野球日和 | ナノ


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16
『ゆかいな合宿』一日目。
午前五時、十二支高校校門前に十二支野球部の面々は集まっていた。

「よーし全員そろったか〜」

羊谷の合図で十二支野球部はバスに乗り込んで出発した。
約四時間もかけて到着した場所は、部員たちが思い描いていた老舗旅館などではなかった。

「……え? ここどこなんスか!?」
「や……宿はどこに!?」


今、部員たちがいるのは木々が鬱蒼と生い茂る山の中。旅館どころか人の気配すらしない。
狼狽える部員たちを一笑して、羊谷はタバコを地面に傾けた。

「宿……? ここだよ、こ・こ」
「!!」
「じょ……冗談じゃねーぞ! じゃあ野宿って事かよ!!」
「そうっすよ! 話が違います!」
「ゆかいな合宿って、おっちゃんが愉快なだけじゃねェか!!」

さっそく天国、子津、ひかるが羊谷に抗議した。
羊谷は右手を三人の前に広げ、企んだ笑みを浮かべる。

「ま……落ちつけ。話は最後まできけや。野宿ってもな、全員じゃねえ。野宿になるのはこの中の三分の一だ」
「!」
「これから始まる合宿メニューのペナルティとしてな」

そう言って羊谷は傍らに置いてあった段ボールから、部員に地図とコンパスを渡していく。
全員に行き渡ったところで、羊谷がまた話し始めた。

「このコンパスと地図がお前らをゴールへ導くカギとなる」
「ゴール!? って事はレースか!?」
「それにコンパスと地図って!?」
「まさか……探検ゴッコじゃねェだろーな」

イヤな予感がしてひかるが呟くと、羊谷は右手で銃の形をつくりひかるに向ける。

「ビンゴ〜さすがひかる。そのまさかだよ」
「!!」
「合宿第一メニューは、クロスカントリーだ」
「クロスカントリー……!」
「こんな山中を走らされんのかよ」

部員たちがいる山の反対側の旅館に先着四十名だけが旅館に泊まることができる。
やる気に燃える部員に、個人プレイ禁止だと羊谷は言った。

「二人組……必ず二人一組でゴールするように」

同じ学年同士でペアを組むこととなり、その組み合わせはクジ引きによって決まった。

「ボクは……Aか」

小さい正方形の紙に記されたローマ字。

「ひかるちゃん何番〜?」
「A」
「あー残念。ぼくOだよ」

ちぇー、と口を尖らせる比乃の肩をちょいちょいと叩いたのは司馬。司馬はスッとOの紙を比乃に見せた。

「シバくんもOなの? わーい!」

喜ぶ比乃を尻目に、ひかるはキョロキョロとAの紙を持った人物を探す。

「あのー……海堂くん、Aっすか?」
「ん? 子津ッチュー! もしかして一緒!?」
「はいっす」
「よっしゃ〜! がんばろうな!」

ニカッと笑うひかるに子津は体内にやる気がみるみる湧くのを感じた。
(海堂くん喜んでくれてるっす……ここは足手まといにならないよう頑張るっすよ!)
一通りペアの確認が終わると、『ヤバくなったらオレのケータイにかけてこい。すぐかけつける』と言い残しマネージャーとバスに乗って旅館へと行ってしまった。
残された部員たちは、野宿になってたまるかと、山の向こう側の旅館へと一斉にスタートを切った。


「猿野くんと犬飼くんのペア……大丈夫っすかね」

地面から出てきた木の根に足を取られないように注意しながら歩いていて、ふと子津が溢した。

「……うーん。天国の場合、凪がかかってるからな。ま、イヤでも手を組まざるおえないんじゃねェの?」

後頭部で腕を組みながら、ひかるは呑気に言った。
その直後に、

「わ゙〜んひかる〜! 真っ黒お化けがぼくのこといじめるんだよ!」
「テメーケンカすんの早すぎだろ!」

幼稚園児の格好をした天国が後ろから走ってきた。

 



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