main | ナノ


-----main-----



6.冷めない熱の後始末

 気がつくと、僕は知らない部屋のベッドの上に横たわっていた。一体いつからここで寝ていたのだろうか。まだ少し眠かったが、上半身を起こし、周りをぐるりと見回す。誰も居ない。ただ、インテリアの趣味からして、小洒落た大人の……それも、おそらく女性の部屋らしいことは何となく分かる。いずれにしても、僕の記憶にはない場所だ。

「こんばんは、富井くん」
「……えっ! っ、飾利さん??」

 聞き馴染みのある声に振り返ると、いつの間にか部屋の入り口に、少年ハリウッドの頼れるヘアメイクアーティスト、飾利さんが立っていた。いつものように優しく微笑みながら、一歩ずつ僕の方に歩み寄ってくる。

「……もしかしてここ、飾利さんのおうち、ですか?」
「うん、ようこそ我が家へ。喉渇いてない? よかったらどうぞ」

 飾利さんは、そう言いながら、グラスに入った紫色のグレープジュースを僕に手渡してくれた。ウェルカムドリンク、というやつだろうか……?全然働かない頭でぼうっと考える。言われてみれば少し喉が渇いていたので、お礼を言って受け取った。

「え、えっと。お招きいただいて、ありがとうございます……?」

 肝心の招かれた理由や経緯がさっぱりわからないので、状況を呑み込めず、どうにもへんてこな挨拶になる。

「こちらこそ、来てくれてありがとう。何もないところだけど、楽しんでいってね」

 僕の不自然な挨拶など意にも介さないようで、飾利さんは僕の隣にぽふっと座った。一気に距離が近くなり、ふわりと甘い匂いが漂ってきて、胸が高鳴る。

「あっ……!? ていうかここ、飾利さんのベッドですよね!? すすすみません、勝手に座っちゃって……! ていうか寝ちゃってて…!! すぐどきます!」
「いいからいいから。悪いんだけど、お客さん用の椅子がなくてね。ちょっと落ち着かないかもしれないけど、気にしないで」
「そう、なんですか……?」

 ただでさえ理由も分からず飾利さんの部屋に2人きりというだけでも焦るのに、彼女が普段使っているベッドでずっと眠っていて、今もその上に座っていると知った途端、腰のあたりがぞくぞくと落ち着かない気持ちになる。
 もらったジュースを味も解らぬままに飲み干して、空いたグラスをサイドのテーブルに置くため、飾利さんと反対方向に体をよじった。

「ねえ、富井くん」
「? ……、うわぁっ!?」

 呼ばれてくるりと振り返ると、なんと飾利さんが白いバスローブ1枚だけを羽織った姿で、先程と変わらぬ場所に、先程と変わらぬ微笑みをたたえて、座っていた。さっきまでは確かに見慣れたスーツを着ていたはずなのに、急にそんな、どうして……!?

「ちょっ!! だ、だ、だ、ダメですよ! そんな格好っ!!」

 顔を背けたまま後ずさり、思い切り距離をとる。顔がどんどん熱くなるのを感じた。普段は洋服の下に隠れているグラマラスな体のラインに、薄手のバスローブがしっとりと張りつき、とても直視できない状況になっていた。

「えー? 私の家なんだし、堅苦しいことはいいじゃない。それに、富井くんだって人のこと言えるのかな?」
「、え……? うわっ、う、嘘だっ!!?」

 おかしそうに僕の方を指差す彼女の視線を辿れば――トランクス1枚しか身に着けていない、自分の裸体があった。

「な、な、……何で!? 僕、さっきまで服、ちゃんと……」
「世の中、不思議なこともあるものだね
「不思議すぎますっ!!」

 理由は全くわからないけど、とにかく今、狭いベッドの上に、パンツ一丁の僕と、バスローブ姿の飾利さんが向き合っている。いくら何でも、この状況は……そういった知識に疎い僕でさえ、意識しないのは無理だ。

