18 ◆ ゆかいな合宿第二日目、早朝四時。 まだ練習が始まるには大分時間がある。皆はまだまだ熟睡中だ。 物音がした気がして、天国はふと目を覚ました。横を向くと、ブルーシートの端でひかるがこっちに背を向けて座っていた。 ユニフォームに着替えているのか、ベーティの前後を確認しながら、上半身裸で胡坐をかいている。 朝日がちょうど木々の間から出、ひかるの正面から射すので逆光に天国は目を細めた。 (……ほせーなー。マジで女みてー……) うとうとしながら天国はぼんやりとひかるの片腕で抱けそうな腰を見つめる。夢見心地のせいか、胸に巻かれたサラシに天国は気付いていないようだ。 ユニフォームに着替え終わったひかるは、後ろに置いてあるスポーツバックに手を伸ばそうとして振り返った。 「ん」 ひかるは天国と目が合う。 「あ……あああ、天国っ……!?」 「おー」 「なんっ……テメェいつから起きて……」 ダラダラと冷や汗がひかるの全身から吹き出る。 (後ろむいてたから大丈夫だと思うけど……) やっぱり面倒くさがらないで木の陰で着替えればよかった、とひかるは後悔した。だが後悔しても遅い。 そんなひかるの心中など露知らず、呑気に天国は眠そうに欠伸をして寝袋から這い出してきた。 「さっきだよ、さっき。にしてもオメー起きんの早すぎじゃね? 年寄りかよ」 「う、うるせェな」 (あ、危ねェ……もう少しでバレるとこだったぜ) ひかるは安堵のため息をついた。 「自主練でもすんのか?」 「まあな」 「……うし! オレ様もいっちょ付き合っちゃるか!」 そう言うと天国はごそごそと着替えて始めた。 「言っとくけど、途中でバテても知らねェよ?」 「へっ。誰にむかって口聞いてんだこのみそっかすが」 数時間後、天国が疲れ切った様子でいるのを子津が発見した。 「おはよっす、猿野くん海堂くん」 「はよー」 「おお……子津か……」 「猿野くん? どうしたっすか?」 「いや……ちょっと地球の裏まで……」 「?」 (な、なんであんだけやっといてひかるはピンピンしてんだ!?) 天国は恨めしそうに、飄々としているひかるを睨む。 体力と力には自信があるだけに、今回の朝練は相当天国のプライドを傷つけた。 クロスカントリーで使われたあの山を昨日の出発点まで戻りそしてまた登ってくる、という朝練にしてはかなりハードな運動量だった。さらに練習が始まる前までに戻ってこなければならないのでジョギングというよりは全力疾走、休憩なしで走らされた。 (なんつー体力してんだよ……) 自分より小さい体格のひかるに負けたことにショックは大きい。 朝から凹みっぱなしの天国であった。 ゆかいな合宿第二日目からは、宿から少し離れた場所にあるグランドで練習が行われる。 ウォーミングアップを済ませたところで監督から本日のメニューが発表された。 「二日目のメニューは守備の特訓だ。これより『三球同時ノック』を始める」 「三球同時ノックってあれだろ!?」 「たしか試験の時やったヤツだ」 「試験?」 「そっかーひかるちゃんいなかったんだよね」 「ぅお!」 突然比乃がひかるの横から湧いて出た。 「ぼくらは入部試験のときに体験済みなんだけど、カントクさんが三球同時にノックする中に一コだけ軟球が混ざってて、それをキャッチするんだよ」 「へー面白そうだな」 「でも前の時とちょっと違うみたいだけど」 「土色っすね」 やれば分かると騒つく部員たちを散らせ、羊谷はノックを準備をさせ一年生の明神から守備につかせた。 「一年セカンド明神です! お願いします!」 ――カカカッ 羊谷が打った。 ヤマカン戦法で一球のみを狙う明神に三球が迫る。 「!」 しかしボールがバウンドした瞬間、グランドが保護色になり姿を消した。 「明神記録0。ホラ次!」 驚く部員たちに容赦なく羊谷の怒声が降り掛かる。 土色をしているせいでボールを見失わない集中力も要求され、軟球を見分けるどころかヤマカン戦法も一切通用しなくなる。そのため一年生はおろか二・三年生までも手を焼いた。 そんな中、 「オオ! マジかよ!!」 「あの一年やりやがる!!」 |