I Ro Ha

いろは47音恋煩い〜
[ただいま27P]



色は匂えど散りぬるを

|オサムと謙也
|柳と真田
 傍から見たらモロバレだよな
 にいさんじゃなくて、さ
|真田と千石
 変な所で勘が働くよな
 遠くに行っても、捕まえて
 小さな頃からあなただけを
|柳生と仁王
|仁王と幸村
|桑原と真田
|蓮二f/真田と千石



我が世誰そ常ならむ

 私をちゃんと見てんのか
 からかう癖がついていて
 宵闇に乗じて抱きついちゃったり
 たくさん、すきって言ったわ
|小春と財前
 そんな事言ったってさぁ!
 つくづく自分に呆れる
 捻曲げないで
|柳と切原
 拉致ってもいいですか?
 武者震いする告白前夜



有為の奥山今日越えて

|白石と千石
|柳生と仁王
|銀と千歳
 おっさんに恋した
|銀と千歳w/白石
 やりたい事は今やっとけ
|桃城と侑士
|幸村f/真田と柳生
|仁王と真田
|木手と芥川f/樺地
|幸村f/柳と切原
 徹底的に隠してやる



浅き夢みじ酔ひもせず

|真田f/蓮二
|柳w/切原 New
 嫌ってもいいんだ。だけど
|銀と千歳
|真田と柳生
|謙也w/銀と千歳
 しっかし懲りないもんだねぇ
 縁は繋いでこその縁だ
|真田と木手
|柳と切原
|橘と千歳w/猫
|柳と切原



【0】thanks to






これの続き




「真田君! 少し待って下さい、余りにも急展開すぎて……」


 このまま素直に、ついてはいけませんよ――。柳生の家を出てすぐ。自信の無さそうな語尾が、まだ2月の朝の寒空に溶け込んでいった。行けないと言われてしまえば独りで進むわけにもいかないので、真田は少し考える。ならば寄り道をして落ち着いてもらおう、と選択肢を狭めるための一言を投げた。


「腹は減っているか」
「……いえ。近くに公園がありますので、宜しければ」


 だが、消極的な先程の台詞にしては矢継ぎ早な提案が返ってきたので、特に抵抗もなく軽く頷いた。来る途中にも横を通ったから、真田には位置も把握できている。黙って再び歩き始めた“今日から自称彼氏”の背中を少し眺めてから、柳生は駆け足で隣に追いついた。

 急展開という単語が引っかかり、真田はいつかの友人の言葉を思い返していた。数年前の話だ。


『大丈夫だよ。俺には分かる』


 幸村は、笑っていた。この件を相談したことなど一度もなかったが、彼がある日ふと、そんな話を持ち出してきたのだった。お前の想い人もお前を想っているよ、と。

 心を知らぬ間に見透かされる彼の不思議な力については、当時からすでに驚いたりもしなくなっていた。その能力の使い道にだけは若干疑問が沸いたが、『恩に着る』と話を結んだ。ただ、その言葉を頼りに意を決して行動に出た昨日、そして今日とをゆっくりと振り返る。ここでやっと盛大な勘違いに気付いた。あの時の助言は、自分のみになされていたものであり、真田の想い人である柳生にとって自分は、ついさっきまで片想いの相手のままだったようなのだ。


―(俺はてっきり……。まあいい)


 だからといって、玄関で花束を手に元気よく挨拶をした自分の行動は巻き戻せないし、早まったからと引き下がるタマでもない。その必要も本来なら、ないはずなのに。互いが想い合っているのは何となく実感できてきたが、通じ合ってはいない。


 柳生の方は、丸一日経っても結局、予測や推測が期待を超えることはなく、まんじりともしない夜を過ごした。全てお得意のポーカーフェイスで乗り切ってやろうと開き直れたのは果たして午前何時だっただろう。片想いと信じて疑わなかった時は、眠れない夜などなかったのに――、そうため息をつきそうになった柳生はここでやっと、盛大な独り善がりを恥じた。本来なら、恋愛とは二人でするものだからだ。落ち着いて互いの状況把握、情報共有、意思の疎通を図るべきだ。


―(色々と、順番がちぐはぐになっていますね。私達は)


 戸惑ってロクに何も発してこなかった自分の方から、まずは愛を伝えるべきだ。花束はしっかりと受け取った、真田にも自分への気持ちがあることだけはひとまず分かっているのだから。ただ、3年半もの想いをどう簡潔に伝えれば良いのだろう。そんなことを考えている間に、スポーツマンの脚力ではやけにあっさりと公園についてしまう。