「あの、な、何か服を貸してもらえませんか。僕、帰りますっ」
「あはは、ごめんね。あいにく男性用の服はなくて」
「そんなぁ……」

 ずいぶん愉快そうに笑っている飾利さんを横目で見ながら、うつむいた。悪いと思いつつ、こうするほかないので、掛け布団を拝借してささっと下半身を隠す。僕も、シュンやキラみたいにおしゃれな下着を普段から身に着けていたら、こういう場面になっても、ここまで恥ずかしくなかったかもしれないのに……と、的外れな自省をしていたときだった。

「そういえば、富井くん。前から聞きたかったことがあるの。いいかな?」

 彼女はその露出ぶりを全く恥ずかしがる様子もなく、そっとこちらに顔を寄せてきた。前かがみになったことで、白い胸元が大胆に見え隠れする。本人は気づいているのかいないのか、その体勢で可愛く首を傾げたままだから、僕は必死で目線をそらし続ける。女性らしい魅力的な体つきもさることながら、飾利さんにまつわる、僕の密かな最大の弱点が……すぐそこに迫っていた。

「な、なんですか……?」
「富井くんって、いつも、私の唇、ずーっと見てない?」
「っ……!!」

 目の前で弧を描く、柔らかそうなピンクの唇。どんなときでもぷるぷる潤って、艶々きらめく彼女のチャームポイント。まさに図星で、僕はたまらずたじろいだ。

「……えっと、それは……」
「ふふ、教えて。どんな風に思いながら、いつも見てるの?」

 そんな風にじっと見つめられると、ただでさえ得意でない隠し事が、今は一切通用しないように感じる。正直に言ったら、絶対気持ち悪がられて、嫌われてしまうんだ。だから今まで隠していたのに……。口をもごもごさせていると、飾利さんは微笑みながら、僕にそっと耳打ちするように囁いた。

「……あぁ、そうそう。実はね、さっき富井くんが飲んだのは、ジュースじゃなくてワインなの。間違えて渡しちゃって、ごめんなさい」
「……へっ??」

 確かに、そう言われると、なんだか頭がぼんやりして、体もぼうっと熱くなってきたような気がする。僕は、今、酔っ払ってる……のか?

「お酒ってね、人を正直にさせちゃう魔法の薬なの。だから、富井くんはどんなに頑張って隠そうとしても、もう本当のことしか言えないよ」
「……、そんな……」

 隣からじっと覗き込んでくる、飾利さんの整った顔立ちと色っぽい唇から、いつのまにか目を離せなくなった。

「……そっか。お酒のせいなら、仕方ない、ですよね……」

 飾利さんに体ごとゆっくりと向き直る。少しおぼろげによどんでいる気がする視界。僕の奥底で、僕の理性をつなぎ止める鎖が、小さく外れたような音がした。

「……もしも、飾利さんとキスできたら、きっとすごく気持ちいいんだろうな、って……思ってました」

 部屋に小さく響く、熱に浮いた声が、まるで自分のものじゃないように感じる。ずっとひた隠していた欲望をほかでもない本人に打ち明けてしまったからか、布団の下の下半身が一気に熱を持った。一方で、当の飾利さんは、特に嫌がりも驚きもしないで、相変わらず微笑んでいる。

「……そう。じゃ、キスしちゃう?」
「っ!?」
「富井くんのお願いなら、何でも叶えてあげるよ」
「いや、そ、そんな……」
「いいから……ね?」

 言いながら、彼女はそっと目を閉じて、僕にゆっくり顔を近づけてきた。何もかも信じられない気持ちは山々だけれど、そんなことをされたら、もう抗う術はない。甘い蜜の香りに誘われるように、僕も目を閉じながら、彼女におそるおそる、唇を寄せた。

