Festa come un sogno

ジュゼッペのウィンターパーティー。全日参加の最終日。


流れをお借りしました。
ヨルドロパーティー(2日目の出来事とお伺いしたので、お借りしました)
アンゼさんとダンス(TL会話・るる様の漫画)
フルールさんとナンパ競争
キューレさんのお人形


Cast:
むくお様宅 ヨルクさん
一葉様宅 ヴォルフさん
るる様宅 キューレさん


お名前のみ
旭様宅 ドロテーアさん
つねこん様宅 フルールさん
るる様宅 アンゼさん

ふんわりと
みそ様宅 トゥーヴェリテさん

ジュゼッペ







街を包む自然の豊かさを象徴するかのように、所狭しと並べられた豪華な料理の数々。
グラスが触れ合うほどきっちりと並べられた、カラフルな飲み物たち。
部屋を飾り上げる硝子細工は、職人仲間でもある友人の手によって、日を追うごとに数を増している。
「相変わらず、すごいなぁ……」
同行人と別れ、別の友人を探し回りながら、ジュゼッペは広い会場をあちこちと見渡していた。最終日だからか、前の二日間にも増して人が多い。見知った顔、初めて見る顔。街中の人をすべて集めたのでは、と思えるほどの人で、舞踏会の会場は満ち溢れていた。
普段人と接するのが好きなジュゼッペでも、流石にこの大人数を相手にはできない。息を吐こうとしたところで、喧騒の奥から自分の名前が呼ばれた気がした。聞き慣れた声に、ふと顔を横へ向ける。
今しがた通り過ぎたドリンクのコーナーに、人の波からほんの少し突き出した桃色と灰色の髪を見つけ、ジュゼッペの顔にぱっと笑顔が花開いた。
「チャオ、ヨルク、ヴォルフ!探したよ!」
「探すも何も、最初からここと、昨日言ったでしょうに」
「この人ごみだしな……とりあえず合流できたんだし、乾杯でもすっか!」
人ごみを縫うようにしながらようやく壁際にたどり着くと、出し抜けにワイングラスが手渡された。出されるままにひょいと受取り、ランプの光を受けて透き通る紅色に目を落とす。
「まあ良いでしょう、飲みますか」
「うん!乾杯の掛け声は?」
「何でも良いから、早く飲もうぜ!」
慣れ親しんだテンポの良いやり取りに、思わず笑みがこぼれる。
「乾杯!」
三つの声が同時に唱和した。カクテルグラスとビールジョッキ、ワイングラス。小さくかちりと音を立てて、思い思いのグラスが軽くぶつかる。
「そうだ、昨日!お前さ、あの子担いで、あの後どこに行ったんだよ」
「ああ、そういえば……。ドロテーアと、外にでも行ったのかい?」
「はぁ?お前らに話すわけがないでしょう」
不意にヴォルフから振られた話に、ヨルクが笑顔は崩さずとも口調を崩す。
「良いじゃねぇかよぉ、俺らの仲だろ」
「うーん……もっと飲ませてみようか!」
「おいお前ら、覚悟はできてるんだろうな」
普段酔えばぺらぺら喋っているくせに、やら、うるさい黙れ、やら。
けらけらと笑いあい、時には背中や肩を叩いて茶化しあう。
互いの知り合いを見かければ輪を外れ、それが終わればまた戻ってくる。
長年の間に培われた盤石な友情は、今後何があっても崩れることはないのだろう。
二人の言動の端々に現れる女性の名に、ふとジュゼッペの中をよぎった思考は、瞬時に溶けて消えていった。
「それにしても、今日は一段と賑やかだね……」
会話がふと途切れた時、大きく息を吐き出しながら、ジュゼッペは壁に寄りかかった。壁に頭を付け、高い天井を見上げる。すぐ傍の広いバルコニーからはひんやりとした冷気が流れ込んでくるが、それを押し返すかのごとく、会場は熱く沸き立っていた。
「始まったばかりだというのに、もう疲れているんですか」
「腹減ってんのか?肉食おうぜ、肉!」
「あ、ううん、凄いなぁって。だってさ、こんなにベッラが沢山いて、美味しいものも綺麗なものも一杯なんだよ!そんな素敵な日が一年に三日間もあるなんて、とっても楽しいじゃないか!」
大きな身振り手振りを交えながら熱意を込めて語ると、呆れたような苦笑が二人から返ってきた。
ざわめきが一度大きくなった。三人が顔を向けると同時に、声の波は急速に静まっていく。やがて、静かなバイオリンの音が一つ。それを追うかの如く、音が重ねられていく。
「お、そろそろ始まるか」
「そのようですね」
ヴォルフとヨルクの声に、ジュゼッペの心も疼きだす。それと同時に、とある少女の影が一瞬脳内をよぎった。
「……僕、フルールとのナンパ競争があるから、もう行くね!二人も楽しんで!また後で逢えたら!」
勝敗は如何ばかりか。頭の中で、昨日まで踊った人を思い数えながら、沸き立つ人ごみの中へ飛び込んでいく。床まで届きそうな金の髪を見出したとき、チューニングの最後の一音が消えた。一瞬の静寂の後、華やかにダンスパーティーの始まりを告げる序曲が流れ出した。



