愛しさを抱いて | ナノ

先輩静雄×後輩臨也
やがてそこは安らぎの場所に変わる』続編



 臨也と付き合ってから、静雄はどこにいてもキスをするようになった。学校に居ても、一緒にご飯を食べていても、静雄は気がつけば臨也を見つめている。そして臨也がその視線に気がつき、なにを見ているのかと聞くと、静雄はそのままキスをしてくるのだ。臨也からすれば、恥ずかしったらない。

(シズちゃんってキス、好きだよな…)

 ところかまわずしてくるのは少しアレだが、嫌ではない、と臨也は思っている。優しい口づけから静雄の優しさが伝わってくるからだ。キスした後にシズちゃんは俺の顔を見て、鼻で笑う。そして頭を撫でてかわいい、と言うのだ。その言葉に顔が赤くなるのを感じていると、なおさら静雄は笑うのだ。



 愛しさを抱いて



 人間の欲とは、底知れない。
 付き合ってから、二ヶ月。数週間後には夏休みに入る。徐々に気温があがり、冷房がかかせない季節となった。
 あれから。五月の体育祭から付き合い始めてからは、静雄と臨也は校門でおはようと声を掛け合い、少しの話をして自分の教室へと向かう。お昼休みには一緒にご飯を食べて、放課後はまた一緒に帰る。言ってしまえば、それだけであった。
 最近はテストも終わり、短縮日課が多い。帰りの途中で静雄の家に行き、宿題をやったりただ話をしたり。そんな日々が続いていた。ベッドがひとつしかない静雄の部屋で、二人寄り添って寝た事だってあった。けれど、

(それだけなんだよなあ…)

 なにか、もっと、と期待してしまう。
 今日もまた、明日が土曜日とあって臨也は静雄の家に泊まる事にした。泊まる事は最近日常的になっている事もあってか、静雄の家族も笑顔で受け入れていた。

「寝るか。ほらもっと奥詰めろよ」
「押さないでって」

 静雄は俺の背中を抱きしめるようにして寝る。寝顔が見る事ができない臨也は静雄から寝息が聞こえてくるのを確認すると身を捻って静雄の寝顔を確認していた。
 今日もまた静雄は臨也の首もとに顔を埋め、寝ようと口を閉ざした、時だった。

「ねえシズちゃん、」
「あ?」
「しないの?」
「……ああ?」

 数秒おいて、静雄は驚いたような声をあげる。何を、なんて無粋な事を言うことはなかった。きっと意味はわかってくれたはず。
 『俺はしたい』と言った静雄は、臨也とどうなりたかったのだろうか。キスだけで、足りている?

「すげえ誘い文句だな…」
「だってキスはやたらしてくるのに、それ以上の事はしてこないし」
「手前なあ…」
「シズちゃんはそれで満足しているのかと」
「冗談言うな。自制してるに決まってるだろ」
「なんでさ」

 もぞもぞと薄い掛け布団を引っ張りながら身をよじり静雄と向き合うと、想像と違った表情がそこにあった。

「な、なんで顔が赤いのシズちゃん」
「手前もな!」

 俺のこれはシズちゃんのが移ったの!
 静雄が赤面しているなんて、珍しい光景だった。キスをしてくる時だって、静雄は恥ずかしいような態度は見せる事はなかった。はじめてしてきたときから、ずっと。

「いいのかよ、しても」
「俺が言い出さなきゃしないつもりだった?」
「いや…時期を探ってた」

 静雄が上半身を起こし、あー、と頭を掻くと「するか」と一言いった。
 する? って今?
 下には静雄の両親も、隣には静雄の弟である幽だって寝ているはずだ。それなのに、静雄は今からすると、言った。

「い、いや、別に今からしたいとかじゃなくて」
「なんだよそりゃ」
「しかもご両親とか居るしさ…」
「こういうのってなんつーの? 勢いっつーか流れが大切なんじゃねえーのかって」
「勢い…ね…」

 確かにこのままずるずると時間を無駄にするのか。次したいと思った時にはっきりと「したい」と言えるものだろうか。
 臨也は寝ころびながらうーんを声をあげる。静雄は臨也の上に覆い被さり、赤い瞳をじっと見つめた。
 あの時と、屋上で告白した時と同じ、真っ直ぐの瞳。こうなっては静雄の意志はかわならいのだと臨也は知っている。ちらりと視線を外して、もう一度静雄を見やる。

「痛かったらやめるよ」

 静雄の首に腕を回し、ぎゅっと抱きしめる。耳元で囁くように言うと、「理性が続けばな」と、ふっと笑いながら言った。



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(20120305)

次はエロのターンにはいります…ねちっこく


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