手のなるほうへ | ナノ


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06
楓の村を午前中には出発し、一行は再び宛のない旅路についていた。
一行の探し物である四魂の欠片の気配をかごめが察知すればそちらへ向かうし、一行の宿敵である奈落の臭いを犬夜叉が嗅ぎ取ればそちらへ向かうといった次第である。そのどちらかの動きを感知するまで歩き続ける他、有効な手段はなかった。日がな一日歩き通しということも少なくはない。が、それと同じ頻度で厄介事に巻き込まれてしまうことも決して少なくはなかった。
妃奈が加わり、また新たな一歩を踏み出した一行の初日も例に漏れず。
――厄介事の始まりはかごめが立ち止まったことだった。

「どうしたの、かごめちゃん。さっきから黙ってるけど」

現代から持ってきたという自転車を手で支えながら、かごめの表情は険しい。

「うん……。微かだけど、四魂の欠片の気配がするの」
「妃奈ちゃんも?」

珊瑚に話を振られて妃奈は頷く。何やら先ほどから違和感は感じていた。微かに遠くから漂ってくる何かが妃奈の胸中を掻き混ぜている。なるほどこれが四魂の欠片の気配かと思った矢先、痺れを切らした犬夜叉が吠えた。

「それでどっちの方角だ!」
「――あっちよ」

かごめが示した方向へ、各々が急行する準備をする。珊瑚と弥勒は変化した雲母に跨がり、かごめは自転車に乗り、七宝はそのカゴに入る。
妃奈はというと、

「……おらよ」

ぶっきらぼうに、しかしどこか照れている風の犬夜叉が己の背中を示したので大人しく背負われている。がくがくと体を揺さぶる振動に負けないように妃奈を支える腕は力強い。
風の抵抗を受けないように妃奈は犬夜叉の首下に顔を押し付けた。



かごめの指示を受けながら一行が向かった先はある小さな集落だった。何の変哲もないように思えたが、近付くにつれその惨状が明らかになる。

「なんだこれは!?」

雲母から降り立った弥勒が驚愕の表情を浮かべる。
その集落は酷い有り様だった。村人たちは血を流して倒れて重なり、その腕や足、腹などが何者かによって食い千切られている。家屋も倒壊しているものも少なくない。

「おーい! 誰かおらんか!」

七宝が呼び掛けてみるも、集落はしんと不気味なほどに静まりかえっている。さらに呼び掛けようと七宝が一歩踏み出して、地面の模様に気が付いた。

「これは狼の足跡じゃ!」

地面に無数の獣の足跡がくっきりと残っている。

「数が半端ではない……。かごめ様と妃奈様、御二人の感じた四魂の欠片の気配とは」
「あり得るな。これは妖怪絡みに間違いねぇ」

犬夜叉がバキ、と指の骨を鳴らした時だった。
遠くでもやもやしていた四魂の欠片の気配が一気にこちらへ近付いてくる。
同じくかごめも感じとったようで、妃奈と同じ方向を見ながら叫んだ。

「四魂の欠片の気配が近付いてくる! それもすごい速さで……」

かごめが言い終わらないうちに、どこからか旋風(つむじかぜ)が発生してそれはやがて大きな竜巻となって集落を蹂躙し始めた。バキバキと大きな音を立てて壊れる家。だがそこから人が出てくる気配がないのは、すでにこの集落が全滅させられているからなのであろう。

「な、なんじゃ!?」
「こっちに来る!」

竜巻が土煙をあげながら一行へと猛スピードで迫ってくる。珊瑚や弥勒は右へ避け、それに続いて雲母が七宝を抱いたかごめのセーラー服の襟を噛んで引っ張る。犬夜叉は妃奈の肩を抱いて左へと避けた。

「……でっ」

犬夜叉が肩を離した途端、妃奈は足を滑らせてしりもちをついてしまった。
それを犬夜叉は呆れたように見下す。

「おめぇ、思ったよりどんくさいのな」
「……うるさい……」

妃奈は痛みで涙目になりながら犬夜叉を睨み、立ち上がろうとしたが一段と風が激しくなりそれは叶わなかった。舞い上がる砂塵から顔を守るために腕を挙げる。
犬夜叉も腕を挙げて着物の袖で顔を隠す。
一行が見守る中、竜巻は土煙を上げて激しく渦巻き、やがて土煙の中から一人の少年が姿を表した。蒼い目と尖った耳が人間ではない者の証だった。枯れ草色の動物の毛皮を腰に巻き、上半身は鎧に覆われている。
少し遅れてやってきた狼の群れが少年を取り囲む。

「風の中から……!」
「あれは人食い狼じゃあ!」

少年の向こう側でかごめと七宝が驚きの声を挙げるのが聞こえてきた。
妃奈は狼に囲まれた少年をしげしげと見上げる。少年の右腕と両足が淡く光っているのが分かる。

「んー? ……お前ら、ここのモンじゃねーな」

丁度妃奈やかごめと同い年ぐらいであろうか、少年の蒼い目は爛々と輝き自信と殺気溢れる表情をしていた。

 


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