12 「はぁ? 意味分からん」 その対象となっているひかるにはさっぱり理解不能らしく、付き合ってられんと二人を置いて昇降口へと向かう。 「あっ……待ってよ〜ひかるちゃん!」 「ひかる〜授業なんて一緒にサボっちまおーZe☆」 (あーもー! 芭唐といいこいつらといい……) 鬱陶しいほどに元気な二人がひかるを追いかけ、ギャーギャーと騒がしい一日が幕を開けたのだった。 「おはよぅ……」 席に着くと隣から声がかかった。 朝の騒々しさに掻き消されそうな小さい声だったが、ひかるは隣の席に座っている少女を見た。 「あ! 確かマネージャーの」 昨日はまだ野球部だと知らなかったためにか声はかけられなかったが、大きな猫のぬいぐるみに自分と同じような背丈でなんとなく印象に残っていた人物。 その後の部活で凪に紹介され、どちらも野球部だったことが分かった。 「ヒノキ! だっけ?」 「うん……」 「隣だったんだな。よろしく!」 「……よろしく……」 (近くで見ると……やっぱり可愛いかも……) ニカッと笑うひかるに、なんだか照れてしまい一段と声が小さくなる檜だった。 「一時間目なにー?」 「国語かも……」 「日本語のベンキョー?」 「今日は、古典の日かも……」 「こてん??」 「昔の……日本の言葉……」 「へェーそんなのもベンキョーしてんのかー」 本気で檜を尊敬の目で見つめるひかる。 (心配かも……) 檜の心配は、案の定その通りになった。 一時間目、古典。 「…………ちちはは? ちち……ち、ちちうえ! あ、これじゃあ父上か」 「海堂……それ、乳母(めのと)……」 「めのと!? どーやったらそんなん読めんの!? ℃−UTEみたいに読みにくいな」 「そこ、私語を慎みなさい」 「はーい」 クスクスと笑いが教室に広がる。 普段、注目されることがあまりない檜は恥ずかしくなって顔を伏せた。 続く二時間目・三時間目もひかるは同じような調子で、檜を呆れさせるには充分だった。 (海堂といると疲れるかも……) 四時間目、英語。 「この問題文に英語で答えてちょうだい」 そういって女の教師は教室を見回した。 「じゃあ、猫胡さん。答えてみて」 「! は、はい……」 返事はしたものの、さっぱり分からず檜は戸惑う。早く答えようと思えば思うほど焦って、頭も真っ白になる。 「……I think that MARK does not go to the party if tomorrow was rainy.」 すると隣から流暢な英語が聞こえてきた。驚いてひかるを見ると、バチッとウィンクされた。 「ええと、猫湖さんに聞いたんだけど……まあいいわ。流石、帰国子女ね。素晴らしい」 それまでひかるのバカさ加減に半ば呆れ笑っていたクラスメイトは、さっきの発言でひかるはアメリカから来たのだと再確認する。 「あの……ありがとう、かも……」 「おう」 ニカッとひかるは笑った。 (女の子みたい……だけど、やっぱり男の子かも) トクントクンと鼓動の音を聞きながら、檜の脳裏にひかるの笑顔が何度もよぎった。 「冥ー! タッツー!」 チャイムが四時間目終了とお昼休みの開始を告げるなり、犬飼と辰羅川の元にひかるがやってきた。 「どうしましたか?」 「弁当! 一緒に食おうぜ」 弁当の入った包みとスーパーの袋を見せて笑うひかる。 「私は一向に構いませんが、どうですか? 犬飼くん」 「……好きにしろ」 無愛想に答える犬飼に辰羅川は苦笑する。 (確かに照れる気持ちは分かりますが……デメリットですよ、犬飼くん) 辰羅川の思う通り、気に食わなかったのか、ひかるは犬飼をねめつけた。 「なァーにが『……好きにしろ』だ! 上から目線も大概にしろよ! ボ・ク・が!! 誘ってやってんだ」 「おママゴトなら砂場へどうぞ……」 ぷ、と犬飼が笑ったとき、 |