021.9日目『弥重の死』



 ――――PM19:00、モニタールーム

「つーわけで今日決行しまーす、はーい、楽しんでくださーい、はーい」

 プルルルルル――――

「あーもしもし? あれ、今日やっちゃってくださーい、はい、はい、どーもー」

「…………今度はなにを、企んでるんだ……」

「ほら。あそこにいる都丸、見えんだろ?
 あれそろそろ使っちまおうと思って」

「…………殺すつもりか? やめろ…………」

「うるせえハゲ黙れ」

 ドカッ――――ドカッ――――バキッ――――

「…………………………」

「…………さって。
 イッツ、ショータイム……ってか」






 ――――9日目、PM20:00、会議室

皆さんには失望しました。



空太
(会議室のテレビには、そう一言だけ表示されていた。
 シーンとしてから、徐々にざわつくみんな。

 …………画面が一度、砂嵐にかわる。
 ………………そして)
小桃
「や…………弥重……?」
勝平
「都丸…………」
空太
(画面には、目隠しをされ、椅子に縛り付けられた都丸が映っていた。
 俺たちが穏やかに過ごしていたこの数日間、ろくに風呂もご飯もさせてもらえなかったんだろう。
 元々華奢だった都丸の頬は更に痩せこけ、髪の毛は油でべたついていた)



弥重
《う…………うぅ、》



空太
(画面の中の都丸は、そう呻き声をあげた。
 …………よく見ると、都丸が座らせられてる椅子は、どこか変だった)

「くっそ! 電気椅子だ!」
花菜
「な、なんだって!?」
結翔
「うそだろ…………」
美海
「いゃっ……!」



弥重
《………………………………。
 ぅ、ぐ、ぐぐぐぎゃああああああああ!》




空太
(途端に、都丸は体をがたがたと激しく震わせ、悲鳴を上げた。
 まるで…………まるで、この世のものとは思えないような、地獄の断末魔のようだった。
 …………俺は思わず耳を塞いでいた)
空太
「っっ――――――!」
惣子郎
「やめろぉおお!! やめてくれえええ!!」
小桃
「いやああああああ弥重えええええ!!」
結翔
「うわあああああああああああ!!」



弥重
《ああああああああああああああああががががががががが!
 がががぎががががががががぁぐがががぎゃぐががががががー!》




果帆
「はぁっ……はぁっ……はぁっ」
朔也
「……………………うぅ」
和華
「っ………………っ」
空太
(果帆は過呼吸のように荒い息を繰り返し、朔也は口元を必死で押さえつけ、七瀬は耳を塞いで倒れ込んだ)
美海
「ひぃぃ、…………ぇっく…………うぅ」
由絵
「うわあああん! うわあああん!」
空太
(白百合は耳を塞いで泣きじゃくり、八木沼は大きな泣き声をあげていた)
圭吾
「くそっ! くそっ! くそっ!!」
空太
(竜崎は野球に使う大切な腕で、何度も何度も壁を殴っていた)
勝平
「……ちっくしょう……ちくしょう…………」
空太
(勝平は、膝から崩れ落ちて床に何度も頭を打ち付けていた。

 ………………、やがて)



弥重
「…………ぐ…………ぐ…………」



空太
(…………都丸は徐々に、徐々に、大人しくなっていった……。
 体から煙を立てて、黒こげになって…………そして、死んでいった…………。
 でも、電気椅子の衝撃だけはまだ受けているんだろう。体はまだ激しく揺れたままだった)
空太
「はぁ…………はぁ…………はぁ…………」
(画面がまた一瞬砂嵐にかわり、そして、文字が表示された)

都丸弥重さんは死亡しました。

皆さんのせいです。


空太
(その言葉と共に画面は暗幕した)

 ………………。

 …………………………。

 ……………………………………。


空太
(…………30分経った。
 今は会議室の椅子でみんな円を囲むように座っている。
 ……みんな、放心状態に近かった)
美海
「うぅ、ぅぅ…………」
由絵
「ぇっく…………うぅぅ」
小桃
「………………っ」
空太
(白百合と八木沼と佐倉は、ずっと啜り泣いていた)
冬司
「………………もう、時間がないよ」

