17 結局、天国と犬飼だけではレースにならないと判断して、子津、ひかる、天国、犬飼の四人で行くことになった。 「十二時か……大分歩いたな」 四人で歩き詰めて約三時間が経過した。地図によると道のりの三割程度の所にいるらしい。 ちょうど四人の腹が鳴ったところで、休憩をとることにした。 「まかせろい。オレのかばんは魔法のかばんですよ。何でも入ってるからな」 「ホントっすか? おやつとかいっぱいっすか!?」 楽しそうにカバンを開ける天国。 しかしその中から出てきたのはおかしでも、あまつさえ食べ物でもなかった。 「誰これ……」 「いや〜!! 知るか〜〜!!」 カバンの精は静かに志村けんの真似をし始めた。 天国にも心当たりがないらしい。 聞かれた子津は全力で否定した。 そろそろ日が暮れるという頃、事件は起こった。 四人で来ていたはずが、いつの間にか天国と犬飼がはぐれてしまったのだ。 黙々と歩くことに集中していたので、いつ二人が居なくなったのか見当もつかない。 「お〜い天国〜!」 「犬飼く〜ん!!」 道を見失わない程度に戻り、声の限り叫んでみるが、返ってくるのは不気味な鳥の鳴き声ばかり。 苛立たしくひかるは頭をガシガシ掻いた。 「まったく……どこ行ったんだか……電話にもでねェしよ」 「まずいっすよ! 日が暮れてきたっす」 「しゃーねェなー。行くか」 「行くって……」 「ゴールすんだよ。ボクたちまで迷子になっちゃたまんないからな」 「え!? でも……」 「電波はあんだろ。天国たちだってバカだけどそこまでバカじゃないよ、多分」 「はいっす……」 それでも不服そうな子津に、ひかるはため息をついた。 どこまでお人好しなのか、この男。 「あのさー子津ッチュー」 「?」 「もっとハングリー精神持ってかないとお前レギュラーになれねェぞ」 「ハングリー精神っすか……」 「そう。ハングリー精神だ。ボクのようにな」 ――ギュルルルル ひかるの腹の音が辺りに響き渡る。 「それただお腹空いてるだけじゃないすか!!」 ◆ ひかると子津のペアがゴールして大分経ったのち、天国が怪我をした犬飼を背負って下山してきて、合宿第一日目のクロスカントリーは終了した。 当然野宿組には温泉に入る権利はない。皆の目を盗んでユニフォームから普段着に早着替えしたひかるは密かに胸を撫で下ろしたのは言うまでもない。 そして二十人近くいる野宿組で、ひとビンの『ごはんですか?』を分け合い夜は更けていくのであった。 |