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最後の嘘は優しい嘘でした(1)

 ヒナタを勧誘しに行った夜、ペインが暁のアジトへ帰ってくるや否や、一人の青年がドタバタと忍らしからぬ足音を立てて駆けつけて来た。

「っ、ど、どうだったんだ……っ!?」

 その目、その落ち着きのない物言いが彼の心情全てを物語っている。ペインはその震える目蓋を静かに見つめ、やがて目を伏せて綺麗に微笑んだ。

「デイダラ、残念ながら失敗だ。気持ちいいぐらいにフラれてきた」

 それを聞いて固まるデイダラ。ペインの柔らかな笑みは目前の芸術小僧の心を極めて不愉快にしたらしく、デイダラは激昂のあまり髷を逆立てて怒鳴り上げた。

「……っんだとォ!? 絶対成功するっつったのはリーダー、アンタだぞッ!!」
「木ノ葉の里は大嫌いだそうだが、それを守る仲間たちは大好きだと言っていた。ヒナタはオレが思っていたほど単純で非情な女ではなかった、それだけのことだ」
「何馴れ馴れしく名前で呼んでんだよ、うん!?」
「ヒナタ本人にもそう呼びかけたが、嫌がらなかったぞ」
「そういう問題じゃねェ!! だいたいッ、……」

 思いのままに声を荒げていたデイダラだったが、途中で口を閉じ、悔しそうにその視線をピアスだらけの痛々しい顔面からずらす。

「……ッもういい、オイラが行く。最初からオイラが直々に行けばいい話だったんだ」
「究極芸術が完成するまでは会わないんじゃなかったのか?」
「あいつ相手じゃ、そんな悠長なことも言ってられねェだろーが。それに、オイラだってあの頃よりは確実に進化してるハズだしな……うん」

 デイダラはぶつぶつ何かを言いながら自室へ戻っていった。なんとなくその場を離れる気になれず、そのままそこに立ち尽くすペイン。

 数分経つと、暁の装束に身を包み、身支度を終えたらしいデイダラが現れた。履きかけの靴のつま先をトントン整えながら、先程と同じようにそうしているペインを見て、目を丸くする。

「アンタまだ居たのか? 暁のリーダーってのも意外と暇なんだな」
「ヒナタのところへ行くのか?」
「それ以外何があるってんだ」
「……そうか。お前には遠く及ばないだろうが、オレもあの女をそれなりに気に入ってしまったようだ。健闘を祈るぞ」
「今更あいつの魅力に気づいてるようじゃ遅せーよ。そんじゃ行って来るぜ、うん」

 お馴染みのデザインを施された巨大な鳥の背中にひょいと乗っかり、デイダラはペインに向かって右腕を挙げ、木ノ葉の里へと飛び立っていった。



 深夜には手薄になっている里の結界を容易く通り抜けて、デイダラは静かに神経を研ぎ澄ます。忘れられる筈もない、彼女の匂い、存在感、雰囲気、チャクラ。その全てに当てはまる人物の居場所を、探り当てる。

「……みっけ!」

 デイダラはくいっと髪を結わえ直し、鳥のスピードを更に速めた。


 ヒナタはどうやら自宅で読書にふけっているようだった。大きく開いた窓の外から、気づかれないよう距離をおいてその様子を覗き込む。本気で気配を消しながら、少しずつ近づいていった。この少女を少しでも驚かすことができたなら、デイダラとしては万々歳だ。

 あと少し。もう一歩近づいたら、ヒナタの背中から声をかけよう。きっと誰も見たことのない彼女の表情が見られるに違いない。

「――懐かしい人。久しぶりだね」

 ところがデイダラの期待はいとも簡単に打ち砕かれた。本を閉じることもせず、振り向くこともせず、ヒナタはただ独り言のように呟く。あのときと何も変わっていなかった。

「……だぁーッ、気づかれちまったか……」
「ごめん、私の感知能力異常だから」
「だからこそだ! それに打ち勝ってこそ、真の芸術家ってもんだろ?」
「……だろうか?」

 やはり何年たってもヒナタはヒナタだった。その圧倒的存在感は他の追随を許さず、デイダラのあらゆる本能を刺激してやまない。その声を耳にするだけで、鳥肌が立っていく。同じ空気を吸うだけで、脳が蕩けそうになる。デイダラにそんな未知の発作を起こさせるのは、後にも先にも日向ヒナタただ一人であろう。
 ぱたん、ヒナタは分厚い本を閉じた。

「何か用事?」
「うちのアホリーダーからアンタの勧誘に失敗したって聞いたら居ても立ってもいられなくてな、うん」
「ああ……彼が言ってた私をえらく気に入ってる人って、あなただったのね」

 ヒナタは立ち上がり、本を机に置くと、デイダラに向き直った。




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