「…………そうだな」
冬司
「どうする? 今日の投票……」

「今まで通りやるに決まってんだろ!!!」
空太
「っっ!」
(みんな、びくりと体を震わせた。
 アキラが声を荒げたからだ。
 怒鳴られた小田切とアキラのにらみ合いが続いた)
朔也
「アキラ…………」
冬司
「……………………」

「……………………」
(ヤバイ……やっちまった。
 美海もあんな状態なのに)

冬司
「……………………」
(……アキラも、余裕がないんだな)

「…………すまん」
冬司
「……いいよ」

 ………………。



「…………とにかく、今日は普通通りやろう。
 今まで通り…………今まで通りだ…………」

 …………………………。



「…………いいか?
 …………都丸は、死んだ」
小桃
「!!」
勝平
「…………くそっ!」

「もう、人質はいない。いないんだ…………」
惣子郎
「…………アキラの言う通りだ。
 だが、…………だが……」
和華
「…………そんな風に、割りきれないわ」
結翔
「……………………。
 …………うわあああああああああああ!!」

「っっ」
直斗
「――――!」
空太
(途端に目黒が奇声を上げた。
 目黒は席を立つと、喚き散らしながら壁をぶん殴った)
結翔
「くそやろぉおおおおお!
 ちくしょう、ちくしょおおおお!
 ああああああああ、あああああああああああああああ!!

 ……誰だよ……誰なんだよぉぉ……!
 ここから出せよ……! 出してくれよぉおおおお!
 あああああああああああああああああああ!!」
由絵
「……ああああああああああああああああ!!
 出してぇええええ! うわあああああああああああ!!」
惣子郎
「落ち着け!」
果帆
「由絵っ……!」
由絵
「ううう、ええええええん果帆おおおお!
 ううううううううううぇぁううぅぅ……!」
美海
「由絵……っ、由絵ぇええ……っ」
由絵
「美海いいいぃいい、うわああああん!」
圭吾
「目黒…………」
冬司
「目黒くん……」
結翔
「くぅ、うううううううううう!!」
勝平
「……………………」
(秋尾…………都丸を救ってやれなかった。
 …………ごめんな…………ごめんな…………)

空太
(……勝平は、周りがこれほど騒いでいるのに放心状態だ)

「…………花菜」
(わたしのそばにいて…………ずっと離れないで…………)
花菜
「……うん…………サキ…………」
(うちが、サキを守る。ずっとそばにいる。
 サキは…………サキのことだけは守ってみせる……、必ず…………)

空太
(小日向と和歌野は、互いの手を強く強く握り締めていた)

 ………………。

 ……………………。



「い、っせーの、っせ…………」


全員
「……………………。」

空太
(…………今日は、直斗と朔也だった。
 決選投票に持ち込んで、処刑は、なしだ)
果帆
「……画面が」

皆さんの考え方はよくわかりました。

本日の処刑者はいません。

ごゆっくりおやすみください。


空太
「…………ゲームの強要はしないんだな」
朔也
「…………ああ」
惣子郎
「……………………。
 …………みんな、休もう」
結翔
「無理だよ!
 あんなん見せられて、俺……、俺…………」
美海
「結翔くん…………」
結翔
「白百合…………俺、俺…………」
美海
「うん……うん…………、
 みんな、同じ気持ちよ…………」
勝平
「俺…………先に、休むわ…………」
直斗
「あ、ああ」
由絵
「待ってよ勝平!
 由絵のそばにいてよぉ!」
勝平
「よせよ、…………ひとりになりたいんだよ」
由絵
「でも由絵は、あんなの見せられて不安でしょうがないよぉ!
 勝平がそばにいてくれなきゃ、あたし……あたし…………」
勝平
「……ごめんな…………。
 …………白百合、由絵を任せられるか?」
美海
「…………うん……」
勝平
「…………大丈夫か?」
美海
「うん…………」
由絵
「やだあ!
 お願い、由絵のそばにいてよ、勝平!」
勝平
「いい加減にしてくれよ!
 俺だって疲れてんだよ! わかるだろ!?」
由絵
「っっ!」
勝平
「………………」
由絵
「う、うわあああああああん!!」
美海
「由絵…………」
勝平
「…………うるさいんだよ!」
果帆
「あ! 勝平!」
美海
「勝平くん!」
空太
(…………勝平は、八木沼を無視して走って出ていってしまった。
 ……わかる。勝平だってショックなんだ。
 責めることなんてできない、誰も)
由絵
「うう…………えっく……」
(美海のことは気遣うのに、あたしのことは気にもかけてくれないんだ!)
果帆
「由絵…………しっかり……」
由絵
「うぅ…………うぅう…………」
(……美海は関係ない…………でも、悲しいよぉ)
美海
「由絵……休みましょう」

