ShoRt



(分岐)SuppoRt oR SurpRise ? 真田と大石
秘密の二人 丸井と真田
 @切原w/後輩は何を見たか
 A柳生w/絶妙かつピンポイントなやつら
舞台裏のSHOW劇 真田と大石
恋なんてクソったれだ4 丸井と真田
涅槃的アプローチ 丸井と真田
AnotheR day 真田と木手
夢に果てる 真田と木手
ネクストドア 白石と真田
××'s mail 仁王と真田
Affective effect 手塚と不二
然り、これはしたり 真田と手塚
DistoRted hollow 真田と切原
レイニー 真田と千石
シャイニー 真田と木手
ヒューミッド1 丸井と真田
邂逅と感情の回想 橘と切原
すごい人 神尾
侵食-sound of new coloR- 銀と千歳







 俺達にとっての――俺達の橘さんはいつも余裕があって、本当に格好良い人だ。これは俺だけじゃなく、みんな―いつもぶつくさ言ってる深司だってきっと―が考えてることだと思う。

 さっきだって、橘さんも絶対悔しいはずなのに。俺達の良かった所や反省点を冷静に挟んだりして、1人1人に説きながら励ましてくれた。そこには相手が強かったとかどうだったとか、安っぽいフォローなんて全然入らねぇんだぜ。


「まだ泣いてるのか、神尾」
「ち、違いますよ!」

「……あーあ今度は浸る作戦か……」
「アキラ君、ティッシュ要る?」
「深司、杏ちゃんまで!」
「ははは」


 まぁ、俺ってもしかしてイジられ役なんだろうかって考えがちらつかなくもないけど。それも橘さんが俺のこともちゃんと気にかけてくれてるからだ――よなぁ、多分。


「そろそろ行くぞ。観戦も勉強だ」


 ともかくさ、こうやって俺達を前へ前へと導いてくれる橘さんが居たからこそ俺達はここまで来れた。胸張って次の試合も観戦しようって思うぜ。

 俺達は全国ベスト8なんだ、って。


「……お兄ちゃん、」
「どうした?」


 こう心の中でリズム良く締めようとしてた俺の横から、杏ちゃんのさっきとは全然違う声が聞こえたんだ。少し呆けたような、思わず出ちゃったって感じの。

 でも呟いた杏ちゃんは俺の向かいに立ってるはずの橘さんを見てなくて。




「桔平」




 その視線につられて向いた先に居た奴は逆に、橘さんの方しか見てなかった。


―(千歳、さんだ……)


 一瞬で空気が固くなったのは周りを見なくてもわかった。それより、俺がまず性懲りもなく身構えちまったんだから当たり前だ。

 午後からの試合までそう時間もなくなってるはずなのに、千歳さんが私服―だよな? でもたぶん、前見た時と全く一緒だ―姿で現れたんだ。


「先に行っててくれ」


 その声はいつもと変わらず静かで、落ち着いてたけど。半身に振り返ってる橘さんの表情が俺からは見えなかった。まぁ目には、眼帯がある。でも何つーかさ、リズムが変わったんだよ。

 『わかりました』って珍しく深司が言ってた気がする。俺は、身構えたりしちゃダメだっただろって思ったり、じゃあどうしたら良かったのかなんて考えてるうちに桜井の腕に引っ張られるまで、棒立ち状態だった。




***




 俺達にとって橘さんはすごい人で、そんな橘さんが本気を出しても倒せなかった千歳さんも同じくすごい人だ。まぁ、どういう性格かとかわからねぇからテニスに限った話だけどな。


「どの辺にする?」
「上からの方が見やすくないか」


 杏ちゃんによると二人は親友らしいし、いろいろあっても友情が続いてるとか、そういうのも格好良い。二人でどんな話してるんだろう。

 仲直りはもう済んでるんなら全然別の、積もる話ってやつか。言葉がなくても分かり合える、なんて漫画にあるけど、もし二人もそうだったらすごいぜ――って俺、やっぱ気にしすぎか。




ナンダッテ?! マタ冗談ダロウ?

 ハハ、相変ワラズバイネ
ソラァオ前タイ!




 どうせ考えたってわかりっこねぇよなーなんて思っちまうことがまさに、俺が前にも感じた二人の間の入り込めねぇ部分ってやつなんだろうと思う。別に、割り込みたいって訳じゃなくてさ。

 俺には俺の橘さんが居て、もちろん千歳さんには千歳さんの橘さんが居るんだ。そこに、向こうは知ってて俺は知らないことがあるかもしれねぇってとこにまぁ嫉妬っつーか、ガキっぽく羨ましがってたのも確かだし。


「――尾、神尾!」


 はっとして声の方を振り返ったら、皆はもう何段も上のベンチに座ってるところだった。こりゃ流石に『浸ってる作戦』どころの話じゃないぜ。


「悪ィ、」
「ひょっとしてアレの後遺症か?」
「え?」

「石田もちょっとボーっとしてたぜ」


 アレって? そうか、アレか。


「……あー、かもな」

「そう、二人とも凄かったよアレ!」
「橘さんほどじゃないけどな」
「そりゃそうさ!」


 俺はその橘さんのこと考えてただけなんだけど、まぁその内容の方がアレだから黙っとこう。

 ひょっとして石田は兄貴のこと考えてたんじゃねぇかな。そう思って俺は石田の顔を見た。当たり前だけど答えなんか書いてない。でも多分そうだと思う、軽く笑ってみせたら同じような顔が返ってきたし。




***




「間に合ったか」

 後ろから、橘さんの声がした。別に満員ってわけじゃねぇからここも簡単に見つけられるはずなんだけど、俺達のとこへ戻ってきてくれたって思って俺はまた嬉しくなった。

 実はもうすぐ選手の入場時間だってさっき気付いて皆でちょっと焦ってたんだけど。考えてみたら千歳さんが次も出るんだし、そりゃないよな。


「橘さん! ここどうぞ!」
「がら空きなのに何言ってんの……」

『選手入場!!』


 ただ、振り返った時にさ。橘さんが何だか複雑な表情に見えたんだ。笑ってるのに同時に、困ってるような何とも言えない顔。


「あれ、」
「千歳は……退部して出ないらしい」

「えっ?!」


 それから俺が空けてあった席に腰を下ろした橘さんの一言と、あることに気付いた俺の一言も同時だった。

 どんな話したのかわかんねぇけど、橘さんにこんな顔をさせるんだ、千歳さんって性格もやっぱすごいんじゃ、ねぇかな。


「それって、怪我」
「いや、気分だそうだ」
「き、気分……」

「アイツは、未だによくわからん」


 きっとそうに違いない。

 でも橘さんがそれを言い終わった後まるで憑き物が落ちたみたいに笑ったから、俺もちょっとつられて笑っちまったんだ。




end
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