 ……ちゅっ、なんてアニメみたいな音は、唇を触れ合わせただけではしないんだ。人生で初めてキスをするこの瞬間まで、僕はそんなこと、知るよしがなかった。熱に浮かされて、くらくらする頭で思う。
 ずっと焦がれていた彼女の唇は、想像を遥かに超えるほど柔らかくて、温かくて、それでいてどこか甘くて。一瞬で天に昇らされるような、その心地よさの虜になった。小さいけれどしっかり厚みがあり、僕が力を込めて押しつければ押し付けるほど、少しずつ奥に進ませてくれるような感じがして、気が狂いそうになるほど、もどかしい。たまらず彼女の両肩に手を添えてしまったけど、振りほどかれることはなかった。ああ、永遠にこのままでいたい……。

 やがて、ゆっくりと飾利さんの唇が離れていったのがわかり、名残惜しく思いながら、僕は少しずつ目を開いた。飾利さんは僕の瞳をまっすぐに見つめながら妖艶に笑っている。そっと手を伸ばして、僕の頭を優しく撫でてくれた。

「ふふふ。上手にできたね」
「……はぁっ、す、すごく……あの、想像していたよりもずっと、気持ちよかった、です」
「そう、良かったぁ」

 生まれて初めてのキスを、大好きな飾利さんと、してしまった。それだけでも凄いことで、胸がいっぱいなのに、一度火がついてしまった欲望は、気づけばもう止められなかった。

「あの、もっと、もっと気持ちいいコト……大人のキスも、その先も……飾利さんと、したい、です」 

 こんなに恥ずかしい本心が簡単に口からこぼれてしまうのも、全ては間違えて飲まされたお酒のせいに違いない。少しでも飾利さんの体に触れていたくて、きょとんと目を丸くした彼女がベッドに何気なくついている左手に、上から手を重ねた。ずっと年上なのに、その手は僕よりとても小さくて華奢だった。

「うん、ちゃんと正直に言えて偉いね、富井くん。……いいよ、たくさん気持ちよくなろう?」

 飾利さんは、世界中の男子高校生が卒倒しそうな甘い台詞を囁きながら、僕に掴まれていない方の右手で、ゆるゆるとバスローブのベルト部分に手をかけた。たわわな胸元、小さなおへそ、すべすべの太もも……徐々に現れる彼女の何も纏っていない身体に、たまらず生唾を飲む。

「ま、待って!」
「?」
「い、今だけでも、『大樹』って、呼んでくれませんか……」

 いつものように苗字で呼ばれると、どうしても日々の光景が浮かぶ。飾利さんと会って、その優しい声で『富井くん』と呼んでもらうのは、僕の髪や肌に触れてもらうのは、いつだって劇場の中だったから。僕にとって少年ハリウッドとしての活動は、ハリウッド東京の仲間たちは、この人生になくてはならない、大好きで尊いものだ。それでも今は、全て忘れて、彼女と自分の二人しかいない世界に、思う存分溺れてしまいたかった。

「うん。分かったよ、大樹くん。それなら、私のことも名前で呼んでね? ついでに敬語もなし」
「……紗夜、さん……」

 これまで一度も呼んだことのない彼女の下の名前を、小さく口にする。一度呟いただけで、まるで以前からそう呼んでいたかのようにするりと口に馴染んで不思議だ。彼女のように優しく美しい人に相応しい、素敵な名前だ。改めてそう感じた。

 紗夜さんは、中途半端にバスローブを脱いだままで、僕の背中に手を回した。あっ、と思う間もなく、もう一度キスされる。やっぱり柔らかくて、甘くて、一瞬でふわふわした気持ちになる。その快感に夢中で身を委ねていたら、やがて彼女の柔らかい舌先が、僕の唇にちょんちょんとノックしてきたのが分かった。「ここ、開けて?」と囁く小悪魔みたいな声が聞こえた気がする。大人のキスをねだったのは自分の方で、彼女がせっかくそれに応じてくれたというのに、緊張と興奮でどうにかなりそうだった。
 心臓がバクバクと鳴り止まないのを感じつつ、おそるおそる唇を開くと、するり、と彼女の舌が入ってきた。彼女の舌は僕の舌を見つけると、先っちょを優しくこすり合わせるような動きをした。いやらしいコトをする前の挨拶のようで、僕の体はまだ一段と熱くなった。自分以外の誰かとお互いの舌を触れ合わせるなんてもちろん初めてで、今まで感じたことのない柔らかさと熱さに、思わず意識が飛びそうになる。

