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紡ぎ出した返事

「ええ、え……あの、アキ……?」
「なぁに、円堂君?」

 顔を赤らめつつも落ち着きのある笑顔で答える秋に、円堂は尚のこと慌ててしまう。何であんな大胆な告白をした張本人が、こうまで落ち着いていられるのだろうか。それとも、馬鹿みたいに焦っている自分の方がおかしいのか。秋が普通なのか。そんなことない、そんなこと……!

「……っと、その……オレ、確かにアキのことは好きだ。好きなんだよ。大切な仲間だ。今までずっと、オレと一緒にサッカー部を支えてきてくれたこと……すっげー、感謝もしてるっ」

 途切れ途切れになりながらも、うまく収拾のつかない自分の気持ちを纏め上げて、円堂は拙いそれを口に出す。その一言一句を決して聞き漏らすことのないよう、秋は静かな気持ちで聞いていた。大好きな人からの、感謝の言葉。嬉しくない訳がない。

「うん。ありがとう」
「それに、アキがオレを好きって思ってくれてること、それをオレに打ち明けてくれたことは……ほんとに、ほんとにっ、嬉しい。言葉にするの難しいけどっ、でも……迷惑とかじゃ、全然ないんだってこと、解って欲しい」

 円堂が円堂なりに一所懸命、自分のありのままの思いを何とか秋に伝えようとしていることを、秋はしっかりと感じ取った。だからこそ、柔らかな笑顔で、力強く頷くことができたのだ。

「けど……オレ、今までサッカーばっかりやってきたから、そーいう……好き、とか……よく解んないんだ」

 その返答が申し訳ないと思っているのか、円堂はいつになく小さい声でぼそぼそと呟く。確かに、相手によってはその曖昧とも言える返事が、非難されることもあるかもしれない。それぐらいの常識はあるからこそ、円堂はどうしても後ろめたい気持ちを隠しきれなかった。
 だが、秋に限ってそんなことはあるはずない。だって彼女は、誰から見たって、円堂守の一番の理解者。

「やっぱりね。円堂君なら、そう言うと思ってた」
「……へ?」

 目を泳がせていた円堂は、きょとんとして秋の顔を見た。その瞬間ぴょこんと揺れる前髪が何とも可愛らしく、秋はくすっと笑う。

「すごく嬉しいよ。円堂君の気持ち、ちゃんと聞かせてもらったから。もう十分」
「じゅ、十分ったって……オレ自身、こんなの返事になってないって解ってるのに!」
「私は、円堂君が精一杯考えて出してくれた答えに、ケチをつける気なんてちっともないもの」
「……」

 満足げにそう言う秋に、円堂は黙り込んでしまった。秋はそう言っているけれど、もし自分が彼女の立場だったのなら、きっと納得いかないだろう。

「けど、アキ……」
「もういいの。嘘じゃないよ、私本当に嬉しかったんだから!」

 にっこりと本当に嬉しそうに笑う秋は、綺麗だった。健気だった。だから、彼女の言葉は嘘ではないのだとはっきり悟った。
 その瞬間、円堂の心に心地よく吹きつけたのは、甘い風。

「ごめんね、遅くなったね。せっかくだから、一緒に帰ろう?」

 スクールバッグを膝の前に提げて、秋は円堂に微笑んだ。どくん、どくん。何かが、生まれ始めている。

「円堂君?」
「……ああ、悪い! そうだな、明日も早いもんな」

 少しばかりぼーっとしていた円堂は、秋の声で我に返る。彼女の隣に並んで、一緒に帰った。
 何だろう、この変な気持ち。多様に変化する彼女の表情を至近距離で見つめながら、円堂はぼんやりと考えていた。

 “変”が“恋”に変わるのは、もう少し先のお話。



読んでくださり、ありがとうございました。
円→←←←秋ぐらいの関係が……良い……!
『変』を書こうとして『恋』を書くことはまずないんですが、逆はしょっちゅうあるなぁ(笑)

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