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わかるひと、わからないひと

「ねえねえ、お兄ちゃんっ」

 真っ青なマントをぐいぐい引っ張りながら、心底楽しそうに、兄に顔を近づける春奈。自らの妹の愛らしさに思わず目眩を覚えながら、鬼道はゴーグルの下で微笑んでそれに応じる。

「どうしたんだ?」

 三度の飯より噂好きな元新聞部員のことだから、今度もきっとまた雷門サッカー部員のうちの誰かの噂だろう。特に最近は、円堂と秋と夏未の色恋沙汰にかなり興味があるらしい。もっとも鬼道も、春奈が自分に話してくれることだったら、どんなに興味のない話題でも、喜んで最後の最後まで聞く所存ではあるのだが。

「あのね、木野センパイが昨日っ、ついにキャプテンに告白したんだって!! 積年の想いをこう、ばーんっって!」
「……木野が?」
「そう! 夏未さんじゃなくて、木野センパイなのよっ!」

 春奈は、鬼道が次に訊きたかったことを完全に見透かしている。惚れ惚れするほど似合っている赤縁眼鏡に、人の心が透けて見える特殊な細工でも施してあるのだろうか。

「そうか……オレは正直、先に告白するのは、雷門の方だと思っていた」

 何故なら、秋の想いは長年積み上げてきたもの。一方の夏未は、円堂と知り合ってからまだ半年も経っていない。もちろん鬼道だって、恋愛に時間が関係ないことぐらいは承知している。
 だが、それにしたって驚いた。何故このタイミングで、秋が円堂に想いを伝えようと思ったのか。普段見る限りでは、秋よりも夏未の方が遥かに、円堂に対する想いを抑え切れていないように見えたのに。

「もう、解ってないなーお兄ちゃんは!」

 きゃっきゃっと嬉しそうに、飛び跳ねんばかりの勢いで歩道を歩いている春奈。

「ということは、春奈は木野の方が先に言うと思っていたのか?」
「勿論! でも、正確に言えば、夏未さんはかなりの時間が経たないと告白できないって思ってたってところかな」
「どうしてそんなに時間をかける必要があるんだ?」

 兄が率直な疑問を投げかければ、妹は得意気に答える。

「だって夏未さん、ちっとも恋愛慣れしてないんだもの。何もかも、焦ってばっかりで……そこが可愛いんだけどね。ふふっ。ああ見えて、これが初恋だよ、絶対」
「……初恋?」

 鬼道はしばしの間、困惑した。

「初恋だと時間がかかるのか?」
「うん。それだけじゃなくて、文字通り初めての恋な訳だから、何もかも解らないことだらけなんだよ。四苦八苦して、何度も空回って……でも、そうやって慌てふためくからこそ人生で一番楽しい恋っていう考え方もあるよね」
「……そうなのか?」
「そういうものだよ、お兄ちゃん」

 そう言って笑う春奈の横顔は、鬼道の知らない大人びたものだった。またもや新しい春奈の魅力を発見してしまい、鬼道は心の中で悶絶する。

「その一方で、木野センパイは恋愛経験者。その相手は……言わなくても解るよね?」
「ああ、それは流石にな」

 同じアメリカ出身。秋が自ら、サッカーの楽しさを教えてくれた存在だと皆に明かしていたのだから、あまりそういったことには鋭くない鬼道だって、気づかざるを得ない。

「だから、木野センパイは夏未さんより勝手が解ってる。恋愛に詳しい。それが根拠!」
「成程。それで、円堂の返事は?」
「まだ聞いてないって。……けど、私の考えだと多分、OKするんじゃないかな」
「それはまた、どうしてそう思うんだ?」
「だって私、恋愛には結構詳しいから。昔から勘も良いしねっ」

 春奈はそう言って、にこりと笑った。妹の笑顔は、何度見ても自分の心が浄化されていくようだ。鬼道は必要とあらば彼女に平伏さんばかりの勢いで、じっと春奈を見つめた。

 ん? ちょっと、待て。

「春奈……お前はさっき、恋愛をした数が多いほど恋愛に詳しくなれる、と言っていたな?」
「うん、言ったよ」
「……そ、そしてたった今お前は、自分は恋愛に詳しいと、言わなかったか?」

 鬼道の額に、冷汗が流れる。

「……え? い、言ってないよ」

 流石兄妹というべきか。春奈の額にも兄と同様に、冷汗が流れた。

「……嘘をつくな、確かに言っただろう」
「えっ、と……どう、だったかな」
「……春奈、」
「……もうっ、言ってないってば!」

 そう言って、春奈はきゃははっと笑いながら走り出した。新聞記者は足で記事を書く、とはよく言ったものだ。彼女の脚力は並大抵のものではない。スタートがほんの少し遅れただけで、雷門イレブンの中でもかなりのスピードを誇る鬼道有人が、全速力で走っても追いつけないのだから。

「春奈―っ、待て!! お前には説明責任があるぞ! 教えるんだっ! お前が何故、それほど恋愛に詳しいのかをっ……!!」

 鬼道は青いマントをたなびかせながら、必死の形相でその後を追った。




読んでくださって、ありがとうございました♪
鬼道兄妹の真剣恋愛ではない、こういう軽い感じのノリも大好き。



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