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 だってだってだって

天ノ弱トゥインクル12の続きで静臨です。





「シズちゃん、猫好きだよね」
「………おう、まあ」
「俺も好き。いっしょだね」
「………」

にこりと笑って臨也がなにかのアニメのキャラクターらしいぬいぐるみを抱き締める。なんとなく間の抜けた顔を見て臨也はきっと好きだと思った自分の勘が当たっていたみたいでよかった。
猫は好きだけど、うちが猫で埋め尽くされつつあるのは猫が可愛いからじゃない。新羅がセルティのために白を好むように、臨也の好みに変わっていきたいと思った。

「…それ、やるよ」
「え?」
「気に入ったんなら」

臨也のミルクティーの余りのホットミルクを飲みながら言うと、臨也がきょとんと目を丸める。
幼い表情に心臓が高鳴って、沈む。馬鹿か俺は。
すきでもない奴から、ぬいぐるみなんかもらいたくない、だろ。
なんとか誤魔化したくて話題を逸らそうと思っても、すぐに浮かぶほど回転の早い頭をしていない。
結果訪れる沈黙をどうすることも出来ずまたマグカップで口を塞ぐ。
いい雰囲気だったのに、笑ってくれていたのに、余計なことを言ってしまった。

「………」
「………」
「……あの、さ」
「………おう」


「……ありがと…」
「っ、……おう」

振り返ったときにはもう猫のぬいぐるみに顔を埋めてしまっていた。
ばくばくばく煩い心臓は血管を通して全身に熱い血液を送ってくる。

「シズちゃんはさ、いちばん好きな食べ物ってなんなの?パスタ?オムライス?」
「…え、と……いちばん…か…?」
「……好きなの、でいいよ。食べたいもの」
「………プリン…?」
「………プリン、か。わかった。……俺、今日は帰るね。また連絡する。」
「えっ…」

すた、と立ち上がって臨也がコートを羽織る。何が起きたか分からなくて慌てているうちに臨也は靴を鳴らして出ていってしまっていた。

「え、あ…」

な んで……確かに、嬉しそうにしていたと、喜んでくれたと、思ったのは勘違いだったのか…。上がっていた熱が一気に氷点下まで下がる感覚がした。指先が震えてマグカップが持てない。

結局置いていった猫のぬいぐるみを窓から捨ててしまいたくて、でも臨也が嬉しそうに抱きついたそれを無下に扱うことなんてできるはずがない。

臨也がそうしてたように抱き締めて息を止めて涙と嗚咽を堪える。

あいつになれたら、きっと自信を持って頑張れるのに。馬鹿みたいなことを思いながら、ぶさいくな猫の頬をつねってまぶたを閉じた。

『もしもし』
「っ、………おう…」
『明日、仕事終わったあとって……空いてる、かな…』
「っっ……!」
『い、いそがしいなら、いいんだけど』
「空いてるっ!!」
『っ………』
「空いてる、会えるなら、会いたい」
『……うん、えっとじゃあ』

臨也がいたときのままバイブにしてた携帯が突然震えたことに慌てて、臨也が言った発言にまた慌てた。

分かりやすく焦っている自分の声に戸惑う臨也が想像できる。
俺は本当は知ってるんだ。
毎日の電話に慣れてきても、笑顔を見せるようになっても、あいつが俺なんて見てないこと。

もし今からでも新羅があいつの望む反応をしたら、何もなかったような顔をして俺から離れていくんだろう。もともと、あいつは俺に対して『新羅の友達』以外の興味はないのだ。これからも、未来永劫。

だから、俺から離れるときに、ほんの少しでも臨也が名残惜しいと感じるように、ほんの少しでもそのときを先伸ばしできるように必死で臨也の好きなあいつを真似して、それだけを考えて。

それはもう、俺が俺じゃなくなるくらいに。でもいいんだ。誰にでもここまでするわけじゃないんだから。これが最初できっと最後だから。


(そこまでして、叶えたい恋だってだけなんだ)


だから電話越しに臨也が続けた内容に、本気で気を失いそうになった。






「うちに、来ない?」

あああまちがえた…いつもシズちゃんちだと悪いからうちでご飯食べない?ってちゃんと台本に書いてあるのに…!テンパってすごい省略してしまった…シズちゃん、ご飯食べてきちゃったらどうしよう…

『…………』
「…………」
『…………』

いきなりこんなこと、上からな物言いに聞こえてしまっただろうか。違うのに。はっとして台本の『沈黙になった場合』のページを開く。

「そういえばさ、幽君の出てる雑誌見たよ」
『……幽?』
「うん!やっぱり彼綺麗だよね、女の子の雑誌なのについ買っちゃった。シズちゃんにも見せてあげるね」
『…おう、ありがとな。………明日、楽しみにしてる』
「うん俺も。おやすみ」
『………ああ、おやすみ』

「はぁあ、緊張したぁ…!」

台本を握り締めて、大きく息を吐く。なんでシズちゃんを家に招くのにこんな緊張しなければならないのか…。
一時間強を要してでも台本を作ってよかった。幽君が表紙だったから何気なく立ち読みした雑誌のインタビューには、幼少期の兄との思い出が綴られていて、うん、つい。
明日を楽しみにしてると言ってくれた。
シズちゃんがいつもしてくれているように、俺だってシズちゃんにしてあげたい。可愛い猫のぬいぐるみもきっと、俺の、ために、

「…………」

ぼん!と一気に顔が熱くなる。思い出しただけでも心臓がうるさい。
猫はもちろんすごく可愛かったけど、それよりも猫に顔を埋めながら視界ぎりぎりに残したシズちゃんが耳まで真っ赤なのがなんだか嬉しくて困った。

新羅を思っていたときとはとは根本的に違っている、自覚がある。新羅の言動は、ときめくたびに泣きたくなった。こんなに俺が嬉しくても、お前はこっちをみてないんだよね…なんて、女々しいことは分かってたけど。
どういった機序でかはしらないけれど、シズちゃんは俺のことをすごく大事にしてくれる。それこそまるで、新羅がセルティにするように。

「………ふふっ」

どうだっていい。だって俺はいま確かにしあわせだ。
自分の言動が相手の表情を変えることがこんなに幸せだなんて知らなかった。新羅の表情を変えるのはいつだって、セルティだった。
ほんの些細な仕草に、会話に、舞い上がる新羅を諦めにも似た気持ちで眺めていた。ずっと。
見返りを期待できる恋なんてものを、自分ができる日が来るとは思わなかった。


(好きだよ、とはまだ言えないけど)

きっといつか、心から

今度はちゃんと、君に向かって伝えたいんだ。
だって、君は俺にしあわせをくれたから。

だからいまは、もうちょっとだけ待って

end

あなたが好きで仕方がなくて、
あなた好みに近付きたくて


2012/2/26

GUMIちゃん。タカノンさんの歌ほんとに可愛くて大好きです。
相変わらずシズちゃんは悪いようにしか考えられないみたいで愛しいです。臨也さんが珍しくポジティブで可愛いです。



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