そしてそこは安らぎに変わる | ナノ




先輩静雄×後輩臨也



たとえ蝉が煩くても、青空に一番近いこの屋上が好きだった。



「あ、シズちゃんまたサボり?」
「手前もだろうが」
「まあーね」

暑い最中行われている体育祭をいつものように屋上でサボっていると、いつものように臨也が俺の隣に座る。
今は全男子生徒による騎馬戦をしているところだろう。
まあ俺と臨也がここに居る時点で全男子生徒、ではなくなっているのだがそれはまあ仕方ない。

この場所は俺の特等席で、日陰で風通しもいい絶好のサボりポイントだ。
始めの頃はここに来やがる臨也を追い返す事が多かったが最近では大して気にしなくなった。

別に、気を許した訳じゃない。きっと。







今日も暑いね、なんてありきたりな台詞を吐くコイツと出会ったのは入学式当日。
俺は相変わらず屋上に来て空を眺めてた、時。
空、きれいだね。なんてまたありきたりな台詞を投げかけてきたのが臨也だった。
制服の胸元についている小さな花飾りで新入生とすぐわかって、まさに今入学式が行われているはずなのに目の前にいるコイツの行動に驚愕した。

(初日からサボりかよ…ッ!)

「先輩、名前は?」
「手前、式はいいのかよ」
「別に出なきゃ入学できない訳じゃないしね…で、名前なに?」
「……平和島、3年」
「平和島?なに?」
「静雄、」
「じゃあシズちゃん先輩!」
「手前は」

「あ、おれ?折原臨也、よろしくシズちゃん」

このときは別に、今日ぐらいの関係だと思ってた。
一緒に空眺めて、きれいだな、とか空気おいしいねとか適当な会話をして、明日にはもう顔を合わせることなんざねえんだろって思ってたから「シズちゃん」なんて頭の弱そうなニックネームだって別になんだってよかった。

なのに、


「おはよう、シズちゃん先輩」


臨也の野郎は次の日からも当たり前のように声をかけてきやがった!

あの頭の弱そうなニックネームを引っさげて、折原臨也は俺の前に笑顔で立っていた、そんな朝の8時。
俺は咥えていた牛乳パックを落としそうになって、慌てて持ち直す。
俺の隣に居た門田でさえ俺に声をかけてきたコイツに唖然としていた。

この高校で俺に話しかけてくる奴なんてかなり限られているし、プラス「シズちゃん」なんてニックネームで俺を呼ぶ奴なんて、初めて、だった。



きりーつ、
号令係りの声でみんなが立ち上がり礼をして着席する。
一連の動きを特に何も考えずこなし、授業が開始された。
窓際の席の俺はぼんやりと空を眺めて、雲のゆっくりとした動きを目で追う。
暖かな風に瞼を閉じれば、穏やかな睡魔がやってくる。

「空、きれいだね」

ふわふわした意識の中で、臨也の声が聞こえた気がした。


なんで空が青く見えるか知ってる?
太陽の光には、それぞれの長さがあって、一番短いのが紫色で一番長い波長が赤色なんだって。
太陽光線が地球にとどくためには、厚い空気層ってのを通過しなければならなくて、この大気中には目にみえない水蒸気とかチリとか、まあ要するにゴミが沢山ある訳。太陽の光がその小さなゴミにぶつかって、いろいろな方向に屈折し飛んでいく。
その中でも藍色や紫色、青色がよく飛んでいきやすいんだって。
だから残った青色だけが見えて、空が青く見える、んだってさ。

きれいなんだか、汚いんだかよくわかんないよね




確か物理教師が授業中に同じ話をしていた気がする。
スペクトル?だっけか?臨也の話を聞いて、先生が言いたかったのはこれかとあの時理解したんだ。

(変な、奴)

空ってなんで掴めないんだろう、と言ったアイツの顔はどんなんだったっけ。




いつの間にか意識を手放していて、気づくと授業終了5分前だった。
ノートは全く板書していないが、この時間ではアウトだ。
号令係の声に従って礼をすると、教師がさっさと教室から出ていく。すると直ぐに日直が黒板を消し始めた。

ノートは潔くあきらめて、門田に後で頭を下げよう。
そんな事を勝手に決意していると、その門田に名を呼ばれ顔を上げる。
門田はさらにあっちだと言わんばかりに親指をドアの方に向けている。
一体何だというのか。俺に用事がある人間なんて、

「や!シズちゃん先輩」
「気色悪い名前で呼ぶな!」

いやなんとなく予想をしないでもなかったがそのあだ名を教室で呼ぶな!
俺は直ぐ様臨也の首根っこを掴んで踊り場まで連れて行く。
自分より少し小さい臨也は丁度良い角度で首が絞まるのか何度か非難の声を上げた。

「で。何しに来た」
「お昼一緒に食べない?」
「なんでだよ」
「なんでって?」
「だから何で手前と俺が仲良く飯食わなきゃいけねえんだよ!1人で食ってろ!」
「うわ、新入生に対して酷すぎない?泣いちゃうよ?俺」
「勝手に泣いてろよ…」

ぺらぺらと良く喋るコイツにどうも調子を乱される。
額に手を当て大きくため息をつくと、キーンコーンと電子音が響いた。
次の授業の開始を知らせるチャイムだ。
やべ、と俺は身を強張らせるが一方の臨也は特に焦る素振りも見せなかった。

「手前も教室戻れよ、1年は3階だろ!」
「サボる」
「ふざけんな」
「ふざけてなーい」

腕を組みながら口を尖らせるコイツはきっと昼飯をオーケーしなければ次の休み時間も俺を訪ねてくるんだろう。
そしてまた駄々をこねにくる。
ああ、勘弁しろよ……


「………屋上だ」


ポツリと告げると臨也の赤い目が驚きの色に染まる。
そして弾けるように笑顔になって、「じゃあ授業でてくる!」なんて満足したように言われちゃ、どうにも責められない。
これで俺の静かな昼飯の時間は儚く散ったと思うと俺は一体後輩に対して何をしてんだと溜め息しか出てこない。
取り敢えず俺は、確実に遅刻であろう数学の授業に出るために教室へ戻った。




「折原臨也?」

次の休み時間は臨也が来る事は無かったが今度は門田に呼び出しをくらう羽目になった。
と言っても門田も朝に俺をシズちゃん呼びしやがったあのクソガキが気になってただけみたいだけどな。

門田と俺は少し席が離れていたが門田はわざわざ俺の隣まで来てさっきのは誰かと尋ねてきた。

名前は知ってるが何者かは知らねえと告げると名前を聞かれたので答える。
昼を一緒に食う事になった事を報告すると、門田は鳩が鉄砲玉を食らったような顔をしたもんだから、

「…なんだよその顔」
「……いや、静雄が珍しいと思ってな、悪かった。あのタイプは苦手なんじゃないのか?」
「…苦手だ…」

ガックリと肩をおろし頭を抱えると、御愁傷様と言わんばかりに肩をポンと叩かれる。
ああクソッ!なんでこんな事になってんだ!


その後、飯を食いながら手前は何がしたいんだと単刀直入に聞いてみると「俺、シズちゃんが好きだから」なんて返されて、俺は持っていた箸を落とした。



……………好き?





(20100728)

出会い編。
続きます、少々お付き合い下さいませ…ッ!

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