09 ◆ 景王と半獣が掌客殿のそれぞれの一室に下がるのを見届けたあと、堂屋には延麒と延王だけになった。 「さて、いよいよか」 景王、延王を筆頭に慶国へ麒麟を奪還するその日が差し迫っていた。蓬莱からやってきたまだ登極もしていない王の蕾は、どうやって偽王を鎮めるのか興味があった。 延王は太い笑みを浮かべて景王が去っていった方を見つめた。 それには答えず、何か考え事がある風にむっつり押し黙っている延麒に延王は振り返った。 「どうした」 「……おれ、この一件が片付いたら、もう一度巧に行ってくる」 「ほう。何か気に掛かることでもあるか」 「いや、何と言うか……、陽子が言ってたこっちに一緒に来た胎果のことで」 言われて延王は先ほどの話を思い出す。 ――わたしの他に、もう一人こちらに流されたひとがいます。途中ではぐれてしまって安否は分からないですが、彼女を捜し出すことは可能ですか? 王と言われて頑なに自分は愚かだと否定していた陽子だが、この話をするときだけは表情に強いものを感じた。よほど大切な友なのだろう。 ――黒髪に、金色の瞳をしています。 自国であれば、各地方の衛士に特徴を言い渡し捜してもらうことは出来るが、何百といる民の中から見つけるのは難しいと延王が言えば、そうですか、と目に見えて肩を落としたのだった。 「景王の友の話か。慈悲深い生き物とは、まったく骨が折れるな」 揶揄するように言われたので、延麒は主人を睨んだ。 「あんただってカオウの話ぐらいは知ってるだろ」 「捨身木の花から生まれる、神に次いで尊い生き物。確か五山の王のような存在だったか」 「黄金の目をしているそうだ」 「まさか。その友が、そうだというのか?」 「傲霜に行ったとき翠こう宮から、ほんとに微かだが、気配がした。調べさせると、地下牢の一室に術が施してあって中は分からない」 延王はまじまじと傍らを見つめる。 カオウなど神話の中だけの話だと思っていたので、あまり真面目に考えたことはない。それを目の前の麒麟は、気配を掴んだと言う。十余年前に蓬山で蝕が遭ったと聞くが、それで流されたのだろうか。 「陽子と行動していたなら、塙王に目をつけられてもおかしくはない。塙麟が気付くからな。……カオウは麒麟の術になんて掛からない。でももし覚醒前なら、術に掛かっているのかもしれない」 「王が渡る蝕に巻き込まれた只の胎果なのか、はたまた城に捕らえられている神獣なのか……」 「これは陽子には言うなよ。もし違って落胆させたくない」 ふむ、と面白そうに呟いて延王は膝を叩いた。 「――六太、その件はお前に任せる」 |