SS

22 / 10 / 26
FE - 無題(クロード)

 アスク王国で出会ったウィノナは記憶より何倍も花車なように見えて、思わずその腕を掴んでしまった。
 俺の突飛な行動に、目の前の少女は前髪の下にある藍玉を大きく見開く。か細く吐き出された「どちら様ですか」というひと言の、あまりの他人行儀な響きに胸の奥がずんと重くなった。
「わからないか? 俺だよ、クロード=フォン=リーガン――」
 言うやいなや、ウィノナはあからさまな警戒心をやんわりと解いたものの、すぐ我にかえったふうに再び瞳を鋭くする。
 しかし、簡単に振りほどけてしまえるであろう腕をそのままにしているあたり、俺のいっさいを撥ねつけるつもりではないようだ。
「いきなり言っても信じてもらえないだろうが……俺は、お前の時代よりも五年ほど先のフォドラから喚ばれたんだ」
「五年――ああ、もしかして、千年祭の」
「おう。……まあ、それについて詳しく話すつもりはないから安心してくれ」
「助かります。そんなに事細かく説明されても困りますから」
 ウィノナは瞳をゆっくりと眇め、俺の背中越しにアスクの景色を見ているようだった。
 何を思っているのかはわからない。ただひとつ言えることは、このウィノナにとっての「クロード=フォン=リーガン」が、今ここに佇む「俺」ではないということだ。


#いいねされた数だけ書く予定のない小説の一部を書く

22 / 09 / 17
FE - 乾酪は嫌いよ(ディミトリ)

近親愛

22 / 09 / 16
FE - 「   」(クロード)

 目を開くと、そこには無機質な天井が視界いっぱいに広がっている。
 見慣れたはずのそれが私の心に安堵や康寧を与えてくれることはなく、むしろ全身の気だるさと共に、このうえない嫌悪感や不快感をもたらしてくれた。
 ――私はこの家が嫌いだ。気が休まる時間なんて一時もないし、苦痛ばかりが蔓延っている。どこにいても、何をしていてもずっと誰かに見られているようで、たとえ自室にこもっていても安らぐ暇などありはない。
 それくらい、この家に潜む人の気配はひどく大きく、苛烈で、私にいっさいの牙を向けてきているふうなのだ。
 いくら辛苦に耐えようとも目に見えた結果や心躍る成果があるわけでもないのだから、その程度はひときわである。そして何より、寝ても覚めても、待てど暮らせど“彼”から何かが来ることはなく――依然として私はたった一人、暗闇のような毎日を過ごすだけ。
 これが自分の選んだ道だとわかってはいれども、まるで彼らと共に過ごした日々が、士官学校での毎日こそが夢だったのかと錯覚するほどに、私はただ重たいだけの日常を送るばかりだった。


あなたが×××で書く本日の140字SSのお題は『夢醒めて』です
https://shindanmaker.com/613463

22 / 09 / 13
FE - とどのつまりは……(クロード)

「なあ、ウィノナ。これから、俺と一緒に授業を抜けないか?」
「はあ……? どうして私がそんなことしなくちゃいけないのよ」
「まあまあ、そう言うなって。たまにはいいだろ? 俺も一人で抜けるのはなんとなく気が引けてね。寂しいと言ってもいい」
「なら普通に出席すればいいじゃない」
「それはそれ、これはこれだ。……ま、もちろんタダでと言うつもりはないさ」
「どういうことよ」
「俺と一緒に来ることで、真面目な優等生で通ってるおまえは不審に思われるかもしれないが――その代わり、クラクラしてたまらないくらいの、とびっきりの体験をさせてやるぜ」
「……、ふうん。そう。あなたがそこまで言うってことは、さぞや素晴らしいことなんでしょうね? ……いいわ。どうせ次はセイロス教についての有り難いお話だった気がするし、あなたの提案に乗ってあげてもよくってよ」
「さっすが、話がわかるね! それじゃ、さっそく――」


あなたが×××で書く本日の140字SSのお題は『その代わり』です
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22 / 09 / 11
FE - それが最後の笑顔だった(ローレンツ)

