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 残念ながら、今日もサーキット以外観戦だった俺はエネルギーを持て余してて、上手く寝付けないでいた。だから温かい飲み物を求めて偶然、そうたまたま、ここに立ち寄っただけ。


―(おや、あれは……)


 明かりの消えたロビーに、消音でテレビだけがついてたんだ。画面の中は大人向けのメロドラマみたいだけど、それを見てるはずの特徴的なシルエットがなんだか意外すぎた。いやいや、俺が知らないだけで彼はこういうドラマが好きなのかもだし。それとも、別のを見ていてうっかりここで寝ちゃってるんなら、起こしてあげなきゃかわいそうだよね。

 俺はこういう小さな偶然を大事に、まずそれに乗ってみることにしてる。暇潰しだって? まぁ、そうとも取れるけど。なんたって彼は今日活躍してたし、ちょっとあやかりたくもなるさ。そんな自問自答をしながら俺があったか〜いココアのボタンを押しても、そもそも俺がここに入ってきた時も、シルエットが動く気配はなかった。やっぱ寝てるのかもしれないなぁ。そう思って横から近寄ってみると、目はちゃんと開いてた。


「起きてるかい?」
「ぬわっ! ……って、千石さん」
「すごい集中力だったんだねぇ、考え事かな」

「はあ……まあ、そっスね」


 昼間のあどけない感じも、生意気そうな瞳もぱったりナリを潜めてるというか、ひょっとしなくても明らかに何かに悩んでる顔付きだった。どうしてだろう、今日の切原君は、あの怖〜い悪魔のような姿から威力はそのまま、まるで天使になっちゃうというドラマチックな進化を遂げたはずだ。

 偶然の女神様は、何だって俺をここに寄越したんだろう。柳君は仕方ないとして、他の立海の子や、ましてや白石君でもなく、俺。俺に出来ることといったら、気を紛らわせる程度なんじゃないかなぁ。彼が良ければ話を聞いてあげて、さりげなく明るい話題にシフトして。そう、口パクになっちゃってるあのメロドラマの、展開予想でもいい。


「ココア飲むかい、よく眠れるかも」
「や、けど悪ィし」
「じゃーん、もう一本当たってるんだよねー」


 もちろんこれはウソも方便ってやつ。やっぱ切原君こっちに全く気付いてなかったね。渡しながら、「俺で良ければ話してみたら」と言うと、彼は少しうつむいてから右下を向いて、頭の中の疑問を絞ってくれているようだった。

 俺はそれを横目に見ながら静かに同じソファの端っこへ座って、ココアを軽く振ってからプルタブを引っ張ったトコだ。


「どうやったら、大人っぽくなれるんスかねえ……」
「うん……?」


 テ、テニスの話じゃないんだ。どうしよ。それにしてもアバウトすぎるから、続きを待ってみようとココアを勢い良く口に流し込んだら、中身が持ってる感じよりだいぶ熱かったみたいだった。


「ん〜〜!」
「げ、大丈夫っスか……」

「はは、ごめん続けて」


 うーん、大失敗。舌が結構ヒリヒリする。相談乗ろうって時にこれじゃ、頼りがいがないと思われちゃうなぁ。


「おっちょこちょいなコトしてんのに、千石さんもやっぱ、俺より全然大人っぽい……」


 そんな心配をしてた俺を差し置いて、ぐぬぬって声が聞こえてきそうな顔をした切原君は、まだ何かを考え続けてた。よーし、これは続行のサインだね。


「どうして大人っぽくなりたいなんて、思うんだい?」


 切原君がご所望のようだから、俺はやせ我慢して、さも大人っぽく振る舞ってみようと思った。ココアはもう冷えるまで置いておこう、前の机をコツンと鳴らす。切原君は、俺がこっそり買ってあげたもう一本をまだ開けないで、両手で遊ばせながら話し始めた。


「俺、勝てるって思ってる時はヨユーなんスよ」

「うん」
「けどここには強い奴らがわんさかいて。もっと早く、強くなんなきゃって。全国で手に入れた力も、まずうちのビッグ3に通用しねえし。今日白石さんと組んで、助けてもらって出せたアレだって結局、柳先輩が頼んだっていうじゃないスか」


―(ええー、そうなんだ……)


「そう、みたいだね」
「俺だって普段ヘラヘラしてっけど、このままじゃダメだって思ってて。けど、こんな簡単に掌で転がされてて、なんかもうアイツらには一生敵わねえんじゃねえかって……、心のどっかで諦めてんだきっと」