「キューレ!」
曲間のわずかな賑わいと上気した表情がフロアを満たす中、ジュゼッペは探していた相手の背を見つけ出した。振り向きざまから完璧な笑顔を見せる彼は、やはり鍛え抜かれた役者なのだろう。
「おや」
「びっくりしたよ!本当に先生と踊るなんてさ」
挨拶もそこそこに用件を切り出すと、相手も意を得たようで、ああ、と返事が返ってきた。話題の中心は、先ほどキューレと踊っていた長身の女性。
「そうね、あのレディについては、以前君とお話していたね。いやぁ、君が意味深なことを言っていたから、どう話しかけようかと考えていたけれど、話せばわかる女性じゃないか!」
大仰な仕草を交えながら高らかに語るキューレに、ジュゼッペは頬を軽く掻いた。十年近い昔から全く容姿が変わっておらず、それならば中身も当時のままかと思っていたのだが。
「そ、そう、なのかな……。……後で久しぶりに、話しかけてみようかな」
「うん、それが良いんじゃないかしらねぇ。……それより、君と踊っていた女性は」
不意に長身をやや屈めて声を潜め、キューレが真剣な表情で話しかけてきた。
「ん?ああ、アンゼのことかい?ベッラだよね!ダンスも上手だしさ。君も声をかけてみたらどうだい?」
一瞬きょとんとしながらも屈託なく答え、相手の返事が芳しくないことに首を傾げる。普段なら食いついてきそうなものを、いやその、などと言葉を濁している様子は、初めて見た気がする。そういえばダンスの最中も、こちらがキューレの相手に驚いたように、何かを見出してぎくりとしていたようだったが。
「……小生のことはお気遣いなく」
あまりにも首をかしげていたからか、キューレが一度咳払いをして、すっと手の平を顔の横に出してきた。制止するポーズに、ぼんやりと考えていたことも霧散する。
「あ、うん、わかった。もう行くのかい?」
「そうね、そろそろ次の舞台があるので、準備に」
「わお、舞台か!……そうだ、人形は元気?」
相手の晴れ舞台を思い浮かべたところで、彼に託した人形を思い出す。彼なりの手を加えて手品に使えど、大切にされているようで、広場で時々見かけると嬉しくなる。
「ああ、もちろん。この後も、きっと活躍してくれることでしょう」
「本当かい!?わあ、楽しみだな!見に行くよ!今日じゃなくても、もし調子が悪かったら言ってね」
「おや、今日この時点で、腕の動きが悪いといったら、君は馬を飛ばして道具を取って来てくれるのかしらネ?」
「う……、そ、そういえば」
冗談めかした相手の物言いに、ぎくりと言葉に詰まる。メンテナンスに使う道具は、全て工房の机の上でしばしの休息をとっているはずだし、そもそも馬にも乗れない。
「大丈夫、簡単な道具はこちらにあるから。君はこのパーティーを楽しんでくれさえすれば良いのさ」
ぱちんとウインクを送り、キューレが悪戯っぽく笑身を浮かべた。その表情に安堵し、ジュゼッペに再び笑顔が戻る。
「……うん、もちろん楽しむさ!でも、パーティーが終わったら一度、あの子を工房に連れてきてよ。ゆっくり顔も見たいし、細かいメンテナンスもしたいしね」
「約束しましょう」
「よろしく!……あ、ごめん、時間を取らせちゃったね。舞台も頑張って!」
相手が大広間の奥へと消えていくのを見送り、ジュゼッペはくるりと振り返った。煌びやかなフロアと、多彩な色を織りなす人の波。その表情の多くは楽しげだ。
「えっと、……次は、何をしようかな!」
キューレの舞台までは、もう少し時間があるらしい。女性に声をかけようか。一息を入れに、ベランダへと出ようか。それとも、何か口にしようか。あるいは、彼らの元へ戻ろうか。
辺りを見渡しながら、自然と口端に笑みが上る。一つ意志を決めて、ジュゼッペは歩き出した。





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ウィンターパーティー連作『夢のような宴』
→Side:Giuseppe "Festa come un sogno"
Twosome "Festo sicut somnium"
Side:Turm "Bankett wie ein Traum"
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