そこはやがて安らぎの場所に変わる3 | ナノ




続きです



臨也から2度目の告白を受けてから数日が経って、世間でいうゴールデンウィーク明け。

本日、快晴。




「赤組は日陰、だな」

体育祭当日、教室から自分の椅子を校庭に運び出しクラスに分かれて着席する。
1・2年ではずっと白組だった俺は毎年この日差しの中応援合戦やらをやらされて、何度もキレそうになったのはもう良い思い出だ。

だが、赤組はちょうど後ろにある木々のおかげで日陰になる場所が多い。
俺は最高学年にしてようやくベストポジションを手に入れることができた訳だ。

毎年暑さに耐え切れずにサボり気味だったが今年は楽しめそうだ、と袖をまくる。
だがやる気満々だな、と門田に笑われてしまい少し恥ずかしかった。


取り敢えず席の場所は取れた。
さて、と立ち上がり未だ始まる気配のない校庭を見やる。
8時頃でもそれなりの暖かい日差しが照りつけるそこは、前日、体育委員によって綺麗に整備されていた。

ちらほらと準備に追われる生徒が校庭を行き来し、せわしない。
だが俺の心はどこか落ち着いていた、はずだった。


「シズちゃん、おはよ」
「お、う」

いつものあだ名を呼ぶのは当たり前のように臨也な訳だ。

白い体操着からすらりと生える白い腕。
芋色の長いジャージのズボンを履いた、臨也。

……一瞬目を疑った。
白すぎやしないだろうか、と。

「……?、何?」

不思議そうに首をかしげる仕草で露になる首筋の白さにまた唖然とした。

「白すぎねえかお前、大丈夫なのかよ」
「あーうん、よく言われる。焼けにくいだけだから大丈夫だよ」
「……そう、か」

白組なはずの臨也は当たり前のように俺の隣に立って、今日の体育祭の意気込みやら何やらを話し始めた。

俺というと全く臨也の話が耳に入ってこずに、ただその白いうなじばかりに目がいってしまうのだ。

(なんだってんだよ、一体)

自分でもよくわらない感覚に頭を悩ませる。

そんなときだ。

ふと離れたところにいる赤組の生徒が目に入る。
二人組のそいつ等がこちらを見ているのだ。
いや、詳しく言うと臨也を見ている、ようだった。
俺がそちらを見ても気づいていない様子から一目瞭然だ。

白組の奴が赤組に居て気に入らないのか、とも思ったがまだ競技おろか開会式もまだなこの状態で、そんな妬ましく思うだろうか。
答えは否だろう。じゃあなんだというのだろうか。
むしろなぜ俺は、

(臨也に向けられてる視線を気にしてんだよ)

「ねえ、シズちゃん聞いてる?」
「あ?聞いてねえ」
「……そこは嘘でも聞いてるって言うべきところだから」
「じゃあ、聞いてる」

臨也は俺のことを呆れたような目でこちらを見、頬を膨らませた。
……だからそれは高校男児がする仕草ではない。

「かわいこぶんな」
「いやいや、シズちゃんに呆れてるんだよ!」


そうかよ、と向けた視線を前に戻した。

「俺、モテるんだよ?男子にも」

出会ってすぐの臨也のセリフが蘇った。
あの時は何を言っているんだと流したが、まさか。

またあの場所を見ると、もうそこには誰も立っては居ない。


「折原ヤバくね?あの白さ」
「腰めっちゃ細いし」
「あ、やべ、俺折原相手なら――」



「いやいやねえだろッ!」
「なっ何んだよいきなり!」

臨也は黙って聞いているものだと思っていた俺が突如大声をあげたために大きく肩をビクつかせた。
俺はというとぶんぶん頭を振って聞こえていないはずの会話をかき消す。
今のは俺の想像であり、真実ではない!

「ってどんな想像してんだよ!」
「…ねえシズちゃん本当に大丈夫?頭ヤられた?」
「ヤっ……!!!」

何を言ってんだ!と声を上げそうになった時、臨也!と聞き慣れない声に俺も臨也も振り向くと、黒髪で眼鏡をかけた白組の奴が居た。
ああ前に臨也から聞いた事がある奴だ、確か…

「なにさ、新羅」
「HRは各クラス場所でやるんだよ、早く来てってさ」
「え、面倒く」
「…行ってこい、臨也」

臨也の口癖になりつつある面倒くさいの言葉に被せ気味で返すと、むっとした表情でこちらを見た。

子供のような臨也の反応にクスリと笑みを溢してしまい、別に一緒に居たくない訳ではない、と言いそうになった事にはっとする。
そんな俺の横では新羅の促しによって臨也はわかったよと小さく呟いた。