「ちょっと待った。
 …………わかってると思うが、今日の襲撃先は俺でよろしく頼む。
 ……勝平が用心棒じゃないことを願うばかりだな」
(…………まあ奴は人狼だが)
空太
(今日は…………アキラか。
 順番的に、そっか…………)
美海
「わかったわ。…………あたしたち、部屋にいるわね。
 …………由絵、立てる?」
由絵
「うう……ごめんねぇ…………美海もっ、ショックなのにっ……」
美海
「うん……うんっ」
空太
(そうして、白百合と八木沼は出ていった……。
 果帆は会議室を出ていく二人の背中を見つめていた。
 強く、強く唇を噛み締めて…………)
惣子郎
「みんな、疲れてるんだ……。
 ここへ来て、もう9日になる。
 …………本当に助けは来るのか……」

「…………来ると信じるしかないだろ」
冬司
「……そうだね。
 …………アキラが言ったように、人質もいなくなったわけだし。
 犯人は、無理に俺たちに殺し合いをさせたいわけじゃないみたい」
小桃
「……小田切くん…………言い方に、気を付けて」
冬司
「え?」
小桃
「…………人質が、いなくなったって」
果帆
「…………そうだ。
 今のあたしらには、現実を突き付けられるのは、辛くて堪らないんだ……」
冬司
「…………ごめんね」
(……俺だってそうだよ。
 でも、みんなよりは少し冷静でいられてる…………。
 薄情なのかな、俺って……)

空太
(もう、…………みんなぐちゃぐちゃだ。
 都丸のあんな映像みたら、誰だって気が滅入る。みんな、同じだ。
 俺も…………悲痛な面持ちの果帆を、なにも元気付けてやれない。
 秋尾のときは、一瞬の出来事だった。
 でも都丸は…………なぶり殺しにされたんだ。
 犯人への怒りと恐怖で、どうにかなってしまいそうだ…………。
 …………本当に、助けはくるのか…………)
和華
「……………………」
(…………さっきまでは、あんなに平和だったのに……。
 でも、しっかり務めは果たさないと。
 今日は、…………道明寺くんだわ。
 …………しっかり、わたし。わたしがしくじったら、ますますみんなが傷付いてしまうんだから)


「…………とにかく、ここから出よう」
朔也
「そうだな…………」
空太
「……………………」





 ――――PM21:00、リビングルーム
空太
(リビングに戻っても、重苦しい空気はなにも変わらなかった。
 今は目黒も落ち着いて、誰も、一言も喋らず、時だけが過ぎていく…………)
果帆
「…………あたし、シャワー浴びてくるな」
直斗
「…………ああ」

「…………ひとりで行くの?」
果帆
「ああ、でも、もう9時過ぎてるし、一人ずつじゃ厳しいよな。
 サキと花菜もくるか?」
花菜
「…………そうだね。そうしようかな」

「…………そう、ね」
和華
「…………軽くでいいから、わたしも行こうかしら。
 …………なにもかも、洗い流したい気分だわ」
惣子郎
「……いいぞ。女子、先に入ってくれ。
 …………佐倉も。5人なら入れるだろう」
圭吾
「…………俺らも、適当にやるからさ。
 行ってこいよ」
和華
「…………ありがとう」
小桃
「…………それじゃ、あたしも行くわ。
 …………みんな、早く、休みましょう」
空太
「…………佐倉」
小桃
「? どうしたの、本堂くん」
空太
「あの…………あの、ひとりで抱え込んじゃダメだよ。
 無理しないで…………果帆も……」
果帆
「…………ああ、悪いな」
小桃
「ありがとう、本堂くん。
 …………それじゃ」

