Bankett wie ein Traum

トゥルームのウィンターパーティー。


TL会話の流れをお借りしました。
ヴィルヘルムさんと
ダンス
 クラインさん
 シイスーンさん
 キューレさん
 ミケさん

また、いりこ様の小説『お城の片隅で』の流れもお借りしました。




Cast
みそ様宅  ヴィルヘルムさん
いりこ様宅 ラルウェルさん

お名前のみ
ツミキ様宅 アマーリアさん
翡翠様宅  アイリーンさん
いりこ様宅 リゾさん

ふんわりと 
ダンスを踊ってくださった男性陣
 翡翠様宅  クラインさん
 ツミキ様宅 シイスーンさん
 るる様宅  キューレさん
 みそ様宅  ミリアーディカラクテェルさん
一葉様宅  ヴォルフさん

トゥルーム



→From


新たなワルツが流れ始めた。
その音色と華やかな会場を背に、トゥルームは一人、ひと気のないバルコニーの一つへと足を踏み入れた。
雪は幾分勢いを弱め、大広間から溢れだす光を受けて光の粒のように舞い落ちてくる。
豪奢な手すりに手をかけ、音のない静かな世界を眺めやる。ちらりと横へ視線を送ると、点在するバルコニーにいくつかの影が見えた。静かに語り合う者たちや、ただ黙って寄り添う者たち。思い思いに時を過ごす人々に、静かに視線を送る。
「……静かね」
かすかな呟きは、黒灰色の空へ吸い込まれていった。
静かに、しんしんと、冷えが身を包みこむ。背後の賑わいと、囀り合う恋人たちの声を聴くともなしに聞きながら、静かに瞳を閉じると小さく首を振った。
―――全く、不思議なものね。自分がパーティーに参加するなんて、思いもよらなかったわ。
ぼんやりと、ここ数日の事を振り返る。衣装の準備をして、城へと足を運んで。
次いで思い浮かんだのは、ダンスフロアでその手を取った相手。
赤いヘアピンが印象的な、山羊の耳を持つ穏やかな男性。
青く流れる長髪を結い上げ、大仰に手を差し出してきた男性。
踊りながら言葉遊びを交わした、道化師の男性。
情熱的なタンゴのリードを許した、猫の獣人の男性。
皆、自分よりも年下なのは、声をかけられた時からわかっていたけれど。相手からすれば、そう離れてもいないように見えるのだろう。20代後半で時を止めた見た目は、吉と出るのか凶と出るのか。
取り留めもなく考えながら城門へと視線を送ると、ヴィルヘルムが相も変わらず手を動かしている様子が見えた。先ほど言葉を交わした時点と比べ、大分雪の壁は高くなっているように見える。
「あら、……全く勤勉ね」
約束の通り、酒を土産にまた赴こうか。
くるりと踵を返しかけて、ふと自分にしては珍しい考えが浮かんだ。しばし考えを巡らせたあと、それを実行に移す。
ドリンクのテーブルへ足を向けながら、何の酒が良いかと思案する。半分ほど空いたウォッカの瓶を目にし、近くに控えていたウェイターに声をかけた。
「失礼。この残りは、頂いても良いかしら?外にいる方に届けたいの」
快諾を貰い、無色透明な火酒が注がれたショットグラスを二つ、片手に取る。指で挟むようにして器用に持ちながら、開いた片手に瓶を持ち、再び静かなバルコニーへと舞い戻った。
小さな音を立ててグラスと瓶を手すりに乗せると、小脇に抱えていたパーティーバッグから愛用の杖を取り出す。先端を瓶のふたへとあてがい、口の中で歌うようにいくつかの文言を唱えた。つい、と杖を振ると、ふわりと瓶が宙に舞う。同様にグラスの一つにも同じ術式をかけ、目の高さへと浮かび上がらせた。
杖で宙に絵を描くように、複雑な形へ振り動かす。二言三言の術式を添えると、魔法をかけられた2つの物影が、ゆっくりと動き始めた。
滑車付きのロープで運ばれるかのように、揺らぐことなく真っ直ぐに移動する瓶とグラスを眺めた後、トゥルームはふと視線を下へ降ろした。斜め下には、テラスが広がっている。そこに、先ほど外で声をかけてきた少女の姿を見かけた。リゾと名乗った少女は、今は灰色の髪の青年と、ぴったりと寄り添いあいながら庭を眺めている。
―――暖かそうね。
頭をよぎった思考をそのまま流し去り、再び届け物へと視線を送る。どうせ空を飛ばすなら、何かしらの図形を描くなど、粋なことをすれば良かっただろうかとふと考える。
そして、そんな思考をした自分自身に、わずかに驚いた。今まではそんなことを、思いつきもしなかっただろう。
つい今しがた聞いた、かつての教え子の言葉が、脳裏を去来する。
「変わった、……の、かしらね」
小さく言葉を漏らしたところで、腰ほどの高さの雪壁の上へ、瓶とグラスが着地した。ヴィルヘルムが辺りを見回しながら、そのグラスを手にする。
相手の視線が自分を捉えたのを見計らって、手元に残ったショットグラスを軽く掲げた。相手も同様に、グラスを高く掲げるのが目に入る。かすかに雪の舞う空間を挟んだ乾杯。トゥルームはくいとグラスをあおった。
「こんなところにいたんだ、先生」
不意に背後の光が遮られたように感じて、顔を上げた時、柔らかな声が背中越しに聞こえた。
「……あら。お目覚めかしら」
「うん。お城のソファは柔らかくて、心地良いね」
ほわりと笑みを浮かべながら、ラルウェルがベランダへ一歩足を踏み出した。ほんの数歩で手すりに歩み寄る。
「アマーリアもアイリーンも、少し眠そうだから、どうしようかなって思って」
そう声をかけられ、トゥルームは大広間へと振り返った。先ほどまでラルウェルが横になっていたソファの上で、二人の少女が寄り添うように、舟をこいでいた。その上にある豪奢な大時計へと視線を移し、あと少しで天を指し重なり合う二つの針を見上げる。
「……そうね、そろそろ魔法が解ける時間ね」
口の中で小さく呟きながら、トゥルームは再び手すりの外へと向き直った。灰色の雲からは、ひらり、はらりと白く柔らかな雪が舞う。
「まだ雪、止まないんだね」
「そうね」
隣に眼を遣ると、同じように空を見上げる青年の姿が目に入った。きっちりと正装を着こなすその姿に、しばし視線を送る
瞳を閉じて小さく息を吐くと、トゥルームは再び空を仰ぎ見た。
「……あの雲が晴れれば、月が見えるかしらね」
―――きっと空も澄み渡って、さぞかし綺麗に見えるのでしょう。
ごぉん、と、鐘の音が一つ、鳴り響いた。






ウィンターパーティー連作『夢のような宴』
Side:Giuseppe "Festa come un sogno"
Twosome "Festo sicut somnium"
→Side:Turm "Bankett wie ein Traum"
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