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宣戦布告(2)

「その2は、ツンデレ告白」
「ツンデレ……?」
「さっきと逆パターンって言ったら、解りやすいかしらね? まず最初に相手――つまり私のことをひとしきり悪く言ってくるの。やれお前は性格が悪いだのプライドが高いだのそんなんだから彼氏も出来ないだの、ってね。その後で、“そんなお前を受け止めてやれるのはオレしかいない”っていう流れに持ってくる訳。なんていうかもう……初めて聞いたときは、怒りとか通り越して驚いちゃったわよ。失礼にも程があるでしょ。そもそも、告白って概念をどう婉曲して捕らえたらそうなるのかしらねえ?」

 なんとも酷い話だな、野咲さんが怒るのも無理はない――ボクも同意してた矢先、突然ガタンと大きな音がした。何かと思って正面に目をやれば、どういうわけか瞬木君が何の脈絡もなく立ち上がっている。件の音は彼が立てた椅子の音だったようだ。

「ま、瞬木……? どうかしたの?」

 キャプテンの問いかけに返事はない。立ち上がったまま動かないでいる瞬木君の表情は、誰が見てもそうと解るほど不快感に満ち溢れていた。井吹君と鉄角君は怪訝そうな顔をしている。それはそうだろう、つい先刻まで男子テーブルで展開されていたのは、間違っても彼がいきなり不機嫌になるような話題ではなかったからだ。

「瞬木……?」
「寝る」
「お、おいっ」
「うるせえな!! オレはもう寝るんだよっ」

 ドスドスと大きな足音を立て、壊れんばかりの勢いでドアを閉めて、苛立ちを寸分も隠さずに自室に向かって行った瞬木君。残された井吹君と鉄角君とキャプテンとボクは顔を見合わせる。

「一体どうしたんだろう、真名部だけじゃなくて、何だか瞬木も様子がおかしいみたいだ……」
「……、そうなのかもしれないな……」
「井吹、何か心当たりでもあるの?」
「いや、言うほどの根拠はないんだ」
「そっか……」

 困ったように眉を潜めるキャプテンと、苦々しい表情で俯いている井吹君は対照的だった。井吹君はボクと同じで、今度こそ完全に事情が把握できてしまったのだろう。鉄角君も、薄々感づき始めているようだった。

「あ、あれ? 瞬木君、何だか急に怒っちゃったみたい。どうしたんだろう……?」
「あんな気の短い奴、気にしなくていいわよ、どうせ男子たちになんか言われて頭に来ただけだって。ほら、こっちはこっちで話を続けましょ」
「う、うん……」

 野咲さんのやけにそっけない反応からしても、やはり間違いないようだ。どうしたものか、これからの展開が恐ろしくて堪らない。未だどこか落ち着かなさそうにしている森村さんに、野咲さんは先程と何ら変わりない口調でまた話し始めた。

「えーと、その1、その2と来て……その3か。そうそう。その3はメールの告白」
「メールで告白されたの?」
「ええ。内容自体は、特に鼻につく要素もなかったし変に回りくどくもなかったわ。相手も、まあ付き合うかどうかは別問題にしても、そんなに嫌いな奴じゃなかったの。ついでに言うと結構イケメン。……でも、すぐに断ったのよね」
「そ、そんな……どうして?」
「うーん、そうね……一言で言えば、向こうがどういうつもりで言ってるのかが全然解らないからかしら。ひょっとしたら罰ゲームかもしれないし、悪戯かもしれない。文面だとそれが判断できないから、返事のしようもないのよ。九坂が好葉にした告白だって、もしあの文章のままでも、突然メールで来たら意味不明でしょ? “オレの彼女にしてやるから元気出せ”なんて言葉は、あのタイミングで、あの真面目な顔で言われたからこそ好葉の心に届いた。違う?」

 咄嗟に質問を投げかけられて驚いたらしく、森村さんは慌ててぴんと背筋を伸ばした。そして、質問へのシンキングタイムと思われる数秒間が経過した後、小さな声で呟いた。

「……うん……確かに、そうかも」
「ね、ちょっと考えれば解ることでしょ。けどその人が私にメールで告白してきたっていうのはつまり、その程度のことも思いつかなかったって訳だからさー。悪いけど、その時点で恋人としてはパスって感じよね」
「そ、そっか……厳しいね。その人、ちょっとお気の毒……」

 森村さんがささやかな同情の意を示すのと、井吹君の瞳の焦点が合わなくなり始めたのは、ほぼ同時刻の出来事だった。彼の健康的な色の肌がどんどん青くなっていき、隣に座るキャプテンが心配そうに声をかける。

「……井吹? 顔色が悪いぞ。何だか、目も潤んでるみたいだけど……」
「くっ……、め、目にゴミが入ったみたいだ……悪い、オレも部屋に戻る」

 流石は井吹君、実に男らしい。言いたいことは山のようにあるのだろうが、何も語らずにその場を後にした。キャプテンは依然として頭の上に?マークを浮かべている。

「そして、その4」

 一方の鉄角君は、野咲さんによる最後のカウントダウンがなされた瞬間、肩を強張らせた。何と言うべきか、彼女は――本当に容赦がない。



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