 ……………………。



「…………俺は、明日の朝入るわ」
空太
「…………俺もそうしようかな」
直斗
「俺はあとで……シャワーだけでもしてくる。
 …………なんだろうな、身体中が不快なんだ、無償に」
冬司
「…………わかるよ、その感覚。
 ……目黒くんもさ、シャワーだけでも浴びようよ。
 すこしはさっぱりするよ」
結翔
「……………………」
惣子郎
「…………各自、自由にしよう。
 今日くらい……自由に、なろう」
圭吾
「ああ…………俺もひとりになりたい。
 ……でも、ひとりでいるのも不安だな。
 目を閉じると…………どうしたって、あの、都丸の姿が……」
朔也
「言うなよ。俺だって同じなんだ……。
 …………どうしたらいい、俺たちは」

「…………大人しく、助けを待つしかない。
 何日かかろうとも。必ず来ると、信じるしかない。
 もう、なにに気兼ねする必要もないんだ。
 みんな…………少しずつ、少しずつでいいから、また」
惣子郎
「ああ。…………これまでと、同じように。
 こんな場所だけど、また、笑い合えるように」
朔也
「それじゃ、…………俺、戻るな。
 また、明日…………」

「ああ、また…………」

空太
(そうして、みんな、各々部屋へ戻って行った。

 俺も…………ひとり、部屋に戻ってベットに横たわった。
 …………竜崎が言ったように、目を瞑ると、否が応にも蘇ってしまう、都丸のあの姿…………。
 あんなものを見せられて、みんな、明日からも普通になんてできるのか?
 俺は…………できる自信がない。

 …………果帆。果帆に会いたい。
 でも…………彼女を元気付けてやることもできない。

 でも、…………こんなに心細い夜は、初めてだった)






 ――――PM23:00、花菜の部屋
花菜
「…………サキ」
(…………大丈夫かな。
 うちがそばにいてやらないといけないのに。

 ……………………。

 こんなときだと言うのに。
 いや、こんなときだからこそなんだろうか。
 うちは、今日殺された都丸さんのことよりも、サキと自分のことを考えていた。
 もし…………もしも、サキが人狼だったら。
 万が一今後ゲームをすることになっても、一緒に生き残ることはできないんだ、絶対に。

 …………うちは。
 ………………うち、は。

 …………今までは、見ないふりをしていた。
 けど、うちは、…………うちは、サキのことがことが好きだ。それは、恋愛対象としての好きだった……)
花菜
「……………………」
(…………男になりたい。
 だけどうちは、自分のことを『女』だと自覚している。心と体が違うとか、そーゆーことではないんだ。
 サキに出会う前までは、普通に男の子に恋をしたこともあった。まあそれは…………小学校が同じだった、アキラなんだけど。
 本当に淡い恋だった。仲良くなりたいとか、そんなレベルの、淡い話。
 結果、アキラとは仲良くはなれたけど…………告白とか、そんなのは考えたこともなかったな。
 今思うと、恋とすら言えない感情だったのかも知れない。

 けど、サキは…………サキは、格別だ。
 サキと出会って、人生が変わった。なんでもない普通の暮らしがきらきらと輝いた。
 …………サキがいてくれれば、それでいい。
 けど、もし、……………………。

 …………いや、こんなことは考えるのはよそう。サキが人狼だったらなんて。
 16人もいるんだ。その内、たったの3人じゃないか。確率は低いんだ)
花菜
「……………………」
(このときうちは、完全に失念していた。
 …………『裏切り者』の可能性を……)





 ――――PM23:10、小桃の部屋
小桃
「……………………」
(シャワーを浴びてから自室に戻ったあたしは、ベッドに腰掛けながら呆然としていた。
 正直言って、先日の乃木坂くんの一件から、ここ最近のあたしはずいぶん浮かれていた。
 …………それなのに。

 …………あんな、…………ことがあった。
 弥重が惨殺されるのを、ただ眺めることしか出来なかったあたしは、…………あたしは、バチが当たったのかも知れない……。
 弥重を気にかけてるふりをして、善人ぶって、そのくせに乃木坂くんのことで浮かれていたから、
 …………過去の、乃木坂くんのことで弥重を傷付けてしまった一件がありながら、罪を忘れて、浮かれてしまったから…………だから弥重は、あんなことになったのかも知れない。

