羽化に唇 ▽▽▽ ( UNION / GARDEN )

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 我慢しちゃ駄目だよなんて言ったけど、全然余裕なんて無かった。かっこつけたくて頑張っているつもりなのになかなか上手くいかない。けど、佑護はそれでも俺についてきてくれた。
 風呂に入っている間緊張してしまって、狭い風呂場で肌が触れるたびに思わず「うわっごめん!」と言いそうになった。こんなことではいけないと気合を入れ直してからは、ちゅーしたり体に触れてみたり、自分なりに健闘したと思う。間近で見るとやっぱり身長のわりに腰が細くて、一緒に海に行ったときもこんなにどきどきしたっけ? と夏が懐かしくなった。
 風呂からあがった佑護はいつもより瞳がとろんとしていて、もしかして湯あたりしちゃったかな、と不安になる。ほんのり赤くなった肌にどきどきしながら麦茶を勧めた。喉仏が上下するのにも心臓の鼓動が速くなる。俺だって同じパーツを持っているはずなのに、佑護のはなんだか俺のと全然違うように見えた。
 掛け布団を隅に寄せて暖房をつけて大きなバスタオルをベッドに敷いて、佑護が「準備が念入り」と笑ってくれたから安心しつつベッドの上へと案内。枕の横にはちゃんと予備のタオルも置いてるよ。
「よろしくお願いします」
「ふは、試合じゃねえんだから」
「ご、ごめんつい……」
 佑護は笑いながら、俺の真似をするみたいに「俺も、よろしくお願いします」と頭を下げる。その表情からは無理をしていたりだとか嫌だったりだとかそういう感情は読み取れなかったから、俺はちょっと安心して、今日何度目になるか分からないキスを贈った。


