やがてそこは安らぎの場所に変わる2 | ナノ





続きです



新入生はまず教室に集まって、出席を取る。
あいうえお順に並んだ席。
俺は新羅の隣という偶然に見舞われて、入学式まで教室待機を担任から告げられた。

「高校でもよろしく臨也」
「また同じクラスかと呪われてるのかなあ」
「酷いな、それを言っていいのは僕のほうだ」

通路側になる俺の席から空は遠くて、退屈な式までしばらく時間があった。
思い立ったように席を立つと新羅は呆れたようにため息をついた。何?

「やっぱりサボるのかい?」
「暇だから屋上行ってくるだけ」
「ここって屋上が開放されているんだ?」
「……さあ」
「さあって……相変わらずだなあ全く」

じゃあ後でねで適当に手を振りながら校内の探索をかねて屋上を目指す。
1階が3年、2階が2年、3階が1年の並びから今この階には皆、お行儀よく式を待っているのか誰も廊下に出ては居なかった。
優雅に廊下の真ん中を歩いて、窓から外を見るときれいな青色が目に飛び込んだ。

(きれい、だ)

自然に足は屋上に向かっていて、開放されているかなんてもう問題では無くなっていた。
3階からまた階段を上がって屋上までたどり着く。
導かれるようにドアノブを握ると、ぐるりと回ることなもなく、鍵もかかっていなかった。

(これ、壊されてない?)

全く手ごたえの無いされはただの押し戸のようになっていた。
まあ屋上に出られるなら何だっていいかとドアを引くと真っ青な空とぽつんと黄色の頭が俺の視界を支配した。
黄色と青のコントラストはなんだか不思議で、なんだか落ち着いた。

フェンスに手をかけ、ただぼんやりと空を眺めているその人は俺に気づいた様子はなくて、

「空、きれいだね」

知らぬ間に声は喉を通り抜け、そこに居た金髪の人が振り向いた。
その人は不審そうな目を向けて、眉を寄せる。

(胸元に花飾りがないから新入生じゃないか、って新入生が金髪にしてたらさすがに怒られるよなあ)

「先輩、名前は?」
「手前、式はいいのかよ」

それはこっちも言えることだよね、と思う。
確か在校生も皆入学式には出席するはずだ。

「別に出なきゃ入学できない訳じゃないしね…で、名前なに?」
「……平和島、3年」
「平和島?なに?」
「静雄、」
「じゃあシズちゃん先輩!」
「手前は」

「あ、俺?折原臨也、よろしくシズちゃん」

にっこり笑うとシズちゃんは面倒くさそうな顔をしたが、どっか行けとも言わずその日は二人で空を見た。
チラリと隣を見ると、何も言わず空を眺めるシズちゃんの顔があって、なんだか目が離せなない。

「なんで空ってつかめないんだろう」

そしたらシズちゃんは俺のほうを見てくれるだろうに。







「………好き?」
「所謂、一目ぼれってやつ?」
「聞くな!っつか前に会っただけだろうが!それで好きとか手前…」
「だから一目ぼれだって言ってんじゃん」
「知らねえよ……」
「俺これでもモテるんだよ?男にも」
「聞いてねえよ!つか手前それでどうしたいんだよ」
「どうって?何が?」
「だから俺と、その、き、キスとかしたいのかって聞いてんだよ。好きなんだろ、俺が」
「うわ、なんかシズちゃんかっこいい」
「聞けよ!」
「うーん、そうだなあ……キスしたかったりセックスしたかったりっていうより」
「普通にセックスとか言うなアホが」
「良いじゃん、そうゆう意味でしょ?……で俺はそんなんより、」

そんな愛の求め方じゃなくて、俺はただ空を一緒に眺めて一緒に空について語ったりしたい。

臨也は弁当の卵焼きを口に運びながら呟いた。
良くわからない奴。
ふと頭に浮かぶその言葉に、今さらか、と笑うと臨也が不審そうに此方を見る。
何でもねえよ、そう答えるとふーんと興味が無さそうに視線を弁当に戻していった。

(好き、なあ)

浮かんだのは驚きだけだった。
嫌悪感も無ければ馬鹿にしようとも思わなかったのだ。
これはどう対応していいのかわからない。ああ、それは今に始まった事ではないかと再度納得する。
最後のミートボールを箸で摘まんで口へ運び、適当に弁当の片付けに入ると、臨也も慌てて残った惣菜を口に含んで片付けを始めた。
別にさっさと教室に帰る訳でもないのだから焦る必要などないのに。

「…っね!シズちゃん。今日一緒に帰ろう!」
「全力で断る」





5限の予鈴のチャイムが鳴り、俺は立ち上がると寝そべっていた臨也も渋々身体を起こし屋上を後にする。
出会ってすぐなのに結局一緒に飯を食っちまったのか、と階段を下りながら思う。

さっさと教室に帰れと臨也を促すとえー、と避難の声を上げる。なんなんだコイツ。

「静雄、」

ふいに教室の方から名を呼ばれ振り向くと案の定門田で、その手には俺の体操着が握られていた。

「ああ、次体育か」
「早くしろよ、遅刻するぞ」
「あ、俺も体育だった気がする」

じゃあ尚更早く帰れ教室に!
面倒臭いだのなんだのとふて腐れている臨也は頬を膨らませているが、それは決して高校男児がするものではない。
数ヶ月前まで中学生だったとしても、だ。

