてやる。不意打ちを喰らって慌てふためく様子に溜飲が下がった。
 そっと、耳元で囁く。
「もう一回、……いいよな?」
「せ、先輩……その台詞はマジで凶悪です……」
 かわいい赤面が見られたので今日のところはよしとしよう。俺は思わず笑みをこぼす。
 まだ夜は長い。時間ならいくらでもある。もっとたくさん俺のことを見てくれないと、嫌だ。
 興奮で塗り潰されたその瞳がどうしようもなく欲しいのだと、言ったらこいつはどんな顔をするだろう。
 俺は自分を射抜く視線にまた体が熱くなるのを感じながら、もう一度キスをするべくそいつの頬に手を伸ばした。

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