「っぅ、ん」
 ――気付かないうちに首筋に歯を立ててたみたいで、ふと視界に入った歯型にひやりとする。若干赤くなっていたから謝罪の意味も込めてその痕を舌でなぞると、佑護の肩はびくりと跳ねた。俺のことを見上げる熱っぽい瞳が、これからどんどん綺麗に潤んでいくのかと思うと落ち着かない。
「っ、大牙」
 吐息混じりの声はいつもより低い。長めの前髪は部活に入ったことで一度切ったみたいだけれど、結局慣れなかったみたいでまた長めに戻っていた。そっと前髪を親指でよけて目尻に唇で触れる。睫毛が震えるのを数ミリ先に感じる。触れた部分はどこも熱かった。
 男同士での方法は一応調べてみたけれどあまりにも未知の世界すぎて、おまけに動画は怖くて観られなかった。別に男の体だからってわけじゃないと思う。だって、今目の前にある均整のとれた体はとても綺麗に見えたし、もっと触りたいって感じるから。もしかして、佑護だからそう見えるのかもしれない。
 まるでお互いのしたいことが分かってるみたいに、俺たちは相手に触れた。人に触ってもらうなんて初めてだけどものすごく気持ちいい。やっぱり佑護も男だからよく分かるのかな。一人でするときもこんな風に自分のを触るんだろうか。そんなことを考えてどきどきしてしまう。
「んっ、ねえ、佑護」
「は……なに」
「佑護がこんな、自分から触ってくれるなんて嬉しい」
「それは……俺だって、男だし」
 任せっきりじゃ相手もつまらないだろと言われてなるほどと思う。女の人が相手だとどうしてもこっちがリードしなきゃ、って気負っちゃうけど、そうじゃないもんね。まあ女の人とやったことないんだけどさ、こういうの。
「それに……お前のこと好き、だから、気持ちよくなってほしいって思う……」
「あ、ありがと……うれしい」
 たどたどしく好意を伝えてくれる佑護にじんわりとしあわせを感じた。俺も、佑護に気持ちよくなってほしいって思ってる。同じだね。
 佑護の手の動きを再現するように右手を動かすと、若干佑護の腰が引けたのが分かる。あ、やっぱり。佑護はここが気持ちいいんだよね?
「った、いが」
 じわりと目元が赤く染まっている。膝立ちになって佑護の後ろに回りこんだ。背後から抱き締めると困惑したような声が聞こえる。
「な、なに」
「ごめん、やっぱ正面からだとうまく触れなくって……」
 ほら、自分でするときと向きが逆でしょ? それにさ、佑護に触ってもらうのはめちゃくちゃ気持ちいいんだけど、気持ちいいからうまく集中できないし。俺は初心者だからその分頑張らなきゃ。佑護は俺のをとっても丁寧に扱ってくれたから、今度は俺の番だよ。
「俺に寄りかかっていいからね」
 ちょっとずるいかなあと思いつつ佑護の左手を引き寄せて指を絡めた。佑護はまだ混乱していて、おまけに利き手は俺が握ってるから何もできないみたいだ。ゆるく勃ち上がっているそれの裏筋に触れる指を優しく往復させると、先端からとろりと液が溢れた。
「ぁっ、」
「佑護の体、熱いね……」
 俺もだけど、風呂上りだからかそれとも汗のせいか肌がしっとりとしていた。俺が手を動かすたびに佑護の体が反応して、焦ったような声が抑えきれなくなっているのが分かって、なんだか嬉しい。俺が触ることで気持ちよくなってくれてるんだ、って実感する。
「ぅあっ、ぁ、っんん」
 太ももの内側が震えている。たぶん脚を閉じたいんだと思うんだけど、俺の腕が邪魔になっていてできないみたい。先っぽを撫でるように手をくるくる動かすとひときわ高く声があがった。
「っひ! ぅ、大牙」
「ん、佑護かわいい……」
 佑護は、きつい体勢だろうに俺の方を見ようとしてくれている。大丈夫だよ、佑護がちゃんとイったら真正面から抱き締めるよ。もうがちがちに硬くなっているそれを擦る動きを激しくすると、佑護の体が仰け反ったのか体重が一気に後ろにかかった。あ、もうイきそう? しっかりと支えて、俺は「この後」のことについても意識を向ける。ちゃんとイかせることができたら、俺ももう一回触ってほしいな。というか、これより先って、セックスって、今日このままできちゃうのかな? 慣らさなきゃだめってネットには書いてあったと思うんだけど、確かにそのままじゃ入らないよ、ね……。
 ……あれ?
 はた、と俺はあることに気付く。
 ぎゅっと握り締めていた左手をほどいて、俺は再び佑護の正面に回った。佑護の息は荒い。やっぱりその瞳は潤んでいて、「ふ、……ぁ、なんで……?」と譫言のように言われた。ん? なんでって何が?
「佑護ごめん、俺らってさ、どっちが挿れるとかって相談してなかったよね……?」
 せっかく上手くいってるかなって思ったのに肝心なところでやらかしてしまった。自分の段取りの悪さに悲しくなってくる。そもそもこんな直前まで気付かなかったのは、正直なことを言うとなんとなく俺が挿れる方をイメージしてたからなんだけど……でも、こういうのって俺だけの意見でどうこうできるものじゃないもんね。佑護だって男なんだし。さっき自分でも言ってたし。
 本当だったらちゃんと相談しなきゃいけないことだったのに、また俺一人で勝手に進めてしまった。そのことについて謝って、佑護しらけちゃうかな、と嫌などきどきを感じながら返事を待ったんだけど。返ってきたのは罵倒でもため息でもなく深いキスだった。さっきまでずっと握っていた佑護の左手が、今度は自分から俺の手を握ってくれる。
「どっちが上とか……っも、いいから」
 俺の体ぜんぶお前の好きにしていいから、はやく続きして。
 そう、言われた。涙はこぼれなかった。とろとろに蕩けた瞳は揺らいではいたけれど、真っ直ぐ俺のことを見てくれていた。俺、佑護のこと抱いていいの? 佑護は俺に抱かれてもいいって思ってくれてるってこと?
 俺の指の間をするりとすり抜けた佑護の手が、俺のものを握った。しばらくほったらかしちゃってたけど、佑護の声とか反応とかにどきどきしてたから普通に勃ってる。直接的に与えられる刺激は、やっぱり痺れるくらいに気持ちよかった。
 そこからはお互いたがが外れたみたいになって、イくまでの間相手の名前以外殆ど意味のある言葉を発せられなかった。佑護が真っ赤な顔で、ちょっと眉を下げて「っん、っ、っ、んぅ」と小さく声を漏らしているのがとても印象に残っていた。
 やっぱり、顔がよく見えるから向かい合っていたいなあ。この体勢でもちゃんとできるように練習しよう。
 そんな幸せな思考回路のまま、どちらが早かったかは分からないけど俺たちは達した。友達のままではできないことを、した。
 まだ佑護が俺を見てくれているのを確認してから、めいっぱい優しい声を出す。
「……続き、ちゃんとやるからね」
 こくり、と小さく頷かれる。俺は受け入れてもらえている。それが泣きそうなくらい嬉しくて、俺は佑護の体をぎゅうっと抱き締める。
 あたたかい体だった。脈拍が速かった。左耳の四つも開いたピアスホールが何故だかとてもいやらしく見えた。
 ――ぜんぶ、俺の好きなひとだった。

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