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光溢れる春の日に

 木ノ葉最強と謳われる暗部第三小隊、通称“獣”。此処はその隊員たちの集う憩いの場所であり、おのおの自分の好きなことをしていた。紅一点の日向ヒナタは黙々と、“雪兎”の象徴である兎の面に白い塗料を塗り直している。多少色が剥げてきたのを、幾らか気にしていたらしい。

「ヒナタ」
「?」

 優しげにかけられた声に、ヒナタは顔を上げた。そこに居たのは、髪を後ろで結い上げた青年。ヒナタとは旧知の仲である、奈良シカマルだ。

「シカマル君。何用?」
「なぁ、将棋やらねーか? それ終わったらでいいからよ」

 将棋盤を右腕で抱えているシカマルは、細い指で塗料を指差しながら、聡明に笑う。

「……将棋……」

ぽつりと繰り返す。シカマルはヒナタの確認を促すように、ゆっくりと頷いた。

「……将棋か……最後にやったのは多分数年前。ルールとか、色々と忘れていると思う。あなたの相手にならなくても構わないのであれば」
「ああ、何だっていいさ。ナルトやキバとじゃ、どーも面白くなくてな。お前は強そうだって、前から思ってたんだ」
「ん、解った。もう少しで終わる」

 無感情にそう言って、ヒナタは再び作業に取り掛かり始めた。指先に全ての神経を集中させているヒナタの眼中に、もはやシカマルの姿はなかった。シカマルはどこか残念そうに微笑んだ後、彼女の傍から離れていった。

 シカマルは常に怠けているように見えて、本当は全て解っている。彼女はそういう人物なのだということも。決して友人との約束をどうでもいいと思っている訳ではない。彼女はただ、目の前のことにいつでも全力投球なのである。言い換えれば、複数のことを同時に行えるほど、器用ではないのである。
 シカマルは彼女の人間性にはだいぶ理解があるので、こういった態度にいちいち目くじらを立てたりはしないが、暗部の中にはヒナタのことを快く思わない人々もそれなりに多いらしい。それも彼女のせいと言えば彼女のせい。仕方ないとは思うのだが、けれど彼はどうしても彼女を放ってはおけない。
 せめて、もう少し自分を解ってもらう努力をすればいいのに。彼女は決して悪い人間ではないのだから、もっと自分をさらけ出して、思った通りのことを話せばいいのに。そうすればきっと、解ってくれる人も居るだろう。
 だが、そうまでして他人の評価を得ようとは思わないところがまた、日向ヒナタという人間を形作る要素の一つなのだ。そして、そんな個性的な彼女に惹かれる人々が多いのも事実であり、シカマルは自分もその一人であることを認めている。


 お気に入りの縁側に移動し、シカマルは自分の分とヒナタの分の駒を配置し始めた。ヒナタはどんな戦略で自分に挑みかかってくるのだろう。きっとやる事為す事全てが奇想天外な彼女のことだから、頭脳派のシカマルさえもあっと驚くような策で来るに違いない。自然と、胸が躍った。

「お待たせ」
「おう。さっそくやろうぜ」

 現れた少女は、のどかな昼下がりの光を受けて、一際眩しかった。



読んでくださって、ありがとうございました♪
スレシカヒナ大好き。シカマル及び他の人たちが、ヒナタをどう思っているかということが書きたかった。


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