「なんか……呆気ない卒業式だったね」
「今日までに事件がありすぎたからな。帝国の宣戦布告に先生の失踪――一年を通して波瀾だらけだったが、よもや最後の最後にかような爆弾が飛んでくるとは」
「本当だよね〜。――あーあ、とうとう家に帰るときが来ちゃったなあ」
「なんだ、ステファニー。君は家に帰りたくはないのか? リシャール家にはあの素晴らしい姉君がいらっしゃるのだ。彼女の薫陶を賜り、今まで以上に淑女として精進したまえ」
「――うん、そうだね」
「なに、士官学校を卒業しても僕たちの縁が切れるわけではないからな。グロスタール家とリシャール家にはかねてよりの交流もあるし、千年祭の日に再びまみえようという約束もしたのだ。少なくとも五年後には会えるさ」
「……ねえ、ローレンツ」
「なんだね?」
「ん……ううん、何でもないよ。じゃあまたね」
「ああ。次に会うときは、貴族としてこれまで以上に成長した僕をお見せしよう。このローレンツ=ヘルマン=グロスタールをね……!」


あなたが×××で書く本日の140字SSのお題は『またね』です
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22 / 09 / 09
FE - これぞあなたによく似合う(クロード)

「金合歓?」
 ウィノナの細腕に抱えられる、目いっぱいの花束。パルミラではめったに見ないふわふわの花は眩しいくらいの黄色をしていて、明るい色の葉っぱも手伝い、目の前の男を想起するに充分すぎるものだった。
 ほんのりとした優しい香りも相まって、ウィノナにとってはひどく安らぐ様相である。
「ああ。旅の商人から買いつけたんだ、このあたりじゃ見ない花だったもんでな」
「へえ……ふふ、素敵ね。あなたみたいな色をしてる」
「おいおい、どれだけ俺のことを考えてるんだ? 俺はおまえに似合うと思って目に留めたんだぜ」
「あら、私が四六時中あなたのことばかりなのはもう既にご存知なのではなくて?」
「……まあ、そうだが」
「そうでしょう。なら、つべこべ言わず素直に私に想われておくことね」
 釈然としなさそうな顔のクロードであるが、その頬には確かに幸せの色が見て取れたのだった。


あなたが×××で書く本日の140字SSのお題は『君に花束を』です
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22 / 09 / 06
FE - 「反省してる?」(クロード)

「だから言ったでしょう、根を詰めすぎるなって。日頃から口を酸っぱくしていた理由、これで理解してもらえたかしら?」
「すまん……」
 ぐうの音も出ない、とはまさにこれ。寝台に沈み込んで渋い顔をするクロードは、頭上から降ってくるウィノナのお説教に少しも反論できなかった。彼女の言うことはすべてごもっとも、正論以外の何物でもなかったからだ。
「わかってくれたのなら、それが治りきるまでずっと大人しくしておくことね。公務はもちろんのこと、むしろ寝台から出るのも極力控えてもらうわ」
「それはさすがに――」
「暴飲暴食も厳禁。よろしくて?」
 美人は凄むと恐ろしい。士官学校にいた頃から実感していたことだったが、よもや今になってこんなにも強く突きつけられることになるとは――
 クロードは静かに目を閉じて、最愛の妻から発せられる優しくも痛烈なお言葉たちを子守唄にしようと試みるのだった。


あなたが×××で書く本日の140字SSのお題は『体調不良』です
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22 / 09 / 05
FE - 目の前にいる君だって(ルキナ)

近親愛

22 / 09 / 01
FE - 傾きだしている(クロード)

誰かといると安らぐなんて、いつからそんなふうに思うようになったのだろう。よもや自分が誰かの隣で安息を得るようになるなんて、今までちっとも考えたことがなかった。編入先の金鹿の学級はなぜだかひどく心地が良くて、賑やかで奔放な気風が、いつしか私の心をわくわくと浮くような気分にさせていたらしい。そして、その中心に立つ人物――クロード=フォン=リーガンが私の手を引くたびに、私は言いようのない感情に苛まれ、気づけばただの学生のように、士官学校での日々を楽しむようになっていた。


あなたが×××で書く本日の140字SSのお題は『私の中の不可解な感情』です
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22 / 08 / 29
FE - 頼むから……(ディミトリ)

近親愛
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