06 「……まさかあの体格であそこまで飛ばすとはね」 牛尾と蛇神は、駆け出すひかるの小さい背中を見ながら先ほどのバッティングを思い出していた。 「うむ。見た目と真実はまことに違(たが)うもの也」 「そうだね。彼は僕たちにとってもいい刺激になる……これなら十二支の黄金時代再来も夢じゃない」 牛尾は自分のバッテをつけている右手を見、握り締めた。 「――海堂くん」 倉庫についたひかるに辰羅川たちが待っていた。 「私は少々あなたを見誤っていました……先ほどのバッティング、とてもエクセレントでしたよ。改めてよろしくお願い致します」 「ボク兎丸比乃! よろしくね〜ひかるちゃん」 「『ちゃん』付けすんな!!」 「あはは、いいじゃん♪ カワイイんだからさ〜。ね、司馬くん!」 兎丸が司馬に話しをふると、司馬はコクリと頷いた。相変わらず、サングラスの奥の目は何を考えているのか分からない。 「司馬くんはね〜シャイだからすっごい無口なの。ひかるちゃんと同じショートなんだよ」 「海堂くん、さっきはスゴかったっすねー。あ、ボクは子津って言うっす。これからよろしくっす」 「おう! みんなよろしくな」 ニカッと太陽のようなひかるの笑みに、その場にいた天国たちはドキリとした。 満場一致の感想は、 (……かわいい……) 「あ。あと一人忘れてた」 ひかるは一人足りないことに気付いた。 なにやら固まってる天国たちを残し、ひかるは向かった。 グランドの隅で沈んでいる男の元へ。 「よォ」 犬飼が振り返る。 しかしひかるを見るなり、犬飼はトンボで整備を始めた。拒否のオーラが明確に感じ取れる。 それでも一応、犬飼は横目でひかるに問いかけた。 「何しにきた……」 「どーだ、これでボクが非力じゃねェって分かっただろ!」 「……」 ひかるはえっへんと威張るが、犬飼は一瞥し何も言わずにそっぽを向いた。 「あれ? ベッコリ? もしかしてベッコリ落ち込んでんのか?」 そっぽを向く犬飼の顔を、ひかるはわざわざ回り込んで見る。表情はニヤニヤとばかにしたような笑みだ。 「いやー、犬飼くん。相手が悪かったのだよ。そんなに気にすることないさ。ハハハ」 偉そうにひかるは犬飼の肩を……届かないので背中をバシバシ叩いた。 犬飼の堪忍袋の緒はぶちギレ寸前である。 「ボクはどんな球でも打ってみせるって言っただろ」 ふとひかるの表情が勝負前のあの不敵な笑みになった。ピリピリするような剥き出しの闘志。 尋常ではないその気迫に、犬飼は整備する手を止めてひかるを振り返った。 「……ずいぶんな自信だな」 「あ! だから見下すなっつーの!」 だがすぐに表情は戻り、ひかるは犬飼に食ってかかった。 「それは無理だな……なんていうかもう、柿の木を長い棒で盗るカツオくん並みに無理な話だ」 「むかー!」 「ジェットコースターの身長制限で引っかかるタイプだろ」 「引っ掛かるタイプ!? 身長制限を性格みたいに言うんじゃねェ!」 「とりあえず……邪魔だ。整備しろ」 完璧に犬飼に相手にされていない。 今度はひかるがムカムカする番である。淡々とトンボ掛けをする犬飼を指さし、地団駄する。 「くぉらてめェ! それがボクにホームラン打たれたヤツの態度か!? ちったァ身分をわきまえ」 「HAHA〜N☆ そこのプリティーボーイ」 「プリ……?」 ぎゃーぎゃー騒ぐのを遮ったのは、後ろから聞こえたアメリカンな言葉遣い。振り向くひかるの視界に飛び込んできたのは虎鉄だった。 「さっきのバッティング、ベラボーにファンキーだったZe」 虎鉄はバチッとウィンクをする。 「は、はぁ……どーも」 ひかるは引きつった対応だが、虎鉄は気付いていないのか気にしてないのか、更にひかるに近づいてきた。 |