光に住む妖精たち[4]

  春が来るまでさようなら


 初めて交わした言葉は「はじめまして」ではなく「久しぶり」だった。
 うぐいすの歌声を頼りに来てみたが、屋敷の庭に立つは梅だけ。それを確認したツバメは息を吐く。
「また、ハズレかぁ」
「まだ捜しているのか」
 視線を向けぬまま肩をすくめると、全く、と相手もため息をつく。
「サクラは消えた春とともに行ってしまったんだろうよ」
「ウメ、そろそろ思わせぶりなセリフはやめて、ちゃんと話して欲しいんだけどな〜」
 ここの主たる梅の木を軽くにらむ。生活感はあるが人間の姿はない屋敷の、こちら側の住民はウメだけだ。妖精。妖精ではない、妖精。
「私はサクラが嫌いだからね、このまま帰って来なければいいとすら思っているよ」
 梅の影からこちらへ歩み寄る青年。ふわり空中より現れた彼は、若菜色の羽織を風に遊ばせたまま、片眼鏡の位置をなおす。
「マツは?」
「あやつはただの意気地なしだ」
 梅に背を預けた彼は、薄ら笑いのまま腕を組む。
「私たち植物は妖精と――本来の妖精と少なからぬ縁があった。相互扶助と言っても差し支えないほどに」
「――で、妖精が消えたから植物も消えていくとでも?」
 なんだ、わかっているではないか。投げつけられた言葉に、気付けば反論していた。
「妖精ならここにいる。僕は妖精だ」
「妖精にされた存在、だろう。突発的に現れただけの、何の役割も持たぬ」
 刺されたとどめに、今度こそ黙るしかなかった。
「……サクラを見掛けたら、教えて欲しい」
 一言残し、ウメに背を向けた。あぁ、そろそろ約束の春が、現に訪れる。

 遠い遠い昔に会ったことがある。互いに相手の姿をとらえた瞬間、ツバメとサクラは確信した。ずっと、ともに在ったことを。だからだろう、
「お会いできて嬉しいです」
「うん、僕も」
 はにかみ、微笑みながら、親しげに言葉を交わした。出会った時から親しかった。
「私はここから動けませんが、友人達はみんな、私が目を覚ますと花見と称して宴を催してくださいます。それが嬉しくて、楽しくて」
 今年はツバメも一緒だから、楽しさも嬉しさも二倍です。緑の右目とピンクの左目、色の異なる両目を輝かせて儚く笑った少年。あの頃はあの儚い笑みを見るたびに、自分はサクラに“再会”するために妖精になったのだと、そう思っていた。それがどうしようもなく幸せだった。
 あの春が、消えるまでは。あの春とともに、サクラが消えるまでは。
 夢と現の狭間の、夢に近い山頂に降り立つ。ぽっかり空いた枯れ草色の山頂に、秋桜が一輪寂しそうに咲く。かつては秋桜を守り寄り添うよう、桜の大樹が立っていたと言うのに。
「サクラ……本当に、さ。君はどこに消えちゃったのかなぁ」
 どんなに春を渡り歩いても、あの儚い笑顔が見当たらない。どんなに、どんなに、捜しても。
 しゃがみ、大樹があった地面に手をつき、まぶたをぎゅっと閉じた。
「サクラ……会いたい……」
 飛べないツバメは、なくしたサクラを捜して春を追う。今日も、また。


Twitterのタグ『#rtしてくれたフォロワーさんを自分の世界観で創作キャラ化する』でキャラ化した桜で書きました。

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