main | ナノ


-----main-----



君の存在だけ射程距離内

文字通り“目の前”でオーラを放ちまくっている彼の姿はあまりに爽やかで、思わず目を逸らしたくなった。
至近距離で見れば見るほど、その顔立ちの端正さを認識せざるをえない。
いつぞや春奈が楽しそうに話してくれた、白恋中エースストライカー・吹雪士郎のモテ伝説の数々。
怪しい話がほとんどだったが、これほどの美貌とオーラを持っているのなら、あるいはそれらも事実なのだろうと冬花は思った。

「あの……吹雪君?」
「うん?」

体温の上昇を知られまいとして、右腕を自分の方に引き戻そうとする冬花。
ところが手を引っ張ろうとした途端、それにぴったり釣り合うような強さで吹雪が彼女の手首のあたりを握る力を強める。
そうされると冬花はもう動けない。その一方でまったく痛みはないから、吹雪がその都度、彼女の力量に合わせてくれているのだろう。
理科の授業で習った『力のつり合い』を身近で感じられる、ぴったりの事例であった。
大きさが同じ、向きが逆向き、それから――。


「そろそろ、離してもらえませんか? ……あの、もう大丈夫ですから」
「うーん、ちょっと無理かな」

眩しい笑顔でそう言う吹雪は、依然として冬花の右手首を握ったまま。

事の発端は、段差につまづいて転びそうになった冬花を、偶然近くにいた吹雪が体を支えて助けたことにあった。
“大丈夫、冬花さん?”と囁く声に、自分でもびっくりするぐらい心臓が跳ねて。
顔を赤くしつつ振り返ってお礼を言う冬花に、眠る狼の性が呼び覚まされてしまったらしく。
不敵な笑みを浮かべた吹雪が、近くにあったおあつらえ向きの壁に冬花を押し付けて、今の状況に至る。

「……ど、どうして……」
「聞きたい? 冬花さんのこと、イイなぁってずっと思ってたからだよ。一体いつからボクがこうなることを期待してたかなんて、君は知らないだろ?」
「……えっ……?」

吹雪の方が場慣れしている上に女慣れしている。終始あたふたしているばかりの冬花より、彼は二枚も三枚も上手だった。

「林檎みたいになっちゃって、今時珍しいぐらいの純情ちゃんだなあ。ほんと可愛いや」

思わず見惚れてしまうぐらい綺麗に微笑みながら、吹雪は流れるような手つきで、冬花を捉えているのと反対の手で彼女の頬に触れる。
冬花の体が、その冷たさに思わずビクンと跳ねた。
自分の頬が火照りきっているのか、それとも雪国育ちの彼の体温が低いのか。
只でさえ混乱しており、どちらか解らないのは仕方ないとしても、彼女としてはできれば後者ということにしておきたい。

吹雪は冬花の白い頬をくすぐるように指でそっと撫でながら、更に彼女との距離を狭めようと顔を近づける。

「やっぱり、冬花さんって綺麗だよね。うちはマネージャーが四人とも可愛いから皆大して騒がないんだろうけど、そこらのサッカー部に冬花さんが突然入部したりしたら、あっという間にアイドル扱い間違いないよ」
「……っそ、そんなこと、ないです……それに……ふ、」
「うん?」
「ふ、吹雪君の方が……綺麗だと思う……」

恥ずかしさが極限に達し、徐々に目が潤んできている冬花。
うわあソソるなあ、なんて不謹慎なことを考えていた吹雪は、その突拍子もない台詞に唖然とする。

「えーっと……ごめん、よく解らないな。どういうこと?」
「だって、こ、こんなに近くから、……吹雪君の顔、まともに見られない……っ」

冗談抜きで冬花は吹雪の顔をこれ以上見ることができないらしく、可能な限り目を右の方にずらした。
少しでも視界全体に占めるこの男の顔面の割合を減らさなければ、と本能が訴えている。

「……それって、告白?」
「えっ、や、ち、違……っ」
「違うの? 本当に? 考えてみてよ。好きでもない奴に、君はそんなことを言うのかい?」
「……っ、……」

相変わらず吹雪の口調は楽しげで、間違っても自分の敵う相手でないことをこれでもかというほど強く実感する。

「わ、解らないよ……っ、もう……」
「じゃあ、好きなように解釈させてもらうよ?」
「……っ」

何か言いたげに、冬花は真っ赤になって吹雪から顔を背ける。

――悪いね、キャプテン。

吹雪は口元に薄く笑みを浮かべながら、冬花の柔らかな頬に触れる自らの指先を、そっと唇まで滑らせた。


読んでくださり、ありがとうございます♪
男前イケイケ野郎な吹雪(士郎)、何をかくそう、めちゃめちゃ好きです。
そしてふゆっぺは翻弄される姿も似合う。冬コンビ可愛いです。

←前の作品 | →次の作品


トップ : (忍者) | (稲妻) | (スレ) | (自転車) | (その他) | (夢)

いろは唄トップ
×
- ナノ -