「……、ふぁ、っ……」

 彼女の口が離れて一瞬の間が生まれたので、たまらずに呼吸をしたら、自分でも驚くほどに甘い声となって漏れた。またすぐに口づけられ、侵入してきた彼女の舌は、さっきよりも自由に動く。僕の口の中を上から下へ、手前から奥へ、やわやわとなぞっていく。僕の舌の表面に彼女の舌の裏面が少し触れて、そのイケナイ気持ち良さに何度も声が出そうになるが、舌を絡めているからそれすらできずに押し留めるしかなく、ますます息苦しくなった。余裕たっぷりに翻弄するような彼女の舌の動きに、無我夢中で応じる。どれぐらい時間が経ったか分からない頃、紗夜さんがそっと口を離して、生まれて初めての大人のキスは、幕を閉じた。

 ……こんなに、息もできないぐらい、愛しい相手と貪り合う行為だったなんて、知らなかった。今まで想像すらしたことなかったような、あまりの快感と背徳感。その衝撃と余韻に、僕はややぐったりとして、座ったまま頭をもたげた。

「……少し疲れちゃったかな? 大丈夫?」

 紗夜さんが、やや心配そうに僕の肩に手を触れて、ゆっくりとさすってくれた。これだけ強烈な刺激を心と体に受けたのだから、疲れていないといえば嘘になる。
 しかし、彼女が体を傾けたことで、一瞬だけバスローブの隙間から胸の先の桃色が見え隠れし、既にもう限界ギリギリではち切れそうだった下半身がまた一段と熱を持った。どこまでも現金な僕の体め……。

「だ、大丈夫、です……」
「ふふ、良かった。それじゃ、続けようか?」

 紗夜さんはやがてバスローブをするりと脱いで見せ、僕に愛らしく微笑みかけた。

「……、はぁっ……!!」

 本気で息が止まるかと思った。いや、多分何秒かは、本当に止まっていた。彼女の体の前で開かれたバスローブの下から現れたのは、僕を誘うように悩ましく揺れる2つの乳房。その中央にある桃色の膨らみ。可愛いおへそ。くびれた腰。柔らかそうな太もも。白いレースのパンツは、隠せる部分が小さすぎて、履いている方がかえっていやらしい気がした。本物の女の人の裸(とパンツ)を見るのは初めてだから、どこを見ても刺激が強すぎて、視界がぐわんぐわんと揺れる。
 それでも、やっぱりというべきか、僕の目線は、初めて間近で見る本物のおっぱいに、あっさりと捕まった。息を呑むほど滑らかそうな白さ、触る前からありありと感じられる弾力、綺麗なピンク色の乳輪、中央でぷっくりと主張する小さな蕾。僕の理性よりも本能が先に、この光景を両目に焼き付けなければと、全身全霊を懸けている。

「……ね、そんなに真剣な顔で見られたら、恥ずかしいよ」

 紗夜さんが少し頬を赤らめながら笑い、胸のあたりを小さな手で覆い隠して体をよじった。あんなに大人っぽいキスをする人が、急にあどけない照れ方をするものだから、何だかすごく可愛くてたまらない。僕も思わず笑って、彼女にじゃれるようにすり寄った。