 …………あたしの、せいなのかも知れない……)
小桃
「…………弥重……」
(じわじわと、涙が滲んだ。
 いっそのこと、八木沼さんのように大声をあげて泣きたかった。
 …………けれど、ショックが大きすぎて、声すら出なかった。
 ……………………そのとき)

 プルルルルルル――――

(電話が鳴った。
 相手はひとりしかいない…………乃木坂くんだわ。
 …………放っておいてほしい気持ちと、罪悪感と、焦りと、…………喜び)
小桃
「…………はい、もしもし」
(迷った結果、わたしはイヤホンマイクを装着した。
 …………混乱した気持ちで)
朔也
「≪もしもし? …………佐倉?≫」
小桃
「…………はい」
朔也
「≪…………大丈夫か≫」
小桃
「ええ…………。
 …………心配して、かけてきてくれたの?」
朔也
「≪ああ。…………泣いてるんじゃないかと思って≫」
小桃
「≪乃木坂くん…………平気よ、あたしは≫」
(嘘をついた。
 心配をかけたくない気持ちと、それでも気にかけて気付いてほしい、そんな、矛盾した感情だった)
朔也
「≪…………ごめんな。…………都丸のこと。
 俺も…………どう気持ちを整理すれば良いか、わからない……、
 けど、佐倉のことが心配で……≫」
小桃
「乃木坂くん…………あたしのせいなのかな?」
朔也
「≪うん…………?≫」
小桃
「……弥重も昔、あなたのことが好きだったの。
 秋尾くんと付き合うようになって、その気持ちは影を潜めたけど…………けど、あたし、あのとき」
朔也
「≪……都丸と、俺のことで気まずくなったんだろ?
 …………知ってる、でも、過去のことだ。
 それに…………都丸が殺されたこととは、なんの関係もない≫」
小桃
「…………でも、乃木坂くん」
朔也
「≪……………………≫」
小桃
「…………あたし、浮かれてた。
 あなたに告白して、改めて返事をくれるって言われて…………弥重のことは省みないで、気にかけてるふりをして、浮かれてた……。
 …………嫌な女なの、あたし…………」
(言いながら、涙が出てきた。
 ……こんなのじゃダメだ。彼に余計に心配をかけさせてしまう。
 けど…………)
小桃
「こんなだから、…………あたし、白百合さんには勝てないんだわ」
朔也
「≪佐倉…………美海は、関係ないだろ?≫」
小桃
「………………」
朔也
「≪……ごめんな。俺、…………美海が好きだ。
 たぶん、…………ずっと好きだと思う≫」
小桃
「………………」
(……失恋のショックも重なって、涙が止めどなく流れた)
朔也
「≪けど、…………こんな俺だけど、
 …………君の力になりたい。本当だ≫」
小桃
「…………乃木坂くんっ」
朔也
「≪佐倉…………話くらいなら、聞けるから。
 だから、…………少しずつ、元気になっていこう、
 …………みんなで、少しずつ≫」
小桃
「うんっ…………うんっ……」
(そして…………その日、乃木坂くんはただ、ひたすらあたしの話を聞いてくれた。
 支離滅裂な感情も、言葉も、全て。

 …………弥重は死んだ。……殺された。
 けど、あたしたちは生きなきゃならない。
 明日からは…………これまで通りのあたしに、みんなに戻らなきゃならないんだわ……。
 きっとあたしたちが破滅することを弥重は望んでいないから、…………彼女は心が綺麗な子だから…………。
 だから…………あたしたちは…………)





 ――――AM00:15、美海の部屋
美海
「……………………」
(12時をこえた。
 でも、あたしは中々部屋を出ることができなかった。
 15分をこえたところでようやく部屋を出ると、部屋の外で勝平くんがポケットに腕を突っ込みながら待っていた)
美海
「…………勝平くん」
勝平
「………………」
美海
「……来てたなら、ノックしてくれれば良かったのに、
 って…………勝平くんっ?」
勝平
「……………………」
美海
(勝平くんは、無言で私の手をとると、歩き始めた)
「ちょ、ちょっ、と、待って」
勝平
「…………小田切が待ってる」
美海
「………………そうよね」
(小田切冬司くん。
 …………穏やかな男の子だけど、時々鋭いことを言うことがあるから、すこし怖い。怒られるんじゃないかって)





