羽化に唇 ▽▽▽ ( UNION / GARDEN )

INFO / MAIN / MEMO / CLAP


「んぅ……っん、ん」
「やっぱ最初は中キツいですね。ローション足すんでちょっと待ってて」
 なんだかんだ言いつつ、お互いそれなりにやることやってきた大人なわけで。特に滞りなく挿入のための準備は進む。三浦さんは雑で面倒くさがりなところがあるけれど、俺の中を割り拓いていく手つきは驚くほど丁寧で優しかった。
「兎束さん、冷たくない?」
「ん……だいじょうぶ、っんん」
 なるべく三浦さんが指を動かしやすいように力の入れ方を調節して、呼吸を整える。ぬぽぬぽと指を抜き差しされるのが変な感じだ。やっぱり三浦さんの触り方はちょっと不思議で、手触りや触れるものの輪郭をじっくり確かめるみたいに指を移動させている。
 何も、痛いことはなかった。三浦さんの爪は短く切られ表面もなめらかで、ああ、これまでの人生俺が爪の手入れを欠かさなかったことにもちゃんと意味はあったんだな、と身をもって知った。でもこんなに爪を短くしちゃったらギター弾きにくくなっちゃうんじゃないかな、ピックがあるから大丈夫なのかな、なんて思考がふわふわと浮かんで消える。
「ね、兎束さん。チンポ自分で触れる? やっぱりちょっと苦しそうだから」
「わかっ、た。触れる……っから、みうらさんは、続けて」
 三浦さんの手に導かれるままに自分のものを握ると、手の中でそれがびくっと震えたのが分かる。見られているからかいつもと勝手が違って緊張した。扱いていくうちに先端からとろりと汁がこぼれてきて、時折三浦さんの指先がその汁を塗り広げるみたいにカリの部分を撫でるから、俺のチンポはいつのまにかすっかり勃ち上がっていた。
「ぁっ、ぁ、ん、んん……っ」
 扱くたびに快感が走り抜けて、俺の中を指がうねうねと動く感触と何かが繋がっていくような、変な感じだ。
 最初は圧迫感と異物感だけだったはずなのに、なんとなく気持ちいいような気がしてくる。気持ちよくなれそうな気がしてくる。
「んぅ……もう、ちょっと」
「もうちょっと?」
「は、んぅ、っ……もうちょっと、で、気持ちよくなれそう……っ」
「えっほんとに? セックス上手いですね兎束さん」
 穏やかな口調でそんな褒め言葉……褒め言葉? を紡いだ彼は、空いた方の手を俺の手に重ねてきた。手もまとめて一緒に扱かれて、太ももがびくびくと痙攣する。あ、すごい、気持ちいい。好きな人に触ってもらって、今すごく興奮してる。
「兎束さんのチンポはー、やっぱり使い込んでる感じ〜」
「ちょっ……と! 歌わないで!?」
 思わず悲鳴みたいな声が出てしまった。気持ちよくなってきたと思ったら妙なタイミングで翻弄してくるじゃん……こんな陽気なメロディに乗せて利用状況を表現されたの初めてなんだけど……。
 三浦さんのチンポはというと、自己申告の通りそんなに酷使してませんよって感じだ。見た目グロかったら中に挿れるのちょっとためらうから、三浦さんが俺みたいなヤリチンじゃなくてよかったかも……。このチンポは挿れてもいいけど、俺のチンポはちょっとやだなって思うもん。元カノと比べられたりしたらショックだし。
 っていうか。今気付いた、三浦さんも微妙に勃ってるじゃん。
 なんだこれ……嬉しいのと安心で泣きそう……。
「結構柔らかくなってきました……どう? 分かる?」
「ふ、ぁ……ぁ、んっ、分かる、かも……は、ふ」
「あは、兎束さんかわいい」
