野球日和 | ナノ


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03

「大変そうですね」
「うん……まあな。アメリカの女子も日本の女子も変わんないな……」

はあ、と重くため息をつくひかるの後ろに、辰羅川と犬飼が立った。
丁度教室を出るのがかぶったのだろう。

「邪魔だ……」

ドアの前にいたひかるを犬飼が見下す。

「あ?」

犬飼の迫力のある睨みにびくともせず、ひかるは威勢良く犬飼に食ってかかった。

「……あ、あのっ、こちら野球部の犬飼さんと辰羅川さんです」

凪が急いで二人を紹介した。
ひかるが喧嘩っ早いのは小さい頃から変わらずじまいである。野球部と分かれば犬飼もひかるも気を静めてくれるだろう。

「犬飼さん、辰羅川さん、ひかるも野球部に入部予定なんですよ」

ピクリと犬飼と辰羅川が反応した。

「ほう、あなたも野球部ですか」

(おそらく彼にも入部テストは実施されるでしょうね……こんな細身で……合格は怪しいですね)

「“一応”よろしくお願いします、海堂くん。私はキャッチャーで、犬飼くんとバッテリーを組んでおります」
「おう! よろしくな」

人懐っこい笑みを浮かべるひかるに、微笑で返す辰羅川は内心穏やかではなかった。
(『よろしく』ですか。合格してからの話ですよ、海堂くん……)

「あー早く野球してぇ」

辰羅川の胸中など露知らず、無邪気にひかるはぐるんぐるん腕を回して凪と歩きだした。





「おーここが十二支のグランドかぁ」

中学時代、アメリカで所属していた『ドリームズ』のユニフォームを着て、ひかるはグランドを見渡していた。

「なかなか広いじゃん?」
「な!? おっお前……!?」
「?」

後ろから驚愕する声が聞こえてきた。
振り返るとそこには、

「あー! お前は今朝のサル!!」
「その髪色……どっかで見たと思ったら……今朝のニンジン野郎!」
「『卑怯者! あんたなんかだっい嫌い!!』」
「めごぉ!」

どこから持ってきたのか、小さい黒板でひかるは天国の顔を横から殴った。

「ふ……オレ様の今の子には分からないギャグに一瞬でボケるとはな……なかなかやるな」
「うるせー! ぼくをあんなクサイセリフと一緒にすんじゃねえ」

ふーふーと天国を威嚇するひかるは、天国のユニフォームのゴロに気付いた。

「JUNISHI……お前その格好……ユニフォームまで盗んで凪をストーキングしてんのか!」
「それはこっちのセリフじゃー! オレはれっきとしたスーパーストッガーじゃ! テメーこそなんだその格好! 『ドリームズ』ゥ〜? 少年漫画みたいなチーム名だな。スポーツ少年団はけぇんなけぇんな!」

しっしっと手を振り、ぺぺっと唾を吐く天国に、ひかるの怒りは募るばかりだった。
(この……くそ野郎……いっぺん絞めたろか)
ぐぬぬ、と拳を震わせるひかるに天国は呑気に口笛を吹いている。
そこに一人の人影が立った。

「……『ドリームズ』は全米大会五位の強豪中学だよ、猿野くん」
「!」
「キャ、キャプテン!」

この十二支野球部を率いる主将、牛尾御門だ。
驚く天国を無視して、牛尾はひかるに向かい合った。

「やあ。君が海堂くんか。監督から話は聞いているよ。よろしく、僕が主将の牛尾だ」
「よろしくお願いします」
「あれ? キャプテン、誰っすか?」
「新しいマネージャー?」

ぞろぞろとユニフォームに着替えた部員たちがグランドに集合してきた。見慣れない顔を見つけて、みな不思議そうにひかるを眺めている。

「よし、大体集まったようだね……みんな! 集合してくれ」

牛尾の一言で部員たちは疑問を浮かべたまま、とりあえず整列した。

「これからみんなの仲間に入る海堂ひかるくんだ」
「えー海堂です。いちお、帰国子女でポジションはショートです。よろしくおねがいします」

軽く頭を下げるひかる。
予想外の展開に、部員たちはざわめきだした。

「え……女かと思った……」
「ちいせーなー」
「つーかあんな細くて野球が出来んのかよ」
「噂の転校生じゃね?」
「あー、アメリカ帰りの!」

 



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