 ここで柳君を褒めてばかりじゃ話が進まないんだけど、フォローはしておかないとだよね。ホント、一枚も二枚も上手みたいだ。

 しかし切原君、なんだかんだでしっかり考えてるじゃないか。テニスのこと。


「柳君が君に強いのは、君を身近でデータ収集できるからってのもあると思うよ。対策を実際に出来る力があるのはもちろんだけど、あの君を見ても動じない余裕がさ」


 そう、大人っぽさってのはきっと余裕のことだ。自分で最初に言ってたのに気付いてないのかな。


「けどそれって、見慣れたら誰にでも対策されて終わりってコトでしょ?」

「うーん、人によってはそうなるね」
「そんなんじゃダメなんスよ!」
「そうだよねぇ、」
「なん……スかっその『ネコに小判』みたいな返事は〜!」

「わっ。ごめんごめん、考えながら聞いてたらそうなっちゃうんだよ」


 危ない、真夜中に切原君をヒートアップさせちゃった。こういう時でも赤目になったりするんだろうか。肩を掴まれてココアの代わりに揺さぶられた俺は、薄暗い中でも一応切原君の白目を確認してみた。ちなみにさっきは、『のれんに腕押し』的なことを言おうとしてたね、さすがに俺でも分かるよ。なるほど、君はそういう子か。

 No.1になりたいのはきっと、カッコいいからだろうね。そして君のその集中力は純粋さ、単純さのなせるワザだ。そんでもってその短絡的なトコが、君を悪い方へ転びやすくする。こりゃ立海の君の先輩達は、苦労してるかもなぁ。


「とりあえず、暗いところでもみくちゃになるのはよそうよ」
「……えー。千石さん、俺は女子じゃないっスよ」

「はは、分かってるよ。切原君さ、もっとテニス以外のことにも目を向けてごらんよ」


 え、と呟いた君の顔はテレビの光のおかげで半分だけはっきり見えた。うんうん、そういうことなら俺の出来るアドバイスはきっとこれだ。白石君の二番煎じな感じが否めないけど、メンタル面を強化ってことで。

 忘れられてたココアをやっと思い出したのか、切原君は開けた途端にほとんどを飲んでしまった。置いた音もやけに軽い。それを皮切りに、千石先輩の有り難〜い講義をお見舞いしてあげようじゃないか。


「世界ランク1位の選手だって、自分が一番強いってことを自信にはしてないんじゃないかな。その、漠然とした……ぼんやりとした『強さ』ってのを心の拠り所にすると――、拠り所って分かるかな」
「えーと、支えみたいな」
「そう。そうすると安定しないんだ、恐らくね。目標も立てづらいし。あとはそうだなぁ、例えば君の、試合時間の速さへのこだわりも立派だしすごいことではあるんだけど、同時に君を縛ってもいるんだよ。そうしなきゃいけなくしてる」

「縛られちゃダメ、かあ……」


 ああ切原君が、真剣に俺のアドバイスを聞いてくれてる。いつもは後輩の面倒とか伴爺や地味'sがしれっとちゃっかりやっちゃうから、こういう地味な先輩感は新鮮だなぁ。


「そりゃあの三人はすごく強いし、君のすぐ近くに居るから焦ったりもするだろうけど。高度なステップも出来て身体能力も元々高い君が、目の前に大きすぎる壁があるせいで伸び悩むなんて、ホントはすごくもったいないんだ。君は絶対、もっと強くなれるから。だから視野を広くして、君らしくやっていこうよ」
「千石さん、」


 ちょっとは自信持ってくれるかな、なんて。暗くてほとんど見えないだろうけど、出来るだけカッコつけて俺は切原君に笑ってみせた。ら。


「俺のこと、そんな風に見てくれてたんスね……!」


 予想以上に、かなり感動してくれてるぞ。ちょっと瞳が潤んでる。うーん、立海ってムチだらけなんじゃないだろうか。俺や白石君が、切原君にとってすごい量のアメになってるみたいだ。かわいそうではあるんだけど、俺としては嬉しいと思っちゃう。このまま懐いてくれて――そうだ、『千石さんと同じ高校行ってテニスしたくなった〜』とか、そういうのカッコいいかも。憧れられるのは亜久津だけじゃないんだぞー、ってさ。

 なんて考えていた俺の方がきっと、切原君をすごく甘く見てた。


「ひょっとして、千石さん……やっぱ俺のこと、」
「……えっ?」


 君の思考回路が純粋で短絡的だって、俺は分析できてたはずなのに。切原君に必要なのは、心の余裕なのに。伝えなきゃいけない俺がまさに今、それを、

 君に奪われそうになってる。


「じゃねえとここまで、俺のこと褒めてくれたりしないっスよね?」

「き、切原君。ちょ、ちょっと落ち着こうか」
「俺を励ますためにわざわざここ来てくれて、それで」
「待って待って! そうだ、テレビでも見ようよ。視野を広く持ってって言ったよね」


 偶然から始まったのに、こんなラストだってまるで最初から決まってたみたいじゃないか?

 どうしたら良かったんだ、ついてたテレビは初めからメロドラマだったんだよ。俺達が真面目にテニスの話をしている間に勝手にクライマックスを迎えてて、いざ画面の出番が来たら、見つめ合う二人がまさにキスするトコだったりするんだ。それを感極まった切原君と俺が、ばっちり見ちゃったりするんだから。


「俺、女子じゃないけどそんなのに縛られねえ、千石さんがその気なら……」
「何でここで、充血、」

「テニス以外にも夢中になります、アンタに」




――火傷するのは舌だけで良かったんだよ、ねぇ女神様!




end
赤也が国語得意とか信じられん
女神様は読んでくれたあなたです


滑る眼、泳ぐ唇


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