 すりすりと俺の首筋に頬を寄せてくる三浦さんの方が可愛い。俺の勃ち上がったチンポが密着してきた三浦さんの腹に擦れてびくっと跳ねる。汚れちゃうかも、なんて不安になったけど、当の三浦さんはというと俺の中を熱心にほぐしてくれていて嫌な顔ひとつしていなかった。
「はー……っ、ぁ、んん、んっ……ん、ぁっ……」
「兎束さんの中あったかいね」
「んぅ……三浦さん、へいき……? 触るの、いやじゃない?」
「嫌どころかおれ今かなり興奮してるんですけど。もうちょいおれの反応を信用してくださいよ、せっかく素直だって評判なんですから」
 三浦さんがなんでもない風に冗談めかして笑って、俺の中で指を曲げた。何かを引っ掛けようとするみたいな指の動きに、びりびりっと痺れるみたいな快感が体を駆け巡る。
「ひっ……!? ぁっ、あ、あぁっ……!」
 やばい、だめなとこに当たった気がする。思わず腕に力が入った。これまでのどこかもどかしいゆるやかな快感とは違って、どこまでも追い立てられそうな強い刺激だ。これまで捉えきれていなくてぼんやりとしていた快感の輪郭がはっきりしたみたいだと思った。
「あ、よかった。ちゃんと気持ちよさそうですね」
「ぁあっ、ぁ、みうらさっ……きもち、い、そこ、すごいっ……」
「目ぇとろとろになってる。かわいー……」
「ひ、ぁっ……ぁ、ゃ、ぁんっ、んんぅ……っ」
 キスをされて、そのまま舌で首筋をなぞられて、鎖骨を甘噛みされて、それが全部繋がってひとつの大きな快感の渦になる。きゅうっ、と中が自分の意思とは関係なしに収縮して三浦さんの指を締め付けている。三浦さんが喉奥で笑う気配がして、とんっ、とんっ、と前立腺を指先で叩かれる。
「ぁふ、あ、ぁあっ! ぁ、あー……っ、も、きもちい、きもちいぃ……っ」
「そんなに?」
「んっ、うんっ、みうらさ、ぁ、ちゅーして……ぁっ」
 恥ずかしいのに声が止められなくて、どうにかしたくてキスをねだった。口を塞いでほしかった。三浦さんはすぐに応えてくれる。ぬるぬると咥内を掻き混ぜられながら前立腺を刺激されるのは頭が馬鹿になりそうなくらい気持ちいい。もう、気持ちいいってことしか考えられない。
 さっきから扱くのを忘れていたチンポはだらだらとみっともなく汁を垂れ流していて、欲望のままに擦ると更に流れる汁の量が増した。どうしよう。どこ触っても気持ちよくなっちゃう。だめ、俺だけ気持ちよくなったって意味ないのに。でももっと気持ちよくなりたい。もっと。
「はぁ、ぁ、ん……っみうらさ、も、俺、どうしよ」
「ん? どうしたの?」
「っ……も、さっきからずっと、きもちい……ぁっ、指、とんとんって、ぜんぶきもちい、からっ……ぁう、んんっ」
 三浦さんが俺の言葉を頑張って汲み取ろうとしてくれているのが表情で分かる。要するに俺は今ちゃんと伝わる言葉を選んで喋れてないってことで、マジで頭馬鹿になってるかも。ちゃんと考えて喋らなきゃ、って思うのに、必死で酸素を取り込もうとしているそばから中をずりずり擦られて結局何も考えられなくなってしまう。
「ゃあぁっ……あ、も、なか、擦るの、きもちよくなっちゃうからぁ……ぁっ」
「駄目ですか?」
「あうっ、んっ……ぁ、俺だけ、やだ、はずかしい……っいっしょが、いい……」
「……んん。兎束さん、ここぞってときにめちゃくちゃかわいいこと言いますよね」
 もう挿れていいのかなこれ、と独り言みたいに呟いている三浦さん。かと思えば、ぐにっと中に入っていた指が開かれる。「ひぅっ」中に空気が入り込んできて思わず声が出てしまった。というかこれ、あの、もしかして三浦さん今俺の中見てる!?
