24



夜も更けた。

夕食前に気絶していた時間はあったが、それでもいろいろなことがありすぎて、私の体力は限界だった。


眠い目を擦り、ソファでくつろぎながらボーッとテレビを見る私。

盗賊バクラは夕方頃に、昼寝――というか、昨日寝てない分の帳尻合わせの睡眠――を取っていたから、まだ眠くないのかもしれない。

彼は私から少し離れてソファにふんぞり返り、同じく黙ってテレビを見つめていた。


ふと、廊下から足音が響き、獏良君の体を持つバクラがリビングへやって来る。

ちょうどいい、と思った私はあくびを噛み殺しながら二人に尋ねたのだった。

「今夜、二人はどこで寝るの……?
私、ソファの隅でも絨毯の上でも平気だから、もし毛布余ってたら貸してくれると嬉しいかも……」

一人暮らしだと分かっている家にお邪魔しているのだから、本当は自分の寝具くらい自分で用意するべきなのかもしれない。

――が、着替えなどの荷物を抱えて買い物もした私には、薄手の毛布一枚すら持ってくる余裕がなかったのだ。

そんな私を一瞥した白いバクラは、ぶっきらぼうに「部屋へ行ってろ、」と吐き捨て、ベッドがある獏良君の私室の方を顎で示した。

「…………」

ええと……それはつまり、私の寝床は獏良君の部屋……の床、ってことでいいのかな……?

言われた通り腰を上げれば、「ありがとよォ」と、何故か盗賊王が声を発した。