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セレネイドはまだ終わらない

 彼女の人目を惹く儚げな美しさは、今日も変わらない。彼女の切なげに細められた目線は、今日も変わらない。
 初めて会ったときから、ずっとそうだった。彼女は当人がそこに居ようと居なかろうと、いつだって円堂守のことを第一に考えていて。目の前にいるエドガーの存在なんて、本人にそんなつもりはないのだろうが、いつまでたっても二の次に過ぎなかった。

 たくさんのチームメイトたちに囲まれて、笑顔を振りまいている彼。そんな彼を切なそうに、だが愛しげに見つめる冬花の姿は、狂おしいほどに可憐である。数ある彼女の表情の中でも、円堂を想っているときの冬花のそれは恐らく至高のもの。しばらく見つめていたくもあったが、それでもやはり悔しく思う気持ちの方が強く、円堂から少しでも目を離してくれるよう、わざと彼女の後ろから、彼女の憂いに無粋に踏み込むようにして、話しかけた。

「ご機嫌よう、冬花さん」

 案の定、冬花は薄藤色の髪を華麗に舞わせながら、振り返る。恭しく一礼した英国紳士の姿が目に入り、冬花は気まずそうに目を下の方にずらした。

「あ……、こんにちは」
「こんにちは。イナズマジャパンの調子はどうですか?」
「え、っと……順調だと、思います」
「そうですか。それは何よりだ」
「はい……」

 出会ったときからまるで変わらない一方通行の感覚に、エドガーは心の中で小さく溜息をついた。
 冬花は一度たりともエドガーの目を見ようとはしなかった。如何せん第一印象が第一印象だったのだから仕方ないと言えばそれまでなのだが、今となってはエドガーだって円堂のことを認めているし、自らの非礼を悔いてもいる。

 きっと冬花も馬鹿ではないし、エドガーの円堂に対する真摯な反省の態度に気づいていないということはないのだろう。けれど、それでもなお、彼女はエドガーを避けていた。目に見えて避けているというより、一線を引いているという感じ。

「……あの……守君、呼びますか?」
「いえ、結構です。彼に用事がある訳ではありませんので」
「そう……ですか」

 冬花はまた俯いて、エドガーの目を見ないようにした。これが、気の弱く、心優しい彼女にできる精一杯の拒絶だった。

 数々のタイプの女性と接してきたエドガーは、冬花がそうして自分を何とか諦めさせようとしていることを、全て知っていた。だが困ったことに、その謙虚さや、できるだけ人を傷付けまいとするその優しさは、今や彼の想いを加速させる結果にしか繋がらないのだった。そうとは知らず、否、知っていてもやはり彼女にはそうすることしか出来ないのだろうが、エドガーとは目を合わせず、笑顔も浮かべない。

「私は、貴女にお会いしたかっただけですから」

 気づいていない振りをして、英国紳士は今日も笑う。

「では、また来ます」

 その心底困惑している表情に、一段と深く、過ぎた想いを寄せながら。


読んでくださってありがとうございました!
エド冬はひたすらエド→→→冬。ふゆっぺが矢印向けるところがさっぱり想像できない(笑)
「セレネイド」はいわゆる「セレナーデ」のことです。英語ではこう言うらしい。

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