「ゃっ、も、いいからっ、挿れていいから……!」
 恥ずかしすぎる。ちょっとくらい痛くてもいいから早く挿れてほしい。というか、この感じだとたぶん大丈夫だ。早くしてくれ。
 俺はベッドに設えられた棚を手探りでぺたぺたと触る。ゴムが手に触れたのでそれを取って、三浦さんの目前に差し出した。
「俺が……つける、から。ね……?」
 頼むから頷いてくれ、という気持ちでねだってみると、「兎束さん、ほんとセックス上手いよね」と恥ずかしそうに言われた。セックスが上手いって言われるの別に初めてじゃないのに、三浦さんに言われるとなんだか妙にくすぐったいし、恥ずかしかった。
 三浦さんのチンポ、ずっとほったらかしにして俺だけ気持ちよくなっちゃってごめんね。そんな気持ちを込めて、ゆるく勃ち上がっているそれを扱いていく。
「……ん、ぅ」
「あー……三浦さん、声やらしー……」
 この声大好きなんだけど。楽しそうに歌ってるときの声も好きだし俺と喋ってるときの優しい声も好き。気持ちいいのちょっと我慢してるみたいなときの声も好きだって今知った。
 陰毛を巻き込まないように丁寧にゴムを下ろすと、いよいよこれが俺の中に入ってくるんだ、と緊張に喉が鳴った。指が入っていただけであんなに気持ちよかったのに、チンポが入ってきちゃったら一体どれだけ気持ちいいんだろう。
「兎束さん、最初は後ろからの方がやりやすい……みたい、なんですけど」
 でも、顔見たいです。前からしちゃ駄目ですか?
 僅かに首を傾げつつの上目遣い。きゅんっ、と中が疼いた気がした。今、何も入っていなくてさみしい。考えるよりも先に、勝手に口が動く。
「っ……いい、よ……はやく」
 三浦さんこそ俺を煽るのが上手すぎる。見つめられているだけなのに俺の体は勝手に気持ちよくなってしまっていて、三浦さんが挿入しやすいようにベッドの上に転がって脚を開いた。誘うみたいに。
 ゴムに包まれたチンポの先端と俺のびしょびしょに濡れたアナルのふちが触れて、にちゅりと粘度の高い音がする。あ、すご、入ってくる、入ってくる……っ。
「は……兎束さん、……っ」
 三浦さんは最初から一気に全部挿れるようなことはせずに、俺に何度も軽いキスをしながらゆっくりと、感触を確かめるみたいに少しずつ動いた。三浦さんのものが俺の中に馴染んでいって、苦しさよりも中が擦れる気持ちよさを徐々に拾えるようになっていく。
「んん……っ、はー……、ぁ、はぁ、ぁっ」
「大丈夫? 苦しくない……?」
「ぁ、んっ、だい、じょうぶ……っ、んぅっ」
 俺が『大丈夫』と言うだけで三浦さんは嬉しそうに眉を下げて笑った。ちょっと泣きそうにも見える、幸せそうな顔。それを見ていたらたまらなくなって、きゅうきゅうと中も勝手に動いてしまう。
「あー……どうしよ、これ」
 耳元で、囁き声がする。
「こんな、……好きな人とセックスするの、こんな気持ちいいって、初めて知った……」
 まだ全然動いてないのに既に気持ちいいとか処理バグってんじゃないの、と職業病っぽい表現をしている彼は、確かに、自分の感情を処理しきれていないような、消化に時間がかかっているみたいな様子だった。
 あ、もしかして、さっきのは本当に泣きそうだったのかな、って思った。
「みうら、さんっ……ね、俺も、気持ちよくて、どうにかなりそ……っ」
 腕を伸ばして、三浦さんの顔を引き寄せて、そのままキスをした。勢いのままにチンポが奥まで入り込んできた感触がして、思わず腰が引けそうになったけれど根性で耐える。じわじわと快感が広がっていくのを感じながら、自分の舌を三浦さんの舌に絡ませる。
「兎束さん……すき、大好き」
 合間に漏れる吐息すら全部愛しい。
 ねえ、三浦さん。
 この歳になってセックスで感動するなんて、俺、思ってなかったよ。

prev / back / next


- ナノ -