羽化に唇 ▽▽▽ ( UNION / GARDEN )

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 何度もキスをしているうちにすっかり中は馴染んで、三浦さんも動きがスムーズになってきた。ゆっくり、けれど確実に彼の腰が引かれて、同じだけ奥に進む。指で擦られるのとはまた違う感触に、俺はもう甘ったるい声をこぼすことしかできなくなっていた。
「あっ……ぁ、あ、あんっ……ぁ」
「声蕩けてる……そんな気持ちいい?」
「んぁっ、ぁう、うん、きもちぃ……っぁ、そこ、擦って……」
「セックスしてるときの兎束さん、いつもより、思ってることいっぱい言ってくれるね……っ」
 いいこいいこするみたいに髪を撫でられて恥ずかしかったけれど、それ以上に気持ちよくてもうどうしようもなかった。中がどんどん擦れて気持ちいいところに当たって、三浦さんの息遣いがすぐ傍で聞こえることにも興奮を誘発されて、キスをねだればすぐに唇が迎えに来てくれる。
 こんなの気持ちよすぎる。ほんとにだめになっちゃう。
 大きくて柔らかい幸せにすっぽり全身くるまれているみたいだった。体を揺さぶられて、勃起したチンポが振動で汁を辺りに飛ばしている。蛇口がぶっ壊れたみたいにさっきからずーっと汁が溢れっぱなしだ。ぐちょぐちょでやらしい。三浦さんが体勢を前屈みにするたびに俺の陰嚢が三浦さんの肌に触れてものすごく恥ずかしかった。でも今はそれすら気持ちよさの材料になってしまう。
「ふ、ぁあっ……! ぁっ、あ、あっ」
「ん……っ、兎束さん、チンポびくびくしてる、イきそう……?」
「ぁああ、ぁ、んんっ……ん、ひぅっ、んん〜……っ」
 まともに答えられなくて必死に頷くとピストンが速くなる。俺をイかせようとする動き。俺を気持ちよくしてくれる動きだ。俺は、力を振り絞って三浦さんに抱きつく。三浦さんも俺の意図を察して、体をぴたりと密着させてくれる。
「あっ、も……出る、んんっ、ぁあ、ぁ、は……っぁ、あっ」
「いいよ、イって……っ好き、兎束さん……」
「〜〜っ! ゃ、あぁあっ、あ、ぁあ〜……!」
 中のいいところを抉るように擦られた瞬間、びくっと体が震えて俺はいつの間にかイっていた。とろとろとチンポから力なく精液が流れてくる。三浦さんは手を伸ばしてきたかと思えば俺のチンポを根元からゆっくり扱いてくれて、俺はふわふわした心地のまま、ちゃんと精液を出し切ることができた。
「はぁ、ぁ……ぁ、んん」
「ふ。気持ちよさそー……ごめん、おれがイくまでちょっと待ってね……っ」
 もちろん待つし、いくらでも俺の体を使ってほしい。本当は俺だって動きたいけどイった後の脱力感で上手くできない。
「あ……っ、ん、んんっ」
「っ、ぁ、やば、イきそ……っ兎束さん、キスしていい……?」
「んっ、してっ、キスして……っ、ぁ、ぁあっ」
 もう何度目のキスか分からないそれを味わっていると、中でチンポが一層脈打つのが分かった。きゅうっと中を締めてみると動きが更によく分かる。飲み込みきれなかったらしい声が微かに聞こえて、三浦さんが無事にイけたらしいことに俺は深く安堵のため息をついた。
「は、んぅ……みうらさ、きもちよかった……?」
「兎束さんなら……見てりゃ分かるでしょ、そのくらい」
 外したゴムを雑に結んでティッシュにくるんだ三浦さんは、「はー……気持ちよかったです。めちゃくちゃよかった」とはっきり口にしてくれた。見てりゃ分かると言いつつ伝えることは怠らない。そういうところも好きだなと思う。
 彼はどうやら賢者タイムがあまりない方らしい。いつもよりとろりとした目で俺のことを抱き締めてくる。肌が触れ合っているのが心地よくて、三浦さんの背中に腕を回した。
「三浦さんってさー……エッチのときは敬語殆ど抜けるね」
「え、ほんとですか? 全然意識してなかった……」
「普段からタメ口でもいいのに」
「やー、別にこれも無理してるってわけじゃないんですよ。自然と出てくる感じで。無意識に使い分けてんのかな……?」
「だとしたら、そういうとこもずるいよね」
 ますます好きになってしまう。毎日毎秒記録更新してる気がするもん。
「もう一回風呂入ります? すげー汗かいた、運動したって感じ……」
「そうだね……マジでやばかった、気持ちよすぎて途中戻ってこられなくなるかと思った」
「一緒に気持ちよくなりたい〜って言ってたのかわいかったですよ」
「ちょっと! 最中のことは蒸し返さないでほしいんだけど!」
「えー。おれずーっと兎束さんかわいいなー好きだなーって思ってたのに。蒸し返しちゃ駄目ですか?」
「うぐ……だからさあー……そういう言い方はずるいんだって……」
 俺がイくときも『好き』って言ってくれた。嬉しかった、すごく。俺ももっと言えたらよかったのに全然舌回ってなかったな。でも、初めてにしてはかなり上手くいったというか、まずお互いちゃんとイけたのがほっとした。大成功と言っても差し支えないんじゃないだろうか。
「…………今幸せ噛み締めてるから、もっと『好き』って言ってくださあい……」
「兎束さん大好き。ね、おれには言ってくれないんですか?」
「俺だって大好きだよ……!」
