野球日和 | ナノ


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09

「……女?」

男たちの誰かが呟いた。
目を引く紅い髪を後ろで一つに結び、スポーツウェアという格好で少女は不機嫌そうに立っている。

「……へっ、なんだ。ビビらせんなよ……」
「久々の上玉じゃねーか。ん?」
「おーい子猫ちゃん、どうしたこんな夜中に。迷子か?」

男たちは下品な笑みを浮かべて少女に向かっていった。
男二人がなぜ倒れているのか分からないが(もしかしたらこの少女が倒したのかもしれないが)、あんな小柄な少女が男たちに捕まったら大変なことになる。
芭唐は急いで男たちを止めるべく手を伸ばす。

「おいっ! 早く逃げ「ぎゃァァ!」
「!?」

芭唐は今度こそ目を疑った。

「寄ってたかって狭い道を占領しやがって……」
「ぁぐ!」
「がぁっ!?」

最初の男には鳩尾に一発。少女を取り押さえようと背後に回った男には回し蹴り。
少女は迫りくる男を次々と、そして流れるように気絶させていく。
芭唐は足に根が生えたようにそこから動けなかった。
ただただ少女の動きに魅入っていた。

「このっ……クソアマぁ!!」

最後の一人は鉄パイプを振り回して少女へ向かって走りだした。
少女は迎え討とうと振り返る。

「ぁだっ!」

しかし、何故か何もない場所で少女は滑ってしりもちをついてしまった。

「あばよ!」

その隙をついて男が鉄パイプを振りかぶる。少女の顔めがけて凄まじいスピードで鉄パイプが向かってくる。
が、寸前のところで鉄パイプは芭唐が掴んだ。

「なっ……く! ……動かねぇ!?」
「力もねぇくせにちょこまかと……あ゛〜イライラする」

怯んだ男の頬に芭唐は必殺の右ストレートをきめる。
男は白目を剥き向かいの塀まで飛んで落ちた。

「おーよく飛ぶ」

少女はしりもちをついたままの格好で、男の飛んだ方向を眺めていたが、何か思い出したのかすぐに男に駆け寄った。
軽々と男を横に退かし、その場に座り込んで何かを拾った。

「ボクのプリンが……けちょんけちょん……」
「あ」

気になって芭唐が覗き込むと、コンビニの袋の中はプリンがぐちゃぐちゃになっていた。
少女の肩がワナワナと震えている。
泣くのかよ、と芭唐が思った矢先、少女がすっくと立ち上がった。
そして芭唐を振り返って、キッと見上げた。

「てめェせっかくボクが助けてやったのになんつー仕返しだ!」
「あ!? ……ぁ゛あ゛?」

改めて少女を見ると、かなり可愛い。見た目は華奢なのに、さっきの健闘ぶりや言動はかなり粗野である。
見た目と内面の落差に芭唐は少々戸惑いながらも、売られたケンカは買うのが主義だ。

「助けてやっただぁ? そりゃこっちのセリフだろ」
「うるせェ! お前明らかに不利だっただろ!」
「勝手に入ってきたのはあんただろーがよ」
「だーかーらァ! ボクは助けに「ハイハイ。オレが悪かった。これでいいだろ?」
「良くなーい!」

少女はビシッと人差し指を芭唐の目前に差した。

「弁償しろ!」


「ありがとうございましたー」

深夜のコンビニ店員のやる気のない声に見送られて、コンビニを出た少女の顔は満足気だった。
手にはレジ袋を提げている。

「なんつー女だよ……」

続いて芭唐がぶつぶつ文句を言いながら出てきた。
結局一歩も引こうとしない少女に、芭唐は意地の張り合いがめんどくさくなりプリンの弁償をすることになったのだった。
ちらりと芭唐は少女を盗み見た。
プリンを買ってもらえると分かったとたんに少女の機嫌は回復した。今では緩んだ笑みさえ浮かべている。
(プリンごときで、ガキかよ……遊びがいがありそうだな)
芭唐はニヤリと笑った。

「なぁ」

芭唐は少女をコンビニの陰に引っ張りこみ、少女を壁と自分で囲む。ついでに腕を壁について逃げ場を無くする。

「なんだよ」

きょとんと自分を見上げてくる少女に、芭唐は不覚にもドキリとしてしまった。
無理やり妖艶な笑みを作り、芭唐はいつものように言った。

 



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