10 「お前、オレと付き合わね?」 こう囁かれて落ちない女はいない。芭唐はそうやって今までたくさんの女と付き合ってきた。 自負ではない、確信の笑み。 しかし―― 「はぁ? どこにだよ? 主語を言え、主語を」 「……あ?」 「つーかもう夜中じゃん。ボクは帰るかんな」 少女は鬱陶しいとばかりに形のいい眉を釣り上げ、「退いた退いた」と芭唐の腕を払いのけた。 「どこにって……テメーそれ本気で言ってんのか? 今どき少女マンガの天然でもやらねーダセーボケだぜ」 少女は芭唐と離れたところで歩みを止め、振り返らずに言った。 「なんか勘違いしてんのか知らねェけど、ボクは男だぞ」 「…………はぁ!?」 あんまりな展開に呆然とする芭唐を、少女……少年がくるりと振り返る。 「お前名前は?」 「……芭唐」 「ばから? 変な名前だな」 そう言って少年は初めて芭唐に笑みを向ける。 芭唐は頬が熱くなるのを感じた。 「じゃあなー! 芭唐!」 「おい、てめっ……」 少年はブンブン手を振り、芭唐が止める間もなく走っていってしまった。 「男……」 残された芭唐は一気に疲労が押し寄せ、コンビニの壁にもたれて座った。 (まじかよ……あ゛ーやっちまった) 後悔と羞恥が押し寄せ、芭唐は頭をガシガシかいた。 ――ばから? 変な名前だな さっきの少年の笑顔が脳裏に浮かぶ。なぜだか、少年の笑顔とあの人の笑顔が重なった。 「……男ならBigにいこうぜ、か」 あの人の口癖を思い出し、声にしてみる。後悔と羞恥は消えていた。 この際、男か女かなんでどうでもいいように思えた。そんな小さいことは問題ではない。 芭唐はニヤリと口端を釣り上げた。 (惚れたほうが負けって言うしな) 01.end 勝手に用語説明 ・バッテ バッティングの時にする手袋。 少なくとも、私の県では素手でバッティングする人はあまりいない。 ・守備手(しゅびて) 守備の時にする手袋。グラブをする手だけにつける。 果たして牛尾さんのはどっちなんだろうか……。 勝手にバッテということにしちゃいました。 |