 フェンスに沿って隅の方に梅がひっそりと咲いていた。高校の卒業に、桜は舞わない。時期が来ればささやかな藤棚になっているはずの木々を通り抜け、唯一日向になっているベンチにどちらともなく向かった。道中は二人ともずっと黙っていたが、それぞれに胸中が忙しかったため気にはならなかった。ただし、このベンチの座り方や距離感については急務として考える必要が生まれていた。普段の自分たちであれば一人が座れば、もう片方は座れないのだ。


「何か買ってきましょう。座っていて下さい」


 自分たちが入ってこなかった方の入り口に自動販売機があることを知っていたから、柳生は迷わずベンチを譲った。「俺も行こう」と真田は言いかけたが、さっと挙げられた左手に制される。どこか踏み込めないような、もどかしい感じがしたし結局、ベンチも自分一人で座る羽目になってしまった。

 どっかりと腰かけた後、真田は心持ち自販機から遠い右側へ寄ってみる。今一人で座りたくはないからだ。そしてそんな様子を、柳生は脇目にしっかり捉えていた。真田が自分にどんどん歩み寄ってきてくれていると実感し小躍りしそうだが、どうやら独りで楽しむ癖がついてしまっている、そう気づいてハッとする。自分用ともう一本、まだ寒さ全開な季節の掌に出てきたお茶と紅茶のペットボトルは温かすぎた。それらを両手に再びベンチへ向かう。目の前には、腕と足を組んでしかめっ面の横顔、その姿。


「中学3年の時を思い出しますね。関東大会で貴方はベンチ、私はこの辺りに立っていた」


 真田の思惑をさりげなくかわしながらベンチの後ろに回って、振り返ったかつての副部長に「どうぞ」とお茶の方を差し出す。「今はそういう話をしたい訳ではない」と顔にでかでかと書いてあるので、柳生はいい加減我慢できずに口元が緩んでしまいそうな気持ちだけを噛みしめた。表情は、変わっていない自信があった。




**




 真田はまさに今想像された通りのことを考えていたが、柳生の眼鏡の中が僅かに揺れたのを見逃してはいなかった。その仕草が自分の心をざわつかせるようになったのはいつからだったろう。その揺らめきが自分のせいで起こっていると教えてもらった時、起きているのを垣間見た時の高揚感といったらなかった。どうにか頑張れば、真田も周りのように器用に青春を謳歌することが出来たかもしれないが、その後も敢えて行動を起こそうとはしなかった。『俺が俺らしくなくなることを、お前は望むまい』そう考えた。

 それでも一度だけ、どうしても我慢できなくなって柳生に会いに行ったのが二年の秋だったのだ。高校を卒業したら――、離れ離れになってしまったら。自分たちのこの密かな関係はどうなってしまうのだ。そういう焦りだった。


『真田君のようにはいかなくとも、私とてテニスから離れたくはないのです。やはり、好きですからね』


 柳生はその時、こんな風に言っていた。テニスという単語を自分に置き換えてみたりして喜び、まだ終わらないと聞けて安堵しただけで貴重な会瀬を終わらせていた当時の自分は、なんと思慮に浅かったことだろう。




「俺は、お前のその奥ゆかしさに甘えていた」
「っ!」


 差し出されたお茶を真田は腕ごと引っ張った。体勢をやや崩された柳生はベンチの背に吸い寄せられる。顔がより近づいて、眼鏡の中が更によく見えるようになった。受け取ったペットボトルが、やけに熱く感じた。
 



「私は……。私は、見ているだけで良いと思っていました」


 独りでに起こした回想の中で導き出した思い。それを吐き出しただけだったが、雰囲気を作るには十分だった。一呼吸挟んでから、今度は柳生が静かに自分の思いを紡ぎ始める。惑い続ける瞳を隠すように、少し伏せて眼鏡を深くかけ直すその仕草も、真田はじっと見ていた。


「想いを打ち明けて、拒まれるのを恐れました。真田君の側に、より長く居たかったから」




―(俺達を阻んでいるのは、これだ。突き破るのは今しかない)




***




「貴方が応えてくれたと分かった今でも、私は恐れているんですよ」


 自分の感情は“奥ゆかしい”などと到底表現できるものではないのに。腕を掴まれただけで胸は高鳴り、息遣いが聞こえそうな距離に咽喉が下がる。その肌に触れて、その瞳に自分だけを映したい。そんな想いをひた隠しにすることに必死でいたのだ。「恐れている」と言ったことにだろうか、目だけで左を見ると、真田は少し驚いたような表情を見せていた。柳生の語る意味が伝わって、我に返ったのかもしれない。


