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宣戦布告(3)

「ま、まだあるの……野咲さん、凄いんだね……」
「駄目な告白沢山されたからって凄くなんかないわ。とりあえず、目ぼしいところはこれで最後だから」
「う、うん……」
「最後は、優柔不断な告白。そいつは告白の前からかなり頑張ってそれらしいムード作ってくれたのよね。正直言って、私も何だかんだで結構その気になってたの。でもね、それだけ用意周到だったのに、いざ告白のときになって……そいつ何て言ったと思う?」
「……え、えぇと……なんだろう……」
「あろうことか、“オレ、お前のこと好きかも”って言ったのよ? そこまでしといて、“かも”って何よ“かも”って!? 自分の気持ちぐらいちゃんと確かめてから私のところに来なさいっての!! どっちに転んでもいいように保険かけてるのがバレバレだわ」

 一気にまくし立てた後、はーっと吐き捨てるような溜息をついた。森村さんはその勢いに圧倒されているようで、何の返答もしていなかった。そしてボクの隣に座る鉄角君は、何も言わずふらりと立ち上がる。

「……キャプテン、皆帆、オレももう寝ることにする」
「う、うん……また明日ね」

 ここまでくると余計なフォローをするのも無粋に思えて、ボクは必要最低限の台詞だけで、鉄角君のかつてないほど小さく見えた背中を見送った。

「ううん……なんか今日の皆、やっぱり変だよね……。オレ、心配だから真名部たちの部屋ちょっと回ってくる! 皆帆、おやすみ」

 正義感溢れるキャプテンは、真剣そのものといった表情で部屋を出て行った。つい十数分前までは6人で談笑していた筈のこの大きな丸いテーブルに座っているのは、ついにボク一人だけになってしまったという訳だ。野咲さんの爆撃の効果の、なんと恐ろしいことか。

「ここ最近だと、そんな感じかしら。いつのまにか愚痴みたいになっちゃってごめんね」
「ううん。な、なんだか凄い話だった。告白って、色んな種類があるんだね……」
「そう、だから九坂みたいに素敵な告白が出来る人って滅多に居ないのよ。そのこと、ちゃんと憶えててあげてね」

 こくこく、と森村さんは何度も頷いた。小動物のように愛らしい仕草に、野咲さんも堪らず目を細めている。やがて森村さんは小さな欠伸をしたかと思うと、野咲さんに挨拶し、そしてくるりと振り返った後ボクにも軽くお辞儀をして、ミーティングルームを出ていった。

 8人もの大所帯だったミーティングルームには、最終的にボクと野咲さんだけが残っている。
 さて、この状況、何と声をかけたものか。少し考えていると、野咲さんは不敵に笑って席を立ち、先程まで森村さんが座っていた椅子に座った。ボクとの距離が、いっそう縮まる。

「ねえ。随分楽しそうに聞いてたじゃないの、皆帆?」
「……あ、やっぱりバレてた?」

 人差し指で頬を掻きながら訊いてみると、彼女は盛大に笑った後に、軽く息をついた。

「何言ってんのよ、誤魔化す気なんて最初から無かったくせに。……ほんと、盗み聞きなんて趣味が悪いわね。まあ、それを言ったら他の男子たちもそうなるけど」
「盗み聞き、って……野咲さんもなかなかキツいこと言うなあ。ボクの考えだと、たぶんこっぴどくフラれた今でも、彼らはキミのことを完全に諦めきれた訳じゃないんだと思うよ。だからこそ、キミの話に耳が勝手に傾いたんだ」
「ってことは何? グランドセレスタ・ギャラクシーが終わるまでは、私は落ち着いて内緒話も出来ないってことになるのかしら。そんなの困るわよ」

 少しも詰まることなく、次々に鋭い言葉で返してくる野咲さん。

「解ってて、わざと今日この場所でそんな話をしたんじゃないのかい?」
「あらあら、私ってそんなに性格の悪い女に見えるの?」

 椅子の背もたれに肘をつきながら、くすくすと笑う。彼女の妖しい魅力を纏う微笑は、年齢相応にも見えるし、妙に大人びても見えるから、不思議だ。

「ああ、見えるね。むしろ、そうじゃなかったらボクが困るよ」
「……困る? 何で皆帆が困るのよ?」

 野咲さんは、怪訝そうに眉を潜めた。そういう一つ一つの細かい動作にも、彼女には何ともいえない女性らしさがある。ボクは含み笑いを隠さずに告げた。

「理由は単純明快。キミという人間に物凄く興味があるからさ。ボクは人間観察が趣味なんだけど、野咲さんみたいな人を見るのは生まれて初めてなんだ。本当に底が見えなくて、正体が掴めなくて、真意が解らない。とにかく色々な意味で興味が尽きなくて、キミをもっと知りたいんだ」
「ふうん……興味、ねえ。…………ねえ、それで?」

 野咲さんは口元を僅かに歪ませて、整った顔立ちを主張するかのように、ボクに少しずつ顔を近づけてきた。女の子らしい甘い匂いがボクの鼻を掠める絶妙の距離までくると、ころりと小首を傾げる。一般的な中学男子であれば、この仕草だけでイチコロだろう。成程、彼女はいつもこうやって男をその気にさせているという訳か。真名部君、瞬木君、井吹君、鉄角君――全くタイプの違う彼らに対しても、それぞれに効果的なやり方を用い、さぞ容易く攻略してしまったことだろう。やはり野咲さくらは、ボクが見込んだ通り、とんでもない悪女だった。

「今はそれだけさ。きっとこの気持ちには、もっと直接的な表現方法もあるんだろうね。でもそれは、今日の話を参考にして、キミの機嫌を損ねない上手い言い方を考えてから伝えることにするよ」
「……!」

 ボクの発言がまるっきり予想外だったのだろう、彼女は小さく息を呑んで双眸を丸くした。そうさ、ボクは決して彼らと同じ轍は踏まない。

「今ので、キミの好みも大体解ったことだしね」

 にっこり笑って、堂々と宣戦布告を告げてやった。やがて野咲さんの形の良い唇が、ゆっくりと弧を描いてゆく。

「アンタ、面白いわ」



読んでくださってありがとうございましたー!
あの、私は、みんな仲良しなアースイレブンの子たちが大好きなんです……(説得力皆無)
天馬、剣城、神童、信助、九坂以外のアースイレブン男子たちは全員さくらちゃんを好きだといいな!と以前から思っていて、その中でも特にみなさくを推していて、あとそれとは無関係に初期の腹黒さくらちゃんが大好きでして……それらを無理矢理まとめた結果がこれ。ちなみにこれ書いたとき、座名九郎さんはまだ本編未登場でした。


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