羽化に唇 ▽▽▽ ( UNION / GARDEN )

INFO / MAIN / MEMO / CLAP


 由良のアッシュブラウンの髪がすきだ。気候に合わせて少しずつ髪の色のトーンが変わるから、今はちょっと暗めの色をしている。由良の性格的にもっと明るい色合いがすきなのかと思ってたけどそうでもないみたい。触ると柔らかくて気持ちいい。すぐプリン頭になる俺とは違って、こまめに手入れされているのが分かる。
「っぁ、あ、っんん……」
 顎のラインから首筋まで指を滑らせると、由良は猫みたいに頬をすり寄せてくる。甘えるみたいな仕草がかわいい。女の子の前だといつもかっこいい由良だけど、本人は末っ子の甘えんぼ気質を自称しているから不思議だ。どっちも由良であることにかわりはないけどね。かっこいいところもかわいいところも全部すき。俺の頭を撫でながらお兄さんぶってみる由良はちょっと面白い。誕生日、俺の方が早いから。
 ローションを、自分でもこれは多いのではと思ってしまうくらいに手に取って穴へとなじませる。本当は、俺に背中を向けた体勢の方が由良の体には負担がかからないみたいなんだけど、「自分の枕見ながらヤるとかぜってーヤダ」と主張されて向かい合ったままだ。俺は由良の顔を見ていたいからうれしい。少しでも負担がかからないようにしないとな、とゆっくり由良の腰を支えた。由良は細くて軽いので俺でもどうにかなりそうだ。ちょっと安心。
「んんっ……!」
「え、あ、痛かった?」
「違う、っつの。初めてだから……違和感は、あるけど。っぅ、ん」
「しんどくなったらすぐ言わなきゃだめだよ」
「んなこと考えてる暇あったら、手ぇ動かせって……ぁ、そこ、なんかヘンな感じする……」
 由良が協力的だというのもあってその穴はぬぷぬぷと柔らかそうな音をたてている。変な感じ、ってなんだろ。こんなことなら自分のお尻で実験しておけばよかった。そしたらすぐに気持ちよくさせてあげられたかもしれないのに。
 今更言っても仕方ないことなので、調べた知識を総動員して由良の体に触れる。後ろの違和感ばかり与えられるのはつらいだろうから前も一緒に触ったり撫でたりしてみた。
「ぁ……なあ、俺もっ、お前の触りたい……」
「んん、もうちょっと待って……? 今集中できなくなったらたいへん」
 お預けなんて生意気だ、と唇を尖らせる由良に謝罪の意味も込めてまたキスをした。今は由良に気持ちよくなってほしい。俺は後からたくさん触ってもらえるから。……触ってもらえるって、思ってていいよね?
 由良は、俺の手つきがもどかしかったみたいで途中からしきりに「もっと強くしていいから」と言った。中がくすぐったい、と身をよじる由良はとてもえっちで、もうちょっとだけ見ていたいかも……なんていじわるな気持ちも芽生えたりしたけど、あんまり好き勝手すると蹴られそうなのでがまん。
「んぁっ……ぁ、やっぱそこ、ヘン」
「気持ち悪い?」
「や、きもちい……ふ、ぅう」
 え、ほんとに?
 俺を見上げてくる瞳はいつもよりとろんとしていて、由良の言葉に嘘が無いことを悟る。まじまじと見つめていると、「っなに見蕩れてんだ」と若干照れたような口調でからかわれた。
「……一回目から気持ちよくなってもらえて驚いちゃった。うれしい……」
「言ったろ、得意なスポーツはセックスだって……勘がいいんだよ、何事も」
 こんなことにまで誇らしげな顔をする由良を見て、俺まで楽しい気持ちになる。いつの間にか不安は和らいでいた。由良と一緒なら大丈夫、って思えるのがすごいところだし、素敵なところだ。
 そういえば由良も、「怖いけどお前と一緒なら大丈夫」みたいなことを言ってくれた。お互いに、同じ気持ちを大切にしていければいいなと思う。
 やがて随分と指の出し入れがスムーズになって、そろそろ挿れられるかな……というくらいになってきた。由良も、小さく漏らす声には確かに快感が含まれるようになっている。思い切って、「ね、俺の触ってくれる……?」と尋ねたところ、やっとかよとすぐさま由良の細い指が俺のものに絡んだ。
「ぅ、っあ」
「俺にぶち込むまでイくんじゃねーぞ……っ」
「だ、だったら、っん、もうちょっと、ゆっくりして……」
「ふは、散々焦らされたお返し」
「うううー、ぁ、まって、そこはほんとに」
 先っぽを手のひらでくるくる撫でるように触れられて思わず腰が引けた。「挿れたい?」頷く。「イきたい?」由良も一緒にね、と返した。どうやら俺の答えは由良を満足させられたらしい。
「いいぜ、来いよ」
 俺は、由良の手によってすっかり勃ち上がってしまったものを穴のふちに擦り付ける。焦らすなといよいよ蹴られてしまったから、覚悟を決めて由良の腰を再度抱えた。