 ――――AM00:20応接間
美海
「……………………」
勝平
「……………………」
冬司
「…………遅かったじゃない、二人とも」
勝平
「…………すまん」
美海
「違うの、あたしが、もたもたしてたからっ」
冬司
「白百合さん、…………大丈夫?
 …………勝平くんも」
美海
「…………」
勝平
「…………」
冬司
「…………二人とも、お風呂入れてないでしょ?
 俺たちには時間制限ないんだから、すこしさっぱりしておいでよ」
勝平
「…………いや。
 今日は、道明寺だったよな? 合ってるよな?」
冬司
「…………そうだけど」
勝平
「とっとと済ませよう。早く」
冬司
「どうしてそんなに急ぐの?
 ゆっくりでもいいじゃない」
勝平
「早く部屋に戻りたいんだよ!」
冬司
「………………」
勝平
「…………だいたい、なんで俺らはこんなゲームなんかやらされてんのに、
 秋尾と都丸は、あんな扱いなんだよ。
 あいつらもこっちだったら…………こっちだったらっ!!」
美海
「しょ、……勝平くん、落ち着いてっ」
勝平
「落ち着いてられるわけないだろ!
 二人も死んだんだぞ!!」
美海
「っっ――――」
勝平
「……あぁ、いや、違う。
 …………すまん。白百合……」
美海
「…………ううん、平気よ」
勝平
「…………小田切も」
冬司
「ううん、いいよ。
 …………でも、二人とも正常じゃないのは確かだから、シャワーでも浴びてきてよ。
 すこしはさっぱりするよ?

 …………その間に、俺が行ってくるから、さ」
美海
「………………」
勝平
「………………」
冬司
「………………」
(……今日みたいなことがあった。
 みんな大ダメージだったんだ。それは、用心棒だって同じことだろう。
 …………いつものように行く保証なんてないんだ。
 もしかしたら、アキラを守ってないかもしれない。もう、ゲームをする選択をしているかも知れないんだ。

 …………どうする?
 …………俺は、それを考えてた。

 もしものときは…………そのときは、俺は)
美海
「……勝平くん、どうする?」
勝平
「…………白百合、先に入れよ」
美海
「…………あたしは髪が長いから時間がかかるわ。
 入るなら、勝平くんが先に」
勝平
「…………わかった。
 …………じゃ、行ってくるな」


 ……………………。

美海
「…………小田切くん」
冬司
「うん?」
美海
「…………一緒に、行くわ」
冬司
「…………いいよ。
 一応、武器は持ってきたからさ…………ごめんね」
美海
「…………っ」
(実は、あたしたちの金庫にはそれぞれ武器が入っていた。
 勝平くんには、サバイバルナイフ、小田切くんにはネイルガン、そして、あたしには猛毒の注射針が…………。
 小田切くんは、あたしたちに見えないよう隠してあった残酷な武器をソファーの片隅から取り出した。
 ……………………そのネイルガンで、アキラを殺すつもりなんだわ)
美海
「…………小田切くんっ」
(あたしは首を振るった。何度も何度も、激しく)
冬司
「…………ごめんね、白百合さん。
 …………もしも用心棒が守ってなかったら、……俺は、アキラを殺すよ。
 …………君を守るために」
美海
「なにを言ってるの!?
 だめ、だめよ、アキラを殺すなんて、そんなのだめっ!
 だめっっ、やめてっ!!」
冬司
「…………ごめんね、白百合さん」
美海
「小田切くん!!」
(小田切くんは、そう言って駆け出した。
 あたしは必死でその後を追った)
美海
「小田切くん! ねえ、やめて! お願い!!」
冬司
「………………」
(…………ごめんね。…………ごめんね。
 でも…………何故だろう、君の泣き顔を見ると、ゾクゾクするんだ。
 君を守りたい…………その気持ちに嘘はないけど、けど、それ以上に、あなたを傷つけたい。
 そんな、歪んだ…………俺の愛情)
美海
「小田切くん!!」
(小田切くんは階段を駆け上がった。
 階段を上がって、左側、三つ目の部屋がアキラの部屋だ)
冬司
「っ…………っ!!」
(俺は、追ってくる白百合さんを無視して、アキラの部屋のドアノブに触れた。
 …………覚悟はしてた。白百合さんの目の前で、アキラを殺すつもりだった。
 けど…………)