「ダメ、今更隠すの禁止! もっとよく見せてっ」
「あぁ、もうっ……」

 結果的に、彼女を押し倒す格好になる。ベッドに仰向けに倒れ込みながら、わざとらしく不満そうに頬を膨らます彼女が最高に可愛い。初めて紗夜さんに少しだけ優位に立てた気がして嬉しかった。
 一度僕がその手を捕らえて胸から引き離すと、紗夜さんはもう隠そうとはしなくなった。気づけば、自由になった両手で僕の両頬を包み、ふにふにと感触を楽しんでいるようだ。仲睦まじい恋人どうしの触れ合いみたいでとても気分が良いのだけれど、その一方で、僕は顔のすぐ下に広がる光景に釘付けだった。あ、仰向けでも、しっかり山ができてる……。

「……あ、あの、さ、触ってもいい……かな……?」 
「もちろん。舐めてもよし、吸ってもよし、痛くしなければ噛んでもよし。大樹くんの好きにして?」
「えぇっ……!? う、うん……」

 僕の想像より百億歩ぐらい先のことまであっさりと許可されて、思わず面食らう。
 紗夜さんの顔の横に左手をつき、右手で優しくゆっくりと、乳房を下の方から包むようにして揉んでみた。むにむに、と気絶しそうなほど心地良い感触に、たまらず呼吸が荒くなる。

「すっごい……柔らかくて、気持ち、いい……」
「もう少し力入れても、痛くないから平気だよ?」
「……う、うん。わかった……」

 言われるがまま、少し力を加えてみながら、今度は両手で、2つのおっぱいを同時に揉んだ。そうすると感じられる気持ちよさがさらに倍増して、どうしようもなく興奮した。もっと顔を近づけたくなり、体を下方にずらしこむ。
 そんな、精神的余裕も女性経験もまるっきりゼロな僕の姿を楽しそうに眺めながら、飾利さんは僕の髪にそっと手を触れて、問いかけた。

「もしかして大樹くんは、こんな風に女の人の胸を触るのは初めて?」
「え! も、もちろんだよ……」
「そっかそっかぁ。ふふふ」

 何がそんなに面白いのか分からないけど、飾利さんは嬉しそうに笑って、僕の頭をゆっくり優しく撫で始めた。僕は少々のぎこちなさを感じながらも、変わらずおっぱいの極上の触り心地の虜になっていた。僕の片手に収まりきらない紗夜さんの胸は、柔らかいだけでなく、想像していたよりずっと大きいなと感じていた。

「紗夜さんは、その……大きい方、なの?」
「うーん、どうかなあ。自分だとあんまりよく分からないかも。大樹くんは、大きい方が好き?」
「…、え、僕!? ど、どうかな……あんまり、考えたことないや……」

 思いがけない質問返しをされて、言葉に詰まった。紗夜さんのことを好きになってから、どちらかというと彼女を重ねて連想しやすいような、大きな胸の女性が出演する動画を好むようになったのは事実だ。でも、仮に紗夜さんが胸の小さい女性であったなら、それはそっくりそのまま逆になっていたと思う。だからきっと、結論としては……。

「僕は……多分、大きさよりも、好きな人の胸が一番好きだと思う。……だから、他の誰より、紗夜さんの胸が、好き……だよ」
「わぁ、そんなこと言ってもらえて、嬉しいなぁ。……大樹くん、こっちおいで?」
「……んぐ、〜〜〜っ」

 紗夜さんは僕の頭の後ろに手を回し、ぎゅっと抱きしめてくれた。僕の顔は、あっという間に魅惑の白い谷間に埋まりきってしまう。顔全体に柔らかい膨らみがむぎゅううう、と押し当てられて逃げられない。僕は口元を圧迫されながら、声にならない声を上げた。
 ついさっき大きさは関係ないと言ったばかりなのに、こんな禁断の心地を知ってしまっては……! 体内の酸素が薄くなってきて、ぐるぐると揺れる頭の片隅で、そんな情けないことを思っていた。

「ぷはぁっ」

 紗夜さんの手ごと、何とか顔を持ち上げて息を吸う。僕の顔が勢いよく離れたことで、2つの乳房が弾けるようにばらばらのリズムでいやらしく揺れる様に、思わず目を奪われた。