「……じゃあ、また後でね」

臨也の言葉にああ、と焦り気味に返事をすると、あの白い腕が視界に過った。

なんとなく、そう、なんとなくだ。

聞こえもしない他の奴らの会話を思い出して、椅子に掛けてあって上着をぐっと握った。

「ぅわっ!」
「……あんま肌、出すな」

臨也に自分の上着を投げ掛けると何度か臨也は目を瞬かせ、びっくりしたような赤い目がこちらを見据えた。
視線を落としジャージを見るとまたこちらを見て、嬉しそうにジャージを握りしめた。

「……早く、行けよ」
「うん、」

綻んだ笑顔でありがとうと臨也は手を振り、背中はどんどん小さくなる。
呼び止めそうになるそれ。

気づいてしまった、もの。

ただ気づかないフリをしていただけかもしれないそれに気付いた時、そう焦りはしなかった。

「シズちゃんが好きだから」







青空に一番近いこの屋上が好きだった。

ギィ…と俺が無理やり開けたせいで壊れたドアが鳴く。
だが振り返りはしない。振り向かずとも誰が来たかなどわかりきっているのだ。

「あ、シズちゃんまたサボり?」
「手前もだろうが」
「まあーね」

臨也は当たり前のように、寝そべる俺の隣に腰を下ろす。
屋上からみる体育祭は、特等席と言っても過言ではない程に見晴らしがいい穴場スポットだがそれは校庭側であり、日陰になるのここはその逆の場所だ。
だから今は全男子生徒による騎馬戦だろう、ぐらいにしかわからない。

「騎馬戦は出るって言ってたのに良いの?」
「良いんだよ、別に」

そっか、と短く返される。
屋上ではあまり会話は続かない。
2人してぼんやりと空を眺めてしまうからだ。

(俺のジャージ、)

視線を青色から芋色へ移すと、少し裾が長いせいか手が隠れてしまっている。
暑いね、とぽろぽろと会話をしていると俺の心の違和感はハッキリとしたものに変わっていった。

出逢って約1ヶ月。
ふと思い出すのはあの入学式。
あれから毎日のように臨也とは顔を合わせ、授業を抜け出しここにサボりに来る臨也を何度追い返したか。
それもいつしか追い出す事もなく一緒に空を眺めるようになったのは、いつからだっただろう。

気を許した訳では、きっとなかったはずだ。


「うん、好きだよ」


気づいてしまったもの。

それは――……



「臨也、」

身体を起こし、名前を呼ぶが臨也は空から視線を外さない。
俺が貸した俺のジャージを少し引っ張りながら臨也、と再度呼ぶ。

「なにシズちゃ――」

漸く此方を振り向くその瞬間を見計らって…軽いキスを唇に落とした。
触れるだけの優しいキス。
赤い目が大きく見開かれた。

「手前は、こんな事をしない訳じゃねえって言ってたが」

鼻と鼻が触れるような近さで、俺は臨也の目を見る。



「俺はしたい。」



目を丸くした臨也の表情からは何も読み取れない。……拒絶?わからない。


「それでもいいなら、付き合え」


ヒュッと臨也の息の飲む音と、ドンドンッと太鼓の音が響いた。
ああ、騎馬戦はどちらが勝ったのだろうか。

少し経って、アナウンスが流れる。
第1回戦は赤組の勝ち。
そうか、じゃあ、


「うん、いいよ…」

耳まで真っ赤にして臨也はうつ向いて俺の体操着を握った。


きっと2回戦も俺が勝って、


やがてそこは安らぎの場所に変わる


また、キスを落とそう。



(20100811)

紫貴さまリクエスト!
高3年静雄×高1臨也でした!

大変長らくお待たせいたしました><
そして長い!すみません!
静雄とドタチン、新羅と臨也は同クラになって頂いてちょいちょい絡んで頂きました。
そんでもって始めと最後が連動しております…
赤組=静雄、白組=臨也で騎馬戦で赤組が勝ち=静雄の勝ちって意味でして…分かりにくっ!……精進します…。

最近の高校は屋上なんざ解放してないぜ!ってのは静雄さんがドアぶち壊してるんで許してください(ぇ
高校生の屋上ラブストーリーです。えぇ、笑うところです←

5月頭に体育祭があるのは…すみません…無理やり設定すぎました…!
あまりギャグにもならずに…自分の文才の無さに涙が。

リテイクはいつでも受け付けておりますので!
何なりとお申し付けくださいませ!
こんなつたない文章になりましが、お気に召して頂ければ幸いですー!
この度はリクエストありがとうございましたー!
これからも「ひとりぼっち」をよろしくお願い致します\(^o^)/!


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