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いっそ憎んでしまえたら

「オレ、夏未と付き合うことになったんだ。アキに一番最初に伝えたくてさ。ほら、ずっと応援してくれてただろ? ありがとな。ほんと、アキのおかげだよ」

 照れくさそうに笑う円堂を見て、秋はじんわりと喉の奥のほうに込み上げてきたものを堪えるのに、ただ必死だった。

「……、そう。おめでとう、円堂君」

 微かに震えた声だったが、良くも悪くも鈍感な円堂にはバレなかったようで、自転車を引きながら彼はにっこり笑った。秋の大好きな笑顔。かつてはサッカーをしているときにしか見せなかった顔だったのに、いつのまにか夏未の隣にいるときや、彼女のことを話しているときにもこんな顔をよくするようになっていた。

「じゃあ、もう一緒に帰れないね。これからは夏未さんと一緒に帰るでしょう?」
「あー、そっか……確かにそうなるのかな」
「確かに、ってそれが恋人の醍醐味じゃない」
「……言われてみれば、そうかぁ。中学の頃からずっとだから、すっかりアキと帰るのが当たり前になってた」

 はは、と楽しそうに笑う円堂に対し、秋も笑みを浮かべた。胸に渦巻く薄暗い感情を悟られぬよう、いつもと同じでいることを精一杯心がけて。あれ、いったい私は、今までどんな風に笑っていたんだっけ。

「……アキ、どうかした?」
「えっ……どうして?」
「いや、何となく。ちょっと元気なさそうかなーって思って……気のせい?」

 この人にさえ見破られてしまうようなら自分の空元気もまだまだだな、と秋はたまらず苦笑する。それとも円堂は、“秋だから”気づいてくれたのだろうか。秋が円堂のほんの僅かな異変も感じ取ることができるように、円堂も秋のことなら何でもお見通しなのだろうか。もし本当にそうなら、どんなに――。

「うーん、やっぱりいつものアキじゃないなあ。具合悪そうっていうか、なんかいつもと違う感じなんだけど……やっぱり何かあった?」
「もう、円堂君は心配性なんだから。大丈夫よ、何でもないから」
「そうかあー? いつも助けてもらってるばっかりなんだから、たまにはオレにもアキを助けさせてくれよ」
「ふふ、ありがとう。気持ちだけで充分だよ。それに私だって、いっつも円堂君に助けてもらってるもの」
「んー、まあ、アキがそう言うならいいけど……」

 いまだ腑に落ちなさそうな円堂。もし今この瞬間、自分が好きだと伝えたら、単純だけれど優しい彼のことだ、きっと心の底から戸惑ってしまう。あの日あのとき、夏未との仲を応援する振りをした小賢しい自分には、そんな風に彼を困らせる権利は、もうとっくにないはずだ。溢れ出さんばかりの自らの激情を、理性をもって静かに制した。

「それじゃあ、ここで」

 一緒の帰り道、いつもと同じ二人の別れ道。此処に二人で来るのは、きっとこれが最後だ。

「ホントに平気か、アキ? 家まで送ろうか?」
「いいってば!!」

 もう我慢の限界で、そう言いながら円堂から顔を背け、家路へ急いだ。背中に円堂の心配そうな視線を感じながら、いまだ同じ場所で立ち止まっている円堂の気配を感じながら、秋は顔をぐしゃぐしゃにして泣いた。どうやら家に一直線では帰れなそうだ。

 いっそ、思い切り自分勝手になって、彼のことを一方的に憎んでしまえたなら、どれだけ楽だったんだろう。"叶わないのなら最初から好きにならなければよかった"なんて、そんな安っぽいポエムのように悔やめる失恋だったら、どれだけ良かったか。そう思えないのは自分が彼を心の底から愛しているから。彼が自分にいつもと同じように優しいから。
 嗚呼、どうして、どうして――私じゃなかったんだろう。


やっぱり円秋はイナイレという作品そのものの、あるいは主人公円堂守の原点だと思うんですよね。
あー好きだなあ円秋……。円夏も好きですが。円冬も好きですが。円塔も円春も好きですが。(説得力0)

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