 カチ――――

冬司
「っっ」
美海
「っ、…………ぁ」
冬司
「……………………」
(…………扉は、開かなかった)
美海
「ぁ…………ぁ、ぁ…………」
冬司
「…………用心棒……、ちゃんと、守ってくれてたんだ」
美海
「ぁ……あ、……よか、ったぁ…………」
(あたしは膝から崩れ落ちた。
 興奮と緊張と走った反動で、呼吸がつらい。
 あたしは、荒い呼吸を整えるため、深呼吸を繰り返した)
冬司
「…………白百合さん」
美海
「…………ぁ、ぇ」
冬司
「…………ごめんね、驚かせて」
美海
「…………はぁ、…………はぁ、
 でも…………失敗だったのよね。
 そうなのよね」
冬司
「うん…………用心棒が、ちゃんと守ってくれてる」
美海
「ぁ、ぁ、…………小田切くんっ」
冬司
「白百合さん!?」
美海
(あたしは、小田切くんの胸に飛び付いた。
 安堵と興奮で、頭を預けてただひたすらすすり泣いた)


 ……………………。

 ………………………………。





 ――――AM00:40、応接間
美海
「……………………」
冬司
「……………………」
勝平
「…………どうしたんだよ」
美海
(お風呂から上がった勝平くんは、あたしたちの沈鬱な雰囲気を訝しんだ。
 …………襲撃はできなかった。でも、小田切くんはアキラを殺そうとした。
 そのことがショックで、受け入れられそうもなかったの)
冬司
「…………なんでもないよ」
勝平
「…………襲撃は? 行ってきたんだろ?
 …………道明寺は……」
美海
「生きてるわ」
勝平
「……………………」
美海
「……ちゃんと、用心棒がアキラを守ってたから。
 だから…………心配しないで」
勝平
「…………そうか」
(それにしては様子がおかしいのは気のせいか?
 …………小田切となにかあったのか?)
冬司
「白百合さん…………お風呂、いっておいで」
美海
「…………うん」
勝平
「白百合! …………待ってるからな」
美海
「…………ありがとう」
(あたしは応接間を出た)
勝平
「…………白百合となにかあったのか?」
冬司
「…………なんでもないよ」
勝平
「なんでもないわけないだろ。
 …………様子が、おかしくなってる」
冬司
「……今日、あんなことがあったんだよ。
 みんなおかしいでしょ、様子は」
勝平
「……そうじゃなくて、あれは……さっきより」
冬司
「…………勝平くん、気にかける相手が違うんじゃない?」
勝平
「あ?」
冬司
「白百合さんは、アキラの恋人。
 君の恋人は…………八木沼さんでしょ」
勝平
「………………なにが言いたい」
冬司
「別に。……ただ、八木沼さんのことももっと気にかけてあげなきゃ。
 …………どうするの、彼女が用心棒だったら」
勝平
「……………………」
冬司
「……メンタルケアも彼氏の努めだと思うけど?」
勝平
「…………ちっ」
冬司
「……………………」
勝平
「……お前とは、気が合わねえな」
冬司
「…………そうだね。
 俺たちを繋げるものは、白百合さんだよ。
 ……よかった、彼女が人狼で」
勝平
「………………」
冬司
「…………それじゃ俺、先に休むから。
 それじゃあね」
勝平
「……………………ああ」


 …………。

 ……………………。

美海
(応接間に戻ると、言葉通り勝平くんが待っていた。
 一言二言会話を交わして、それからは無言で部屋まで送ってくれた。
 …………この気遣いが、由絵にも出来ればいいのに。恋人同士って、難しいね。

 あたしは髪の毛を乾かしてから、ベッドに横になった。

 陰鬱な気持ちが抜けなくて…………しばらく、眠れなかった)






――――9日目、終了



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