「あれ、もういいの?」
「……う、うん。すごく気持ち良かったけど、息、止まっちゃいそうで……。それに……」

 目の前でふるりと震える先端が、あまりにも生々しく、美味しそうで、たまらない。口づけたい、吸ってみたい、舐めてみたい……きっとこの凄まじい欲にもはや理由なんてものはなくて、男としての本能がそう叫んでいるだけなのだろう。
 彼女の許可も得ているので、ドキドキしながら、でも躊躇うことなく唇で吸い付いた。女の人の敏感なところだから、優しく、優しく……と気をつけながら、舌と唇を使って、その感触を色んな角度から味わう。紗夜さんはお母さんじゃないし、おっぱいなんて出るはずないのに、すごくエッチな味がして、永遠に吸っていたい気がした。

「んっ……っやん、だめ」

 ふと、彼女の乳首の側面を強めに舌でなぞったとき、それまで、優しく微笑みながら見つめてくれていた紗夜さんが、一瞬、眉根を潜め、高くかすれたような声を出した。その瞬間を、もちろん見逃す訳がない。僕はたまらず、ムードもへったくれもなく、直球で問いかけてしまった。

「! 今、もしかして、きもちよかった……?」
「……もう。そんな風に聞くの、野暮だよ? ……分かってるくせに」
「……っっ!!」

 今日何度目かも分からないのに、僕は懲りずにまた紗夜さんの扇情的な目線に撃ち抜かれ、激情の行き場をなくした。何の返事も捻り出せないぐらい悶えながらも、たまらずもう一度乳首を口に含むと、先程より明らかに固くなっているのが分かった。
 「分かってるくせに」って、やっぱり、そういうこと、だよな……。こんな僕だけど、今、少しは彼女を気持ちよくさせてあげられているんだ。それは、与えられるのとはまるで違って、初めて感じるタイプの、全身が震えるほどの高揚だった。不器用なりにではあるけれど、強弱をつけたり、舐めたり吸ったり、行ったり来たりを繰り返してみる。その都度反応をこっそり窺えば、時折漏れる、切なく悩ましげな彼女の甘い声に、僕の体は火傷しそうなぐらい熱く疼いた。

「、ん……ねぇ大樹くん、少し体勢変えてみない……? ここに、寝てみて?」
「? う、うん。……わかった」

 かすれ気味の甘い声で、問いかける紗夜さん。彼女に言われるがまま、一度体を起こした後、正座した紗夜さんの太ももに頭を預け、膝枕の体勢になる。下には柔らかくてすべすべの太ももの感触があり、上には形の良いおっぱいが見えて、まさに至福だった。僕が散々好き放題したせいか、さっきよりも先端のシルエットが尖っている気がして、いっそう激しくドキドキする。紗夜さんが僕の頭の後ろに優しく手を添えて、ゆっくり上半身を前方に傾けてくれた。僕の顔に彼女の乳房が近づいたので、そういうことかと、吸い寄せられるように乳首を口に含んだ。

「そう。えらいえらい、大樹くん」
「は、ぅんっ……」

 まるで赤ちゃんになって授乳されているような格好で優しく体を撫でられ、正常な思考がみるみるうちに溶けて消えていく。こんなプレイがあるなんて見たことも聞いたこともなかったけれど、かつてないほど安らぎ、一方で興奮している自分がいた。紗夜さんは、僕自身も知らない僕の性癖を、僕以上に熟知しているに違いない。理由なんて、考えても仕方がないだろう。

 いつのまにか僕のトランクスは脱がされていて、夢中でおっぱいを味わっている間、ドクドクと脈打つソレに、彼女の手のひらがそっと優しく触れたのを感じた。その瞬間、自分がどうしようもないほど欲情している雄なのだと思い知らされる。卑猥なギャップの中で、際限なく増幅していく快感。

