羽化に唇 ▽▽▽ ( UNION / GARDEN )

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 由良が部屋の中を引っ掻き回してゴムとローションを発掘するのを、俺はなんだかいたたまれない気持ちで見ていた。「言っとくけどな、女に使った残りとかじゃねーぞ。ちゃんとお前とのこと考えて新調した。……うわ、俺らが長々グダってたから埃被ってるし!」なんていわれて余計に恥ずかしい。由良は俺の不安に先回りして嬉しい言葉をかけてくれる。俺もしっかりしないとだめだね。
「ゴムの箱開けるとこからとか引くほどムードねーな……まあ男同士でんなこと気にしてもしゃーねえか。文句言う奴もいねーだろ」
「ん、次はがんばっていいムード出すね」
「バッカお前初回も終わらないうちになに次の心配してんだ。まずは今! ここで! 頑張るんだよ」
 はぁい。そう素直に返事をするとよしよしと頭を撫でられた。由良、やっぱり俺のこと小学生だと思ってない?
 由良って末っ子だしお兄さんとは歳が離れてるから、こうやって自分が誰かの世話を焼くのって新鮮なのかもしれない。構ってもらえるのが嬉しいので撫でられるままになっておく。
「……服、脱がせたい? それとも俺が脱いでるとこ見てたい?」
 それはいつだったか、由良からお誘いをしてくれたときにも問われたのと似たような選択肢。あのときはまだ色々な準備ができていなくて擦り合いっこしただけだったんだけど、俺の想いはあのときから一貫している。
「俺に……やらせて」
「ふは、清水はやっぱ脱がせたい派? エロいねー」
「由良には、いっぱい優しくしたいんだ。だいすきだからなんでもやってあげたくなっちゃうよ」
 言い切らないうちに軽く触れるだけのキスをされた。「お前のさ、そーいうとこが……なんだろ、上手く言えねーけど、保護動物って感じがする」うーん、由良独特の言い回しだ。保護動物?
「大切にしたいって思う、ってこと」
「わ、うれしいです」
 いじらしいとか、そういう感じかな? 大切に思ってもらえるのはとってもうれしいけど、もっと頼れるかっこいい人間になりたいなとも思う。少しずつがんばっていこう。
 俺もちゃんと自分からキスをした。さっきもやってたのに、ここが由良の部屋でおまけにベッドの上なんだ、って思うとどきどきしてくる。由良はさっきに引き続きおとなしめだ。シャツのボタンをひとつずつ外して、細いからかくっきりと見える鎖骨の線と腰骨にまた緊張した。
「由良、細いね」
「お前だって細いっつーかぺらいだろ」
「運動あんまりしないからかなあ……あ、でも、持久走は向いてるって言われたことある」
「そういや体育祭で走ってたよな」
「由良はどんなのが得意?」
「ん? 得意なスポーツはセックス。バスケも割と好き」
 そのふたつ並べたらバスケ部のひとに怒られちゃうよ……。由良はからりと笑って、「なあ、続きはやく」と俺の手に指を絡める。和やかな会話で少しだけ緊張の糸が解けた気がした。
「んっ……ん、ぁ」
 本格的にキスを深くしていって、鼻に抜けるような声が控えめに聞こえてくることに小さな達成感を得る。由良は、「ん……なんか、めちゃくちゃ声出る、んだけど」と少しだけ戸惑っているみたいだった。安心させてあげたくて背中をゆっくり撫でる。……よかった、気に入ってくれたみたい。
 さすがにすぐお尻の方を触るのは急すぎると思ったしうまくできるか分からなかったから、最初のうちは前みたいにお互いのものを擦って気持ちを高めていった。由良は、得意なスポーツはセックスと自称するだけあって手つきに迷いが無い。俺の反応を見ながら「なあ、きもちい?」と優しく笑ってくれる由良にときめいてしまう。
 別に初めてってわけじゃないのにお腹の辺りがすごく熱くて、すぐ我慢できなくなってしまいそうだった。由良のものもゆっくり擦る。裏筋に指を当てて優しく往復させると、由良は気持ちよさそうに身じろぎをした。
「はぁ、っ」
「もっと……強く、していい?」
「いちいち聞くなよんなことっ……お前の好きに、やれば」
 突き放すような口調なのに俺にはそれがとても思い遣りにあふれた響きに聞こえる。とろとろと先走りをこぼしている由良のものが、俺の手でもっと気持ちよくなってくれますように……と思いながら触った。こういうときに同性だとなんか安心するね。感じてくれてるの、すぐ分かるから。それは由良も一緒みたいで、「これで勃たなかったらどうしてやろーかと思ったけど、大丈夫そうだな」なんて言ってわざと手元でくちゅくちゅ音をたてた。
「由良が……触ってくれてるって思ったら、それだけで興奮しちゃうね」
「んだよ、俺も同じだって言わせたいの?」
「んー……そう思ってくれてると、うれしいな」
 吐く息が熱い。運動してるときみたいに心臓がどきどきしてるから、やっぱりセックスはスポーツなのかも?
「ぅ、あ、……っ、ぅん」
「……んっ、ん、由良、きもちいいね」
「っは……その言い方、いいじゃん。俺も今度からそーしよ……っうぁ、バカ、急に……っ」
「ごめんね……俺のすきに、しちゃった」
「ぁ、んんっ……! チョーシに、乗んなっ」
 じゃれあっていたらいつの間にか快感を追うのがとまらなくなって、お互いがお互いの体にもたれかかるようにしながら俺たちは達した。荒い息遣いの聞こえる方を向いて、俺は今更すぎることに気付いた。
「由良、ピアスしてないね」
「あん……? ああ、そりゃ、寝起きだしな」
「起きてすぐ電話くれたの?」
「そーいうこと。けなげだろ? ……ほら、俺、怒鳴っちまったし。早く会いたかったし、謝りたかったし、まあそんな感じ」
 緊張してたから気付いてなかったけど、ピアスをつけるより前に俺に連絡をしようと思ってくれたことが嬉しい。そんな風に伝えると、由良は呆れたような顔で「俺、そこまでピアスに思い入れ無いんだけど」と笑う。
「そうなの? 似合うのに」
「そうだよ、似合うからつけてんの。でもそれだけ。兄貴は色々とあるっぽいけど俺は違う」
 そこまで言ってから、ちょっとの沈黙と気まずそうな声での謝罪。「悪い、お前といるのに他のヤツの話した」え、別に全然気にしないけど、由良にしては珍しいうっかりミスだね。由良も緊張してるのかな。本調子じゃないのかも。おそろいだね。
 大丈夫だよの意味を込めてキスをすると由良はその細い体をこちらに預けてきた。ぐいぐいと手に押し当てられているのはローションのボトルだ。あんまり焦らしすぎると拗ねちゃうかもしれないし、この辺りで覚悟を決めよう。これでもイメージトレーニングは重ねてきたんだよ。由良は俺の想像なんかは軽々と超えてくと思うから、どこまで役に立つかは分からないけど……。
 俺も男だから、決めるときはばしっとかっこよく決めるよ。ちゃんと見ててね。

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