パーティーでの、うちの子会話。 TL会話の流れをお借りしました。 ミケさん・ラズさんとのダンス クレーさんとの会話 お名前をお借りしました。 るる様宅 アンゼさん キューレさん いりこ様宅 ラルウェルさん 猫夢様宅 クレーさん みそ様宅 ミリアーディカラクテェルさん ふんわりと みそ様宅 ラズリートさん 月夜野様宅 ライカさん ジュゼッペ トゥルーム →From 「……チャオ、先生!」 ひと時の熱狂を越え、大広間に円熟した空気が漂い始めた頃。 壁に寄りかかりシャンパンを口に運ぶ女性に、一人の黒髪の青年が近づいてきた。女性も、金の瞳をついと送る。 「…………あら」 「えっと、昔お世話になったジュゼッペだけれど、……覚えているかな?」 「勿論よ、坊や」 その返答を聞き、ジュゼッペの顔から、ほんの僅かな緊張が消し飛んだ。 「わお、本当かい?嬉しいな!……えへへ、まだ『坊や』なんだ。もう28なんだけれどね」 その花開く笑顔と、照れた時に頬を掻く仕草。言動の端々に子供の頃から変わらぬ面影を見出し、トゥルームもかすかに頬を緩める。 「そう、もうそんなに経つのね」 「10年ちょっと、かな?……お久しぶり、トゥルーム先生。先生は、昔から全然変わらないね」 「…………ええ、良く言われるわ」 旧友との再会とはまた少し違う、師弟の再会。そこにはこそばゆいような、適度な距離感を測ろうと無意識に焦れるような、不思議な感覚が付きまとう。 くい、とショールを手繰り寄せるトゥルームに、ジュゼッペが不思議そうに首を傾げた。 「あれ、寒いの?」 「さっきまで外にいたからかしらね。魔法を使っていても冷えたわ」 「え、外にいたのかい?雪が降っているのに」 「……色と人に酔ったわ。それと、少し踊り疲れて、ね。久しぶりのパーティーだし」 ますます不思議そうな表情で、真っ直ぐに見上げてくる彼に、トゥルームも素直に応じる。射抜くような強さを持ち合わせているわけでもないのに、相手の心を真っ直ぐにとらえるのは、彼が持つ不思議な力だろうか。 「そういえば、パーティーで見かけるのは初めてだね!」 「……そうね、長らくこういった場には、足を向けていなかったわ」 「ちらっと見えたけれど、さっきタンゴを踊っていたよね!あんなに速い曲を踊りこなして、凄いなぁって!その前もキューレと踊っていたし、何でも踊れるんだね」 再び笑顔を浮かべ、裏表なしに賞賛を送るジュゼッペの言葉に、トゥルームは瞳を閉じた。先ほど踊った猫の獣人の男性が、頭をよぎる。 「基礎基本はマスターしているつもりよ。基礎があれば応用はついてくるわ」 「そっか、やっぱり先生はすごいね!さっきステップをあんまり気にしないで踊っちゃったけれど、……ルール違反、だったかな?」 やや不安の混じる声に、トゥルームは再び目を開き、視線を送った。すべてを追っていたわけではないため、「さっき」がいつのことを指すのかはわからない。アンゼとのワルツか、ミケと名乗った青年の連れだという、青い少女とのダンスか。真意はつかめないものの、トゥルームは口を開いた。 「場と相手にあわせて踊るのが舞踏会のマナーよ。相手に充足感を与えるのが、ルールよりも先決」 手短にまとめ再び視線を送ると、相手のきょとんとした表情が目に入った。 「……どうしたのかしら?」 「あ、ううん、……先生、変わったね」 その言葉に、今度はトゥルームが驚く番だった。表情は変えないものの、わずかに目を見開く。 「変わった?私が?」 自分で変わったと思う節はない。数秒自分と対話した後、トゥルームは大きく息を吐き出した。 「……どの辺りでそう思ったのか、一から説明して頂戴」 真っ直ぐ射抜くように見つめると、ジュゼッペが次第に動揺し始めるのが分かった。視線をあちらこちらに彷徨わせ、言葉を探しているようだった。 「う、……えーと、……何だろう、ルール違反はだめ!じゃなくなった、というか、…………えへへ」 「笑って誤魔化さない」 「うーん……ごめんなさい、先生」 ぴしゃんと言い放つと、照れたような困ったような表情が返ってくる。再び息を吐いて、顔をベランダへと向けた。先ほどの二人は、無事に合流できたのだろうか。 ダンスフロアでは、穏やかなワルツが流れ続けている。 「今も時々、学校で教えているの?」 「いいえ。今は、教会で子供たちに勉強を教えているわ」 ジュゼッペの質問に、トゥルームは小さく首を振って答える。それを見上げながら、ジュゼッペはきょとんと首を傾げた。 「教会?もしかして、ラルウェルが手伝っているところと同じかな?」 