「ふふ、たくさん飲んで、可愛い」
「うん……、紗夜さんのおっぱい、おいしい……もっと、ちょうだい……?」

 熱に浮かされながら、僕は羞恥心もプライドも何もかも放り出して、幼い子どものように、それはもう思いっきり彼女に甘えた。母性の象徴ともいえる大きな乳房を下から支えるように添えていた左手をぐいと自分の方に寄せて、顔全体を乳房に押し付け、より深く乳首を咥え込んだ。そうしたらあまりにも心地がよくて、そっと目を閉じる。さっきよりも一層強く香る彼女の匂いに、頭がくらくらした。

「あ、また固くなった〜?」
「っ、あっ、……!!」

 楽しそうに囁き、紗夜さんは僕の性器を刺激する右手の力を少し強めた。たったそれだけの刺激でも、全身に電気が走ったような衝撃に貫かれ、信じられないぐらい甘い声が漏れる。

「待ってぇ、だめっ……! イっちゃ、」
「ふふ、ほんと? まだあんまり力入れてないよ?」
「うぅっ、……だってぇ……」

 『大好きな人に、こんなとんでもないコトされてるんだよ!?』と、言葉にならないありったけの想いを込めて、彼女の瞳を見つめた。僕の涙ぐんだ視線を正面から受け止めると、彼女は妖艶に微笑んだ。

「……ずるいなぁ……。そんな顔されたら、イジワルしたくなっちゃう」

 ぽつり、消えるような声で呟いたかと思うと、一瞬で僕の視界が暗闇に染まった。やがて、彼女が温かな左手の手のひらで、僕の視界を遮ったのだと気づく。でも、何のために?……と、次の瞬間、痺れるような快感が下から駆け上がってきた。

「あぁっ…… !? ッッ!!!」

 反射的に上げてしまった嬌声すら、紡ぐことを許されない。僕の口元に紗夜さんが覆い被さり、柔らかくて甘い唇に、優しく塞がれてしまったから。
 視覚を奪われたことでさらに鋭敏になった性器を容赦なく扱かれて、舌の弱いところをぬるぬると責め立てられ、僕は呼吸も身動きもままならなかった。自分の意思のとおりに動かせるものはもはや何ひとつない。視界は真っ暗だが、くすくす笑っている紗夜さんの目元が辛うじて見える気がする。あぁもう……! ずるいのはそっちじゃないか!

 我慢しなきゃ、と思う間もなければ、そばにあるかもわからないティッシュを手に取る余裕すらない。やがて、そのタイミングを正確に把握していたらしい紗夜さんがぴたりと動きを止めたのと同時に、僕は彼女の右手の中で盛大に白濁を吐き出した。

 それを合図に、紗夜さんはようやく僕への濃厚な口付けを終えた。解放され、ハァハァと息を荒くする僕を見下ろしながら、まるで僕と同い年ぐらいに見えるような、いたずらっ子の笑顔を浮かべる。

「もう、大樹くん可愛すぎ」
「やだぁ、見ないでぇっ、なんで、止まらな……っ、」

 死ぬほど恥ずかしいのに、紗夜さんの華奢な手のひらの中で、いつまでも射精が止まらない。一人でするのとは比べ物にならない興奮と快感のせいなのか、普段では考えられない量の精液を、今なお吐き出し続けていた。ティッシュもタオルも敷いていないベッドの上に、あっという間にシミを広げていく。

「っ、紗夜さんのベッド、汚してごめんなさい……!」
「あはは、そんなこと気にしなくていいよ。……、ほら、もう止まったみたいだし。ね?」
「……っうぅ、……」

 情けなくたらたらと精液をこぼしながら、僕は恥ずかしさと情けなさのあまり、顔を両手で覆った。指の隙間から覗くと、紗夜さんは、ベッド横のティッシュをさりげなく取って、嫌な顔一つせず、手際よく僕の粗相の後始末をしてくれていた。

