羽化に唇 ▽▽▽ ( UNION / GARDEN )

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以下はのんびり料理上手と綺麗好きイケメンの同棲話です。

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 休日の昼下がり、お餅貰ってきちゃった、と言った行祓がこたつテーブルの上に広げたのは大量の切り餅だった。
「どうしたんだそれ」
「ゼミで教授が配ってたんだよね。謎でしょ」
「謎だな……」
「そんなわけでお昼は餅パーティーにしようと思うんだけどどう?」
「ん、賛成」
 餅パーティーが具体的にどういうものなのかは分からなかったけれど、行祓に任せておけば安心だろう、という気持ちで頷いた。行祓はにこにこ笑って「まゆみちゃん、ノリがいいね」と言うと、餅を持ってキッチンへと引っ込み、しばらくして軽快な足取りで戻ってくる。片手にボウル、もう片手に……ん?
「たこ焼き器?」
「網で焼ければよかったんだけど、まあ、許容範囲でしょ」
 よく見るとボウルの中には細かく刻んだ餅が入っている。行祓曰く、これで少しずつ色々な味付けを試せるよ、とのことだ。行祓に任せてばかりも申し訳なかったので俺も立ち上がり、指示されるままにとろけるチーズや醤油、砂糖、オリーブオイル、七味、海苔、バター、マヨネーズなんかをテーブルの上へと移動させていく。
「まゆみちゃんはお餅はどういう風に食べる派?」
「あー……普通に磯辺焼きとか? きなこ餅とかも割と好き」
「きなこ忘れてた! 持ってくるね」
「うわ、悪い。ありがとう」
 きなこなんて滅多に使わないだろうに、とこの家の食材の豊富さに感心しつつ、俺も「行祓はどういう風に食うんだ? 餅」と尋ねてみる。
「おれはねー、定番だけど砂糖醤油が多いかな。でも帰りの電車で色々検索してみたらおいしそうな食べ方他にも色々あってさ」
 手際よくたこ焼き器をセットする行祓は、温度の具合を注意深く見つつひょいひょいと餅を投入していく。たこ焼き器で餅を焼くのなんて初めてで、かなりわくわくしていた。行祓は料理が得意で楽しそうに凝ったものを作るけど、今みたいにざっくばらんで合理的な部分もある。そういうところが、いいなと思う。気負った部分ばかりではないところ。今みたいなとき、いつもよりちょっぴり近いところに行祓を感じる。
「餅が膨らんでくとこってなんでこんなに見てて楽しいんだろうねぇ」
「ん……分かる。ついじっくり観察しそうになる」
「はは、まゆみちゃんっぽいね。どうしようかな、おれチーズ入れちゃう」
「じゃあ俺バターと砂糖……」
「あ、おいしそう。というかもしかしてこれ食パンにつけておいしいやつは餅につけてもおいしいみたいな感じ?」
「確かにそうかも」
 たこ焼き器の丸いポケットのひとつにバターをひとかけら投入し、餅に馴染んで柔らかくなったところで取り皿に移して砂糖をかけた。……んー、はちみつとかでもうまいかも。餡子があってもいいな。
 ……っと、危ない。忘れるところだった。
「いただきます」
 手を合わせた俺に行祓も笑って「いただきまーす」と歌うように言う。
 こいつは、食事の前に俺が手を合わせていただきますと言うことを絶対に馬鹿にしない。そういうのが今日も有難いし、明日もそうであってほしいと思う。好きなところだ。
 熱々のうちに、と口の中に放り込んだ餅は油分を吸ったからか焼いたわりに表面がしっとりしていて、バターの塩気と砂糖の甘味で期待通りのおいしさだった。一口サイズで焼けるのいいな……こまめに味変できるから飽きないし。
 行祓は、伸びる餅と伸びるチーズにあわあわしている。かと思えば、「海苔と一緒に食べてもおいしいー」とご満悦だ。
「んむむ、これは想像以上に楽しいね。一人だとなかなかこういうことしないし、まゆみちゃんが一緒にやってくれてよかった」
「そんなんこっちの台詞だって。まずたこ焼き器で餅を焼く発想がねえし」
「一口分ずつ味が変わるっていうのがおすすめポイントだよね。……あっ、七味マヨ醤油もおいしい」
「またすげえ組み合わせだな……」
「騙されたと思って食べてみようよ。一口だし。というかまゆみちゃんが今食べてるのは何?」
「これ? これはきなこバター」
「まゆみちゃんバター好きだね……」
「きなこだけだと上手くくっつかねえんだよ。バターちょっと入れて餅の表面濡らすとちょうどいい」
 言いつつ、行祓おすすめの味付けも試してみたり。甘いのとしょっぱいの交互に食えるのがかなりの高ポイントだ。行祓も、バターをたこ焼き器の中で溶かしつつ、「なーんでバターって匂いだけで幸せになっちゃうんだろ……」なんて言っている。
 あんなにたくさんあると思っていた餅が着実に減っていくのを見てそのことにも楽しくなってくる。行祓が一緒にいるだけで、俺一人じゃ絶対に試さないような味も試すし、たこ焼き器で餅を焼くなんて聞くからに楽しそうなこともできるのだ。それはとても貴重なことのように思えた。
 満腹になるまで餅をひたすら焼き続けて、この味がよかった、こっちの味もリピート確定、なんて感想を言い合う。たぶん俺、今めちゃくちゃ笑顔だ。そうに違いない。
「ふー……流石に全部一気には食べられないよね」
「そうだな……やばい、ちょっと食いすぎたかもしんねえわ」
「気に入ってもらえてよかった。んっと、そんなまゆみちゃんに提案です」
「ん? 何?」
「今日の夕飯は、この余ったお餅と明太子でグラタンなんてどう? マカロニ少なめお餅多め」
「うまそう。賛成」
「そう言ってくれると思った!」
 にこにこと嬉しそうにしている行祓を見て、こいつも俺と同じくらい、こうやって餅をたこ焼き器で焼いて一緒に食うということを楽しんでくれていればいいなと思った。そうだったら幸せだな、と思った。
 さて、しばらくは定期的に、二人で餅を食うことになりそうだ。

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ここまで読んでいただきありがとうございました!




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