「……あら。彼とお知り合いかしら」 「うん!材料の木を伐ってもらいに、しょっちゅう家に行くからさ!じゃあ、ラルウェルと二人で、今日は来たの?」 「いいえ」 半ば被せるような即答に、ジュゼッペは一瞬面食らった。相手にもそれが伝わったのか、僅かな間の後、言葉が付け添えられる。 「……二人きりというわけではないわ。アンゼや、教会の子供たちとも一緒よ」 「え、アンゼ?あれ、もしかして……」 聞き覚えのある名前に、ジュゼッペは目を瞬かせる。その様子を見て、トゥルームも肯定の頷きを返した。 「ええ。あなたが踊っていたお嬢ちゃんよ」 「わお!そうだったんだ!……何だか面白いなぁ」 「……あら、何がかしら」 嬉しそうに声を上げるジュゼッペに、トゥルームが不思議そうに問う。 「ううん、先生もあの時、キューレと踊っていたでしょ?上手く言えないけれど、僕の知り合いと先生の知り合いがさ、パーティー会場で出会って。話をしたり、踊ったりして……こうやって、知り合いって増えていくんだなって思ってさ!」 楽しげに、心に思い浮かぶままに言葉を紡ぐジュゼッペ。彼の脳裏には、パーティーに共に来た友人や、新たに知り合った顔が去来していた。 それを見やりながら、トゥルームは呆れと称賛の混じったような溜息を一つついた。 「相変わらず、ね」 「え?何がだい?」 きょとんと疑問を浮かべる表情を真っ直ぐ見つめ、彼女は今一度小さく息を吐く。 「……何でもないわ。そのままでいて頂戴」 「うん……?わかったよ」 弦楽器の音が静かに収束し、さざ波のように小さな拍手が沸き起こった。相手への感謝と称賛の言葉だろうか、ざわめきが広がる。 ジュゼッペはふと気を取られ、そちらへ視線を向けた。それを目にし、トゥルームはわずかに体の向きを変える。 「一曲終わったようね。坊やは、踊り足りないのではなくて?」 「え?うん……。そうだね、もう少し踊ってこようかな。先生は?」 「私はもうしばらく休んでいるわ。お気になさらず、行ってらっしゃい」 踊り終えた人々が、壁沿いや立食用の机へと戻ってくる。反対に踊りに向かう人もいて、にわかに壁際の一角は賑やかになった。 「……そういえば坊や、工房を持ったんですってね」 思い出したように、ぽつり、と声が聞こえた。ほとんどダンスフロアへ意識がとられていたジュゼッペは、その声に突然引き戻された。 「え!?ど、どうして知っているの!?」 驚きを隠さないまま振り返ると、真っ直ぐな金の瞳とかち合った。 「少し前に、妖精のお嬢ちゃんから聞いたわ。家をシェアしているとも」 「ああ、クレーのことだね!うん、そうなんだ。……持ったというより、預かった、の方が正しいんだけれどね。やりくりも苦手だし」 頬を掻きながら、照れたように小さく笑みを浮かべる。茶の瞳が、わずかに揺らいだ。その様子を静かに見つめながら、トゥルームが口を開いた。 「あら、そう。……それでも、あなたが経営していることには間違いないのでしょう」 「……う、うん、そうだね」 「なら、自信を持ちなさい。あなたは一つ、夢を成し遂げたのだから。……何なら、今度視察に行った方が良いかしら?」 最後は彼女なりの冗談を交えて、相手の反応を待つ。 ジュゼッペは、ぽかんとした表情で相手を真っ直ぐに見上げていた。その顔に、次第に笑みが浮かぶ。 「……、……うん!でも、できれば視察じゃなくて、遊びに来てよ!僕の子供たちを紹介するからさ!」 零れんばかりの笑みを湛え、ジュゼッペは明るい声を上げた。先ほどわずかに滲んだ不安の色は、疾うに消え去っている。 「わかったわ。機会があれば、足を運びましょう」 「うん、待っているよ!……じゃあ、行ってこようかな。またね、先生!」 くるりと踵を返し、ジュゼッペは人の波の中に飛び込んでいった。ちらりと姿の見えた、カメラを構える女性へと、足を向ける。 その背を見送りながら、トゥルームは一つ息を吐いた。 「……未だに慕ってくれる子がいるとはね」 唇から零れた言葉は、すぐにざわめきに消えていく。 「……さて、と。……私はどうしましょうかね」 帰るにはまだ早い。久しぶりの喧騒に、もう少し身を委ねていようか。柔らかな衣擦れの音を立て、トゥルームも踵を返した。 →Next ウィンターパーティー連作『夢のような宴』 Side:Giuseppe "Festa come un sogno" →Twosome "Festo sicut somnium" Side:Turm "Bankett wie ein Traum" [目次] [小説TOP] |