「はい、これで綺麗だよ」
「……ぐすっ、あ、ありがとう。……紗夜さん、その……。こ、こんなときに言うのも、すごくカッコ悪いし、おかしいんだけど……」

 彼女の膝枕の柔らかさは捨てがたかったが、ゆっくりと上半身を起こした。彼女と向き合う形になり、その耳にそっと手をかける。やや汗ばんだ紗夜さんの髪の生え際を、さらさらと手ですいた。彼女は、僕の手に自分の手を重ねて、僕の言葉の先を促すように微笑んでいる。そこはかとなく甘やかな雰囲気が流れ、良い匂いが鼻を掠めて、切なく鼓動が高まっていく。

「僕……富井大樹は、飾利紗夜さんのことが、好きです。……僕はアイドルで、恋愛禁止なのに、よりにもよって仕事仲間を好きになってしまって、絶対に許されないことだって、分かってる。何回も諦めようとしたけど……でも、もう自分じゃ止められないぐらい、大好きなんだ。……だから、お願いです、ずっと僕の隣にいてください」

 紗夜さんの瞳をまっすぐに見つめながら、きっと僕が生涯でするであろう中で、最も無茶で無謀で無粋な告白をした。どう考えても順序がおかしいし、散々情けない姿を見られた直後という最悪のタイミングだけれど、僕の心の中は紗夜さんへの激しい想いで溢れ返ってしまい、もう伝えずにはいられなかった。全て伝えきった瞬間、色んな感情がとめどなく押し寄せて、両目に涙がこみ上げる。

「……ありがとう。勇気を出して、言ってくれて」
「……ごめんなさい。紗夜さんにとっては、迷惑、だよね……」
「ううん、すごく嬉しい。私もあなたが大好きだよ、大樹くん」
「……えっ……!?」

 まさか、まさか!! そんな答えが返ってくるとは夢にも思わず、思わず俯いていた顔を上げ、彼女をまじまじと見つめた。彼女は、頬を紅潮させて微笑んだかと思うと、そのままぐっと体ごと寄せてきた。どこもかしこも柔らかくて滑らかな彼女の肌の感触に、また凝りもせず下半身が熱くなるのを感じる。すっかり虜になってしまったその唇めがけて、僕はーー



「…………はっ、」

 目を開けると、薄暗い、見慣れた天井がそこにはあった。ぐっしょりと濡れている下半身の不快感のおかげで、僕は瞬時に今夜自分の身に起こった全ての事象を理解し、現実に戻ることができた。

 ……いや、まぁ、そりゃ、そうだよね……。
 途中から、いや最初から、絶対的に何かがおかしいとは思っていた。僕にとってはあまりにも幸せな展開だったので、ついついそのまま突き進んでしまったけれど。
 彼女のことはもちろん異性として好きなわけだし、そういう妄想をこれまで全くしたことがないといえば、嘘になる。でも、それにしても、こんな夢を見てしまうだなんて、自分で思っている以上に僕は欲求不満だったのかな……。
 夢の中とはいえ、あんなことやこんなことまで、彼女にさせて……

「!」

 夢の中のワンシーンを思い出しただけで、頭がくらくらして、体が火照るように熱を帯びる。もちろん下半身もしっかりと反応する。
 これは……色々と、まずくないか?

「……うぅ……明日から、どんな顔して会えばいいのかなぁ……」

 所詮は夢で、それ以上でもそれ以下でもない。
 それでも、息を呑むようなリアルが、いつまでも冷めない熱とともに、僕の心を絶え間なく、静かに掻き乱していた。


読んでくださり、ありがとうございます♪
生まれて初めて世に出させていただくR18作品がトミーと綺麗なお姉さんのイチャイチャファンタジーになるとは、自分でもびっくりです。ありったけの愛を込めて、好き放題書かせてもらいました〜!

←前の作品 | →次の作品


トップ : (忍者) | (稲妻) | (スレ) | (自転車) | (その他) | (夢)

いろは唄トップ
×
- ナノ -