「サボるなよ」
「じゃあ一緒に帰ろうよ、放課後」

…数時間前のやり取りと全く同じ手口に青筋が浮かぶのはどうしようもないと思う。不可抗力だ。
急かす様に静雄、とまた名前を呼ばれてすぐ行く!と返す。
無駄に自信があるのか腕を組んで強気に俺を見る臨也にため息しか出てこない。

「なあ、知ってるか」
「何を?」
「ここはな、新入生歓迎を込めて体育祭が5月の頭にある」
「……へえ、珍しいね」
「まあ実際は、新入生歓迎、なんて甘いもんじゃなくて……1年に色々教えてやるんだよ」
「どうゆうこと?」
「練習しねえと、フルボッコにされるってこった」

2、3年は手加減なんてしねえからな。良い歓迎だろ?
そう告げるとサーッと臨也の顔から血の気が無くなっていくのがわかる。
コイツが体育が得意かなんて知らないが良い刺激になればいいと思うし、サボろうなんて思わなくなるだろう。

「……着替えてくる」
「おー」

案の定臨也は重い足取りで教室へ帰って行った。
取り巻きからやっと解放された、と息をつく暇もなく痺れを切らした門田に少し怒られた。早くしろ!と。





「告白された?」
「ああ」

準備運動を整列して軽く行ってから校庭に2周するいつものメニュー。
皆が団子のようになって走るので順番だった列も次第に崩れ、俺の隣には門田が居た。
一緒の昼飯はどうだったのかと聞かれて、あった事を話すと、またもやデジャブ。
門田は鳩が鉄砲玉を食らったような顔をした。

「一目惚れ、だと」
「へえ、……で、どうすんだ?」
「何がだ?」
「付き合うのか?断るのか?」
「ああ…」

そうか、答えをださければいけないのか。
当たり前のような事をぼんやりと思う。
告白された事など今まで無かったし、しかも相手は男だ。どうすれば、いいのだろう。
走る足を止めずに俺は空を仰ぐと、真っ青なそれが視界いっぱいに広がる。
アイツはキスがしたい訳でも無く、ただこの空を一緒に眺めたいとそう言った。
だが、それは――……

(ただの友達じゃ違うのか?)

太陽の眩しい光に目を細めていると、隣を走る門田が同じように空を仰いだ。

「ま、朝一緒に校門くぐって、休み時間に教室に来たり、昼飯一緒に食ったり、一緒に帰ろうと言ってきたり…もう付き合ってると言ってもおかしくないけどな」

門田のその言葉を否定出来ずに、校庭を走り終えた。






放課後は結局臨也が教室まで来たせいで一緒に帰る羽目になり、次の日から…俺達は付き合っているかのような毎日が続いた。
朝、校門に臨也が居て。
昼、屋上に臨也が居て。
放課後、俺の隣に臨也が居た。

俺なんかに関わっているせいで、折原臨也の名前は1ヶ月も経たないうちに学校中に広まっていた。
俺の中では変な奴、から物好きな奴、ぐらいにしか変化していない。
そして、告白の答えも未だ告げてはいない。


「シズちゃんは体育祭、競技は何に出るの?」
「騎馬戦」
「え、それだけ?少なくない?とゆうか、騎馬戦って男子全員で出るやつじゃん」
「だから、それしか出ねえ」
「……あぁ、サボるって事」
「うっせえ。1年の手前はせいぜい頑張れよ」
「うっわ、シズちゃん最低」

毎日他愛ない会話をして、終わる。
それこそただの友達のような関係。あの告白だって無かった事になっているかもしれない、関係。
牛乳パックを手に取って残った牛乳に一気飲み。
いつもと変わらない、それこそ初めて会った時から変わらない臨也の横顔を一瞥し、ふと空を見るとそこにはやっぱり何も変わらない青色があった。


「シズちゃんが好きだから」


「なあ、」
ふと臨也を呼ぶと、箸を止めて赤い目がこちらを見る。

「俺の事、まだ好きなのか?」

俺は普通に、手前は大トロが好きだったよな?とかそんなレベルで疑問を投げ掛けてみる。
臨也は数秒きょとんとしていた。




「うん。好きだよ」




その柔らかい声が響くまでは。



「―――……っ、」

初めて、驚きとかそんなのではなく、恥ずかしいと感じた。
今まで見たことが無いような優しい笑みで好きだと言った臨也。
その「好き」は間違いなく俺に向けられたもので。
意識した途端、臨也から視線を外してしまった。

「…え、何、シズちゃん」
「何でもねえ!」
「そうなの?…よくわかんないなあ今日のシズちゃんは」


「うん、好きだよ」

クスクス笑う臨也は、決して俺からの答えを聞こうとはしなかった。
答えられる自信も無い。
だが、喉まで出かかった何かがあったのを、俺は気づいていた。


『俺も――…、





(20100806)


変化し始める2人。
どうしてもギャグ要素が入らなくて…スミマセン…
つか青春と言うか…甘酸っぱい高校生活やなコイツ等!


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