「わーい。おれも好き!」
「え、ほんとに反則級に可愛いんだけどなんで? なにこれ……」
「兎束さんってたまに真剣な顔で何かぶつぶつ言ってますよね」
「だ、誰のせいだと……!」
 三浦さんが可愛くて心臓が大忙しなんだよ。にこーって笑うのが可愛くて好き。表情がくるくる変わって、分かりやすいところも可愛くて好き。俺とのセックスを丁寧に進めてくれたところ、事前に色々調べて俺がちょっとでも楽になれるように気遣ってくれたところ、でも顔が見たいって素直に言ってくれたところ、全部好きだ。
 きっと何度言ったって足りない。
 足りないけど、それでも言う。好きだ、って。
「三浦さん。改めてだけど、誕生日おめでとう」
「ありがとうございます。最高の誕生日でした……特に去年度までは灰色の生活だったんで幸せの右肩上がりがエグい」
「そんなに喜んでもらえちゃうと来年も気合い入れないと――――あっ!」
 急に声を大きくしてしまった俺にも動じず、「どうしました?」と尋ねてくる三浦さん。それを受けて、俺は恥ずかしいやら気まずいやらの気持ちがない交ぜになりながら白状する。
「あの……プレゼント、すっかり渡し忘れてた……」
「あー。そういえば?」
 渡す暇はいくらでもあったのに、どのタイミングでエッチするかに気を取られすぎて頭からすっぽ抜けてた。なんかめちゃくちゃヤりたいだけの奴みたいじゃん……! 最悪すぎる……!
「最後の最後で締まらないなー……ごめんね三浦さん。こんな全裸で渡しちゃうのも更にごめんって感じなんだけど」
 サイドテーブルの引出しから小さな箱を取り出す。最低限汁やら何やらはティッシュで拭いたから手は汚くない……はずだ。うん。
 三浦さんに「開けていいですか?」と言われて「もちろん」と頷く。
「わ。ピアスだ!」
 黒く、シックな箱の中。三浦さんが中身を確認して目を見開く。よしよし、悪くない感触。どうやら最低限喜んでもらえるチョイスではあったらしい。
「ピアスホール、三浦さん的にはちょっとアレな思い出もあるかもだけど……やっぱり似合ってるし、どうせなら誕生日の思い出で上書きできればなって……」
「ふは、兎束さんっておれが昔嫌だったこと全部いい思い出と取り換えようとしてくれてるの? ありがとうございます」
 そんなご立派なものではない。これは俺のエゴだ。どうせなら、ピアスホールを見て元カノ思い出すんじゃなくて、このピアスホールに俺から貰ったピアスを嵌めようかな、って考えてほしい。俺には彼のピアスホールを増やすことはできないけれど、ピアスホールを埋めるためのものをプレゼントすることはできるのだ。
 全部俺との思い出になればいいのにな。
 そんな、恐ろしいことを思っている。
 どうやら俺は自分で考えていたよりもずっと嫉妬深くて執念深い男だったらしい。こうして両想いになってセックスまでしたというのにまだ先を求めている。好きな人のあれこれを元カノに残しておいてあげるほど俺は心が広くないのだ。全部言っちゃうと三浦さんを怖がらせちゃいそうだから、可愛らしい独占欲レベルまでマイルドにしているのである。
「見て見て。似合います?」
「ばっちり。流石俺の見立て」
「あ、珍しく自信満々な兎束さんだ」
「俺そんな普段自信なさそう!?」
「自信なさそうっていうかよくネガってるから。でも今は心配なさそうですね。めちゃくちゃ嬉しいですよ」
 会社につけていっちゃおうかな、なんてはしゃいでいる三浦さんは文句なしに可愛い。明日が平日じゃなかったら、時間の許す限り三浦さんをぎゅーってして寝落ちするまでベッドの中でいちゃいちゃするのになぁ。
 そんなことを思った瞬間、ピアスの箱から視線を上げた三浦さんと目が合った。
「明日有休取っとけばよかったですね。そしたらもっといちゃいちゃできたのに」
「――、今まさに俺も同じこと思ってた……」
「え、そう? だったら――兎束さんの誕生日のときは、有休とってずーっと一緒にいよっか?」
 それはとても魅力的で、抗いがたい誘惑だった。年度始まりで何かと忙しい……けど、ちょっと無理してでも休みをねじ込みたい……!
「超頑張って予定調整する」
「おれも頑張ります」
「だよね、俺より三浦さんの方が危ういよね、有休」
「有休余りまくっててやばいんですよ、たぶん四月になったら何日か消える。手遅れ」
「うわっ勿体な! 休もう休もう!」
「ですね」
 お互い笑い合って、そろそろひと風呂浴びて寝るか、と意見が一致した。名残惜しいけど、まだまだ喋っていたい気持ちはあるけれど、俺たちはこれからたくさんの時間を共有する。明日もあるし、来月もあるし――来年もあってほしいと思ってる。来年の誕生日も、彼と二人で過ごしたい。
「三浦さん」
「なんですか?」
「大好き。何回言っても足りないくらい」
 俺のそんなつたない言葉選びに、三浦さんは笑って同意してくれる。
「分かります。おれも、今日だけで何回『好き』って実感したか数えきれないから」
 どちらからともなく唇が触れた。
 まるで、幸せそのものみたいなキスだな、と思った。

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