03 「大変そうですね」 「うん……まあな。アメリカの女子も日本の女子も変わんないな……」 はあ、と重くため息をつくひかるの後ろに、辰羅川と犬飼が立った。 丁度教室を出るのがかぶったのだろう。 「邪魔だ……」 ドアの前にいたひかるを犬飼が見下す。 「あ?」 犬飼の迫力のある睨みにびくともせず、ひかるは威勢良く犬飼に食ってかかった。 「……あ、あのっ、こちら野球部の犬飼さんと辰羅川さんです」 凪が急いで二人を紹介した。 ひかるが喧嘩っ早いのは小さい頃から変わらずじまいである。野球部と分かれば犬飼もひかるも気を静めてくれるだろう。 「犬飼さん、辰羅川さん、ひかるも野球部に入部予定なんですよ」 ピクリと犬飼と辰羅川が反応した。 「ほう、あなたも野球部ですか」 (おそらく彼にも入部テストは実施されるでしょうね……こんな細身で……合格は怪しいですね) 「“一応”よろしくお願いします、海堂くん。私はキャッチャーで、犬飼くんとバッテリーを組んでおります」 「おう! よろしくな」 人懐っこい笑みを浮かべるひかるに、微笑で返す辰羅川は内心穏やかではなかった。 (『よろしく』ですか。合格してからの話ですよ、海堂くん……) 「あー早く野球してぇ」 辰羅川の胸中など露知らず、無邪気にひかるはぐるんぐるん腕を回して凪と歩きだした。 ◆ 「おーここが十二支のグランドかぁ」 中学時代、アメリカで所属していた『ドリームズ』のユニフォームを着て、ひかるはグランドを見渡していた。 「なかなか広いじゃん?」 「な!? おっお前……!?」 「?」 後ろから驚愕する声が聞こえてきた。 振り返るとそこには、 「あー! お前は今朝のサル!!」 「その髪色……どっかで見たと思ったら……今朝のニンジン野郎!」 「『卑怯者! あんたなんかだっい嫌い!!』」 「めごぉ!」 どこから持ってきたのか、小さい黒板でひかるは天国の顔を横から殴った。 「ふ……オレ様の今の子には分からないギャグに一瞬でボケるとはな……なかなかやるな」 「うるせー! ぼくをあんなクサイセリフと一緒にすんじゃねえ」 ふーふーと天国を威嚇するひかるは、天国のユニフォームのゴロに気付いた。 「JUNISHI……お前その格好……ユニフォームまで盗んで凪をストーキングしてんのか!」 「それはこっちのセリフじゃー! オレはれっきとしたスーパーストッガーじゃ! テメーこそなんだその格好! 『ドリームズ』ゥ〜? 少年漫画みたいなチーム名だな。スポーツ少年団はけぇんなけぇんな!」 しっしっと手を振り、ぺぺっと唾を吐く天国に、ひかるの怒りは募るばかりだった。 (この……くそ野郎……いっぺん絞めたろか) ぐぬぬ、と拳を震わせるひかるに天国は呑気に口笛を吹いている。 そこに一人の人影が立った。 「……『ドリームズ』は全米大会五位の強豪中学だよ、猿野くん」 「!」 「キャ、キャプテン!」 この十二支野球部を率いる主将、牛尾御門だ。 驚く天国を無視して、牛尾はひかるに向かい合った。 「やあ。君が海堂くんか。監督から話は聞いているよ。よろしく、僕が主将の牛尾だ」 「よろしくお願いします」 「あれ? キャプテン、誰っすか?」 「新しいマネージャー?」 ぞろぞろとユニフォームに着替えた部員たちがグランドに集合してきた。見慣れない顔を見つけて、みな不思議そうにひかるを眺めている。 「よし、大体集まったようだね……みんな! 集合してくれ」 牛尾の一言で部員たちは疑問を浮かべたまま、とりあえず整列した。 「これからみんなの仲間に入る海堂ひかるくんだ」 「えー海堂です。いちお、帰国子女でポジションはショートです。よろしくおねがいします」 軽く頭を下げるひかる。 予想外の展開に、部員たちはざわめきだした。 「え……女かと思った……」 「ちいせーなー」 「つーかあんな細くて野球が出来んのかよ」 「噂の転校生じゃね?」 「あー、アメリカ帰りの!」 |