「ぅあ、っ、っ、ぁあー……ッ」
 由良がぐっと顎を反らして、白い喉が晒される。しっとりと汗をかいている由良は目を閉じていた。それは衝撃に耐えているようにも、快感を我慢しているようにも見える。目が合わないのがちょっとだけ残念だと思っていると、俺の心を読んだわけはないんだろうけどゆっくりと瞼が上がった。
「ぅ、ぐ……ほら、だいじょうぶ……だったろ?」
「ほ、ほんと? だいじょうぶ?」
「んっ……そう、言ってんだろ。ぅ、あー……処女ソーシツ、した、っんぁ」
 気持ちいいな、と同意を求められて頷く。随分と遠回りしてしまったけれど今ようやく、ようやく繋がることができた。たぶん由良は気持ちいいばっかりじゃないはずだ。むしろ苦しかったりすることの方が多いんじゃないだろうか。でも、それでも、しっかりと目を開けて俺を見て、嬉しそうに笑ってくれる。
「由良、ありがとう」
「感極まるの早すぎだろっ」
「うう、何度でも言いたい……」
「何半泣きになってんだ。ほら、まだ終わってねーんだから……ん、ちゃんと、動けって」
「も、もう動いていいの?」
 ぐいっと髪の毛を引かれる。「じっとしとく方がつらいだろ、お互いに……っ」掠れ気味の声にどきっとする。由良って自分の魅力を分かってるというか、魅力を表現するすべをしっかり知ってるよね。
 俺はいよいよ我慢ができなくなって、由良の頬をそっと撫でた。
「ふ、ぁっ」
 華奢な手を握る。体勢が変わったことで中が擦れたのか体がひくんと震えた。ずっ、ずっ、と少しずつ腰を揺する。十分すぎるくらいにローションを使ったからか思っていたよりもずっとスムーズに動くことができたのでほっとする。ほっとした途端に強く快感を意識してしまって思わず呻いた。きもちいい。
「ぁ、っぁ、あ、やば、これっ」
「んう、ゆら……っゆら、すき、だいすき」
 由良の名前が好きだ。ゆら、って、やわらかい響きがして何度でも呼びたくなる。何より、この二文字を口にするだけで俺のすきなひとが俺のことを見てくれる。そのことが、奇跡みたいだなって思うんだ。
「んっ……ちゃんと、きこえてる」
 俺もすき、と耳元で聞こえた。嬉しい。最初はゆっくりゆっくり腰を動かしていたんだけど、由良の声やしぐさに呷られてどんどん止まらなくなっていく。やばいなあと思うのに、由良に触れるたびに俺を安心させるように笑う由良を見るとなんだかたまらない気持ちになる。もしかして途中でちょっぴり泣いてしまったかもしれないけれど、由良はそんな俺にもやっぱり笑ってくれた。
「う、ぅうー、ぁ、しみず」
「なあに……?」
「これっ、なあ、チンコさわって、はやくっ、ケツだけじゃイけねーからっ……ぁ、ああ」
「わ、かった、さわるね、今からやる……っ」
 中を擦りながら由良のものも刺激するのは俺にとって割と難しい芸当だったけれど、由良にも気持ちよくなってもらいたい一心で手を動かした。「ひっ、ぅ、ぅん」とこれまで以上に甘くなっていく声がかわいくてつい手の動きが早くなってしまう。
「あっバカ、急すぎ……っぁ! あー、んんぅ……!」
「ごめん、加減っ……できな、かも」
「ぁあぁっ、あ、ひ、もう、い――――っ!」
 びくっ、と細い体が激しく跳ねて、由良のものの先から精液がとぶ。一気に弛緩した体を抱えてもう何度か由良の中を擦ると、俺にも絶頂の波がきたので自身を由良から抜いて達する。体が勝手に前傾気味になるのが不思議だった。気持ちよくて、どうしようかと思った……。
「っ……は、ぁ、イけた……?」
「う、ん。タイミング、合わせられなかった……」
 ちょっと落ち込んだけれど「お前はエスパーかよ」と笑い飛ばされて回復した。由良はまだ整わない息のまま、上気した頬で、とろんとした瞳で、自信たっぷりに尋ねる。
「俺とのセックス、どう?」
 万感の思いで応えた。「奇跡みたいに気持ちよかった、よ」完全なる本心だったのに、由良はそれが大袈裟な褒め言葉だと思ったのか冗談っぽく「恋人とのセックスのたびに奇跡を起こしちまう俺、すごくね?」と言ってからから笑っていた。
「なんつーんだっけこれ、考えるより感じろじゃなくて、心配するよりとりあえずやってみろみたいな」
「…………案ずるより産むがやすし?」
「それ! それだったな、まさに」
 なあイチャイチャしよーぜ、もっとくっつけよ、風呂一緒に入ってもいーけど、とかわいく甘えてくる恋人にめまいのような幸せを覚える。
 この、くるくる変わる表情がすきだ。すきなところなんていくつでも挙げられる。気分屋で、甘えるようなわがままを言ってくるところもかわいい。怒っていても次の瞬間には笑っている、太陽みたいなひと。俺に力をくれるひとだ。
「清水、どした? まーた何か考え中?」
「……どれだけ惚れ直せばいいんだろって、思ってたんだよ」
「マジで? 何度でもいーぜ。何故なら俺は毎日最高を更新してるから!」
 由良の言う通り、きっと今日よりも明日の方がもっとすきだ。ずっと、すきだなあって気持ちはミルクレープの層みたいに重なっていくんだろうと思う。
 俺は、今日の俺のせいいっぱいの「すき」を伝えるべく、裸の由良を抱きしめて額にキスをした。
 由良、ありがとう。昨日も今日も明日もその先も、由良のことがすきだよ。

prev / back / next


- ナノ -