04 「オレは納得しねーぞ!」 「さ、猿野くんっ」 ひかるに対する感想を部員たちが口にする中、黙っていた天国が叫んだ。 子津が止めるのも聞かず、ずいずい前に進み出た。 「オレたちは死に物狂いで入部テストに合格したんだ! それを今度はハイそーですかっつって簡単に入部させんのかよ!!」 「兄ちゃん……」 部員たちは、しんと水を打ったように静まり返った。 確かにその通りだが、入部テストを課したら、この転校生が脱落するのは誰が見ても明らかだった。 そんな中、静寂を破ったのは牛尾の後ろからやってきた羊谷だった。 「おーおー、ごもっともな正論だな」 「監督!」 タバコをくわえ、いつもの格好でやってきた羊谷はひかるの隣で止まった。 「そうだよな、コイツにだけ試験がないなんておかしな話だよな」 ニタニタと、いつもの企んだ笑みを浮かべ羊谷はひかるの頭をポンポンと叩いた。 「どうだ、ここは一つ一球勝負といこうじゃないか」 「一球!?」 「そうだ。――犬飼!」 「……っす」 犬飼が進み出る。 羊谷は手をひかるの頭に置いたまま、もう片方の手でタバコを取り言い放った。 「一球だ。犬飼の全力投球を外野に飛ばせなかったら、こいつの入部は認めん」 「なっ……」 これには言い出しっぺの天国も言葉を失った。天国でさえファールを何度も重ねタイミングを合わせたというのに、その余裕さえ与えないという。 「監督! いくら何でもそれは……」 「なんだ? おめーらは楽して野球部に入ったとでも言うのか?」 そう言われて一年生はぐっと黙らざる終えなかった。 「……上等だ」 「!!」 羊谷の手を払いのけ、ひかるが呟いた。その顔には不敵な笑みが浮かんでいる。 「サクッと柵越えてやるよ」 あまりにも大胆不敵な闘志に部員たちはみな戦慄した。 「オイ!」 ブルペンでは犬飼が肩を作っている。 その間、何とも言いがたい威圧感がグランドを包んでいた。ひかるが放っているのだ。部員たちは遠巻きに、準備体操をする小さな人物を見ている。 そんな雰囲気に天国は耐えられずひかるに近づいて話し掛けた。 「なんだよ」 「いやいやいや、なんだよじゃねーよ。サクッと柵越えなんて寒いギャグ言ってる場合かよ!?」 「なんだよ、そんなに強ェの? 犬飼ってやつ」 「そりゃーオメー、次期主将と呼び声高いオレさまにホームラン打たれたがよ。お前じゃ無理だって! いいか、今のうちにヒゲに謝れば……」 「けっ」 必死に謝罪の言葉を考える天国を一瞥し、ひかるはバットを持った。 「ボクが打てばいい話だろ」 背後で天国が唖然としているのが分かる。ひかるはバッターボックスに向かう。 犬飼とキャッチャー道具を着けた辰羅川が待っていた。 「オイ……始まるぞ……」 誰かの声で部員たちは戦々恐々、事を見届ける覚悟でグランドを傍観した。 「猿野くん。あまり彼を軽視しないほうがいいよ」 「キャプテン!」 「全米大会五位の強豪中学、層の厚い打線の四番に座っていたのは彼だ」 「へっ……? またまたぁ〜。冗談言わないでくださいよキャプテン。アメリカンジョークは外資系の仕事の時だけにしてくださいよ」 「……」 牛尾は鋭い目付きでバッターボックスに立ったひかるを見据えて、天国のジョークに反応しなかった。 牛尾だけはひかるを特別視しているようだが、他の部員は目に見えている結果を目の当たりにすることだけを想像していた。 |