「こっちへ、座ってくれ」


 言われるまま、ベンチへゆっくり回り込んだ。真田は中心からこちらへ寄っていたため、座れる幅は1mもない。足を広げれば膝頭が当たる程の近さ、それももう喜んで良いのか柳生には分からなかった。まるで活け造りにでもされに、まな板に乗る気分だ。

 ギリギリに腰かけて、反応を待ってみる。気軽に顔など向けられるはずもなかった。


「柳生。今少し、眼鏡を外して欲しい」
「……はい」


 とうとう品定めの時が訪れた、そう思った。真田は自分を本当に受け入れてくれるのか。腹をくくった柳生は眼鏡を外すと同時に、ぐっと左へ向き直る。コンプレックスの鋭いつり目すら日向に晒しながら、真田を見た。この距離なら、幸か不幸か視力矯正が無くても顔ははっきり分かる。




―(私達は自由になったと貴方は言いました。私ももう、隠すのは辞めましょう)




 だが、見据えた先の表情は自分に評価を下すようなものでなく、真田お得意のいつかを回想するかのように遠くを見る眼差しだったのだ。もちろん、視線はかち合わない。


「あの、真田君」


 あまりに拍子抜けしてしまい、咄嗟に呼び戻そうとしてしまった。焦点の合っていなかった瞳が瞬く間に戻ってくる。そのままの勢いで、真田は言い放った。


「――確信した。俺は、あの日からお前にずっと心奪われている」

「あの日……とは、」
「いや、正確には当日じゃないが。そうだ、俺はあの時、知らされてもいなかった……。お前らが入れ替わって試合に出ているなど」


 柳生も先程、横顔を見て話題に出していた。真田がベンチに座り、自分たちを間近で見ていた日々。特にあの日は、柳生にとって特別だった。




****




「私はあの時、変装がバレやしないかと焦っていて、貴方がパワーリストを外せと言った時に返事をしませんでした。『仁王』と呼ばれ、仁王君になりきれていなかった私は、早く仁王君のように答えなければ、と。それで……」


「こっちを見て『自分の目で判断する』と返してきた。仁王のくせにジッと真っ直ぐに俺を捉えた、訛りの全く無い口調でだ。だいぶ後になって、そういえばあの瞬間の仁王は奴でなく柳生の変装だったのだと改めて思い起こした俺は、お前のその眼鏡の奥にある澄んだ鋭い眼差しを、探すようになっていた」


「真田君は仁王君にこんな表情をしているのだと直視してしまったことで、時間が経てば経つほど、仁王君を羨ましいと思っている自分に気付きました。私はその時まで、貴方にあんなにも感情をぶつけられたことなどなかった。だから次第に、日毎に、貴方を目で追うようになっていったんです」


「何だと……それではまるで、」
「ええ。どうやら私達は同じ瞬間から、互いを」


 今が2月の初旬であることなど、すっかり気にならなくなっていた。二人にはセミの鳴き声すら聞こえてくるようだった。熱いあの夏の日の、忘れられない一瞬を想った。惜敗に涙し、友の回復を心から願っていたあの日は、時が経つにつれ懐かしい思い出となっていた。だが、当時は夢中で気付き得なかった、胸に芽生えた想いが今この時やっと現実になったのだ。

 どちらともなく笑みが零れる。サッと眼鏡をかけ直した柳生は晴れやかに言った。


「分かりました。お邪魔します、真田君のお宅へ」
「……ああ」


 初めて恋人同士として手を取り合った二人は、恋人然としては真逆の単なる握手だった。だが形はどうあれ、自分たちの間には今までと違うものが伝わり合ったのが分かっていた。3年以上もの積もる片想いがあるのだから、なるほど6年もあっと言う間に過ぎてくれるかもしれない。

 開けられることのなかったペットボトルを自販機の前でゆっくり空にすると、二人は同じ道を歩き始めた。




end
↓おまけ





「ただ、用事はあるかと聞かれただけでプロポーズされるとは夢にも思いませんでした」
「今日は単に挨拶だ、それ程のものでもない。今家に行っても母と祖父しか居らん」
「お爺様も……。では、あの赤いチューリップはたまたまでしょうか?」

「花束は、昨日幸村が――。あ奴、また余計な気を回しやがって」
「やはりそうでしたか。仁王君だけでなく幸村君にも感謝せねばなりませんね」
「仁王にする必要はないだろう」
「おや、あの日入れ替わろうなんて言われなければ、我々は今ここに居ませんよ」

「……腑に落ちんが、お前が言うならそうしよう」


目が合ったその瞬間




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