main | ナノ


-----main-----



永久に解けない魔法をかけて(2)

「そうか、抹殺か……雪兎、アンタと一戦交えてみるのも面白そうだ。戦ってるときのアンタは今そうしているより、もっと美しいのかい? うん?」
「さあ? どうだろうね。ところであなた、今後里に帰ったり、危害を加えたりする気はある?」
「ねーよ、そんなもん。今更あんなクソみてーなところ、何の用もねェ」
「それは何より。私もあなたみたいなS級犯罪者と戦うなんて面倒なことはしたくないし、そもそも人殺し自体あまり好きじゃない。じゃあこの暗殺任務は無事に成功したと報告しておくから、今後はあなたもそのつもりで生きてくれると嬉しい」
「いいぜ、交渉成立だ、うん。オイラはただ究極の芸術を探し求めていくだけだからな」
「そう。頑張ってね」

 どうやらデイダラがヒナタに対して持っている興味の1億分の1の興味さえもヒナタはデイダラに抱いていないようだ。自らの芸術論にまるで感銘を受けてくれないその態度は、本来彼にとってはC4カルラをいくら撃ち込んでも足りないぐらいのもの。だが、ヒナタに関しては不思議と最初からそれが許せていた。彼女は自分とは住む世界が違うのだと、違う価値観を持って生きているのだと、そう信じることに何故か少しも抵抗がなかった。

「アンタみたいな女にも、人生でもう一人ぐらい出会ってみたいもんだが……難しいだろうな。だから今日アンタと出会ったことはオイラにとってはきっと一生モンの宝だ、うん」
「……あなたみたいな変な人にでも、そこまで言われると何故か悪い気がしない。女って浅はかね」
「今の言葉嬉しいぜ……! オイラが今全身で感じてるアンタの美しさ、素晴らしさ、その芸術性を称えるこの気持ちが、たとえ少しであっても確実にアンタに届いてるってことだな」
「そういうことになる、のかな」

 曖昧に答えるヒナタの目の先にいるのは、本当に嬉しそうに、無邪気に笑うS級犯罪者。彼を自らの手で殺める結果にならなくてよかったと、そう思わずにはいられないような表情だった。

「よし、決めた。私にとっては極めて珍しいことだけど……あなたに本名を教えることにした」
「……っ!! 本当かっ、うんっ!? 雪兎が暗部での名前だってのは名乗ったときの感じから間違いないとは思ってたがっ……本名をオイラに教えてくれるのか!?」
「そこまで嬉々として聞いてくれる人には、この先もう出会わないだろうしね」
「アンタ、どこまでオイラの琴線を刺激してくれるんだ……またとないような有難い存在だ、うん……」
「日向ヒナタ。それが私の名前」
「……ひゅうが、ヒナタ……」

 夢心地でその名を反復するデイダラ。淀んだようにも純粋にも見える瞳の奥に秘められているのは、ヒナタに対する底無しの賞賛、羨望、興味、崇拝、情愛――まだ、あるかもしれない。

「ヒナタ」
「?」
「オイラにとって、芸術とは一瞬の美だ。儚く散りゆくものが何より美しい。だからアンタとの出会いも一夜限りにすれば、アンタの存在の芸術性が最も高まると思ってたんだ」
「その価値観なら、そうなるね」
「けど、アンタはまたしてもオイラの美意識を呆気なく凌駕していく……。教えてくれ。どうすればまたアンタに会える?」

 デイダラの表情はみるみるうちに、触れたら壊れてしまいそうな、繊細な少年特有のそれへと変化していった。ヒナタはその驚くべき変貌ぶりに少しだけ目を丸くしたものの、いつも通り容赦なく言い放つ。

「私もあなたも、いつ死ぬか解らないような身の上。必ず会える方法なんてないよ。10分後には私たちのどちらかが死んでるかもしれないでしょ」
「……そりゃそうだが……」
「一応今後の予定だけなら伝えておく。私は、二度とこの廃院には来ないつもり。里からやたらと遠くて、来るのにえらく手間取った」
「構わねーよ、オイラの方から会いに行くからっ! アンタ日向一族ってことは、木ノ葉の忍なのか?」
「うん。今のところ木ノ葉からどこかへ動く気はない」
「そうか……。じゃあ、一方的に約束する」
「?」
「オイラが究極芸術を完成させたそのとき……もう一度アンタに会いに行く。そのときまでどうか無事でいてくれ、ヒナタ」

 デイダラにしてみればこれ以上ない口説き文句だったのだが、ヒナタにはあっさりかわされた。かわされたどころか、不機嫌になっているようにさえ見える。

「それ、全然一方的じゃないよね」
「……そこはフィーリングで頼むぜ、うん」
「……努力はする。約束」

 流れるような動作で、ヒナタはデイダラの手を取って、自らの小指を絡めた。身体的にヒナタと接触するのはこれが初めてで、デイダラはその肌の滑らかさ、白い指の美しさに、照れる以上に大いに感動した。

「それじゃ」
「ああ……また会おうな、ヒナタ」
「うん」

 少しデイダラの独特の言い方を真似たように言い残して、ヒナタは来たとき同様音もなく姿を消した。

 残されたデイダラは夢のような時間の余韻に浸り続けながらも、すぐに粘土に手を伸ばした。彼女の存在から受けた数々のインスピレーションを、一つ残らず形にしたい、その一心だった。



読んでくださりありがとうございます♪
デイ→ヒナ楽しいぞ……!!
どうやらヒナタ及びスレヒナを変態的に(笑)褒める描写をだらだらと書き連ねるのが好きみたいです。

←前の作品 | →次の作品


トップ : (忍者) | (稲妻) | (スレ) | (自転車) | (その他) | (夢)

いろは唄トップ
×
- ナノ -