14 「とりあえずお前は旭川動物園に再飼育だ……」 「坂内さ〜ん!! ってノせんな! こんな人気の少ねーとこにひかる連れ込んで、オレらが居なかったらナニするつもりだったんだよ!? このムッツリスケベ! ムツゴロウ!」 「いや〜ん天ちゃんこの人……そっち系のひとだったの〜?」 天国、犬飼、更には沢松も加わっての口喧嘩の最中、ひかるは呑気にお弁当の包みを解いていた。 「あーもーうるせェな。いいから飯食おうぜ、飯」 早く座れよ、とひかるは言いながらお弁当を開けた。 「バカ犬のせいでオレの昼食タイムが減んのはいやだしな」 「それはこっちの台詞だ……とりあえず」 天国と犬飼はひかるを挟んで大人しく腰をおろす。 この光景を見ていた沢松は、 (ありえねー! 天国が天敵を目の前にして大人しくなるなんて……こ、これぞ鶴の一声ってやつか……!) 何者なんだこの転入生は、と悶々と考えながら昼食にありついた。 「おー天国の弁当うまそうだな」 ひかるが天国の弁当を覗き込んできた。動作に合わせて、ふわりといい香りが天国の鼻をかすめる。 天国は突然の急接近にドキドキしながら言った。 「お、おう! オレの母ちゃんの弁当は世界一よ!」 「たまに砂糖と塩間違えるけどな」 「そうそう。だから砂糖の分、塩を倍入れればプラマイゼロよね」 「そりゃーお湯加減のハナシだろーが!!」 「ほらほら沢松くん。そのしょっぱそうな野菜炒めにも、お一つドーゾ」 「ぎゃあああ! やめろ〜デザートにしないで〜!」 こんもり盛られた砂糖に絶望する沢松。 それを見て満足げに頷く天国。 笑うひかる。 騒がしい食事に犬飼は、やっぱり違うところに連れて行けばよかったと一人食パンをかじった。 ◆ ――キーンコーンカーンコーン 本日の授業終了のチャイムが鳴った。 「ふぃー終わった終わった」 うーんと背伸びをして、ひかるは部活へ行く仕度を始める。 「ひかる!」 そこへ凪が急いでやってきた。 「凪?」 「ちょっと……」 凪が手招きをするので、ひかるは教室の隅へ凪とコソコソ話しを始めた。 「部員さんが来る前にマネージャー室で、その……着替えを……今ならまだ、先輩のマネージャーも来ませんし」 昨日はまだ入部前とあって、部室ではなく凪が見張る中マネージャー室で着替えたのだが。今回からはそうもいかないだろう。 「フフフ……心配はご無用だよ、凪くん」 「え?」 なにやら得意げに話すひかる。 「すでにベーティを中に着ているのだ、凪くん」 これならサラシを見られずに済むだろ!とひかるは言った。 「なーにコソコソしてんだ?」 「!?」 びくっとひかると凪の肩が跳ねる。 「も、もみじちゃん!」 二人が振り返ると一年のマネージャー三人衆の一人、清熊もみじが立っていた。 檜も不思議そうにこちらを見ている。 「なんでもねェよ! な! 凪」 「は、はい。なんでもありません」 「なーんか怪しいな。オイ凪。こいつになんか変なこと吹き込まれなかったか?」 「オーイ、ボクをあのサルと一緒にすんなっつーの。……あ! 冥ー! タッツー! ボクも行く〜!」 教室を出ようとしている犬飼と辰羅川を見つけて、ひかるは急いで二人の後を追った。 「犬っぽいなー、アイツ」 「可愛いかも……」 「お、どうした檜。海堂に惚れたか?」 「違うかも」 (大丈夫でしょうか……) もみじと檜の会話を聞きつつ、凪は心配そうに犬飼と辰羅川の間を歩いているひかるを見つめていた。 |