つまりはそれがあの子の魅力
「あー、あと5センチ背が高かったらなぁーっ!」
ふさふさの金髪を撫でながら、ナルトは日頃の鬱憤を口に出した。そう言ってはいるものの、ナルトはこの年代の少年としてはむしろ大きい方だ。そんなナルトがそう嘆かざるを得ないのは、周りの人間の背が高すぎるから。特に彼は昔からサスケに身長で敵わないことをたいへん悔しがっている。
「いっつもいっつもサスケと話すときは見下ろされて、ムカつくったらありゃしねーんだってばよ! なぁ、ヒナタもやっぱり背の高い男の方がいいのか? いいって言うよな、女なら誰だって」
投げやりになりながら、ナルトは隣に座っている無表情な少女に話を振る。
「……二人一組のパートナーとして意見させてもらうなら、体は小さい方が俊敏な動きが出来るし、隠れやすい」
隣で書類の確認作業を行っていたヒナタは、ナルトの方を見ず、淡々と喋った。
「即ち、より良い連携が期待できるということね」
「だーっ!! そりゃ解ってんだけどさ! そーいうことが聞きたいんじゃなくて、お前が一人の女として背の低い男をどう思うかってこと!」
髪を掻きむしった後、ナルトは机を思い切り叩いて、ヒナタにもう一度問いかけた。ヒナタはそれに怖気づくこともなく、呆れたように溜息をつく。
「あなたとプライベートな話をする気はない」
「ぷ、プライベートって……これぐらいなら、どこの公の仕事場も普通に飛び交っておかしくない会話だって!」
「他人の普通、の基準はこの世で一番あてにならないよ」
「だーかーらーっ!! ……はぁ……ヒナタ、やっぱりオレのこと嫌いなのか?」
「誰々を好きか嫌いかなんて、まさに私的な話じゃない。よって、黙秘権を行使」
ナルトの言葉をことごとく跳ね除けるヒナタに、ナルトは愕然とし、肩を落とした。つい最近、長期任務のためにこの二人はコンビを組むことになった。ナルトはこれを機に、長年憧れていたヒナタと何とかしてお近づきになろうと思っているのだが、初対面からずっとこの有様だ。これでも、前よりは口を利いてくれるようになったのだが。
「オレ、お前がサスケとかシカマルと仲良く話してるとこ、いっぱい見たことあるけどさ」
突然ナルトの口から出てきた二人の旧友の名に、ヒナタは初めてナルトに顔を向けた。ああ、こんなにも近くにいるのに。ヒナタの瞳に映っているのは、紛れもなく自分の姿なのに。どうして、届かないんだろう。
「ヒナタ、笑ってた。オレと話すときより、ずっとよく喋ってた。……何が違うんだって考えた結果が、“身長”だったんだよ」
妙に静かで落ち着いたナルトの声は、確かにヒナタに響いている。ヒナタは顔色ひとつ変えず、二つの大きな瞳で続きを促した。
「だからオレ、身長について、ヒナタの意見が聞きたいんだ。教えてくれよ、ヒナタ。オレに冷たいのは、オレの背が小さいからなのか?」
今まで見たこともない、ナルトの真剣でまっすぐな瞳。それに答えるかのごとく、ヒナタは凛とした声音で言う。
「教えてくれ……? それについては、既に答えてあるでしょう」
「え?」
語尾を思い切り上げて、ナルトは驚きの言葉を発した。
「背は低い方がいい、って」
「いや……だってそれは、あくまでパートナーとしての意見で……」
「パートナーとしての意見、女としての意見、私の中で区別は存在しない」
綺麗な黒髪を無造作に撫でながら、ヒナタは続けた。
「そもそも、サスケ君やシカマル君とあなたを比べること自体がおかしい。確かに接し方は違うよ、でもそれは決して咎められるべきことじゃない。違う相手に違う態度で接するのは当然のこと、それについて文句を言うなんて、お門違いも良いところ」
つらつらと流れ出る言葉に、ナルトは全神経を集中して耳を傾けている。たとえその内容が自分の言動を非難するものであっても、ヒナタがこんなに長く自分に語りかけてくれたのは初めてだ。だから、しっかりと聞いておきたい。
「しかもそれを背の高さで決めたと思われるとは……私もひどく馬鹿にされたもの。そこまで適当な女に見える? あなたの人を見る目、信頼性ゼロね」
「そ、そんなつもりで言ったんじゃ……」
「……私は嫌いじゃないよ、背の低いナルト君」
「……え?」
呆然とするナルトをよそに、ヒナタは席を立って部屋を出ていってしまった。一瞬見えた横顔には、嘘みたいに綺麗な微笑が浮かべられていたこと。果たしてナルトは気づいているのだろうか。
「い、今……初めて、名前で呼ばれた……」
今まで彼女がナルトを呼ぶときは、きまって暗部での通り名“炎狐”を用いていた。だけど、今、憧れの人の口から確かに発せられた、“ナルト”の言葉。確実に彼女との距離が縮まったことを実感して、ナルトは人知れず思い切り破顔した。やっぱり彼女は、あらゆる意味で男の興味を惹いてやまない。
読んでくださりありがとうございました♪
うちのスレヒナはこんな感じのツンデレ娘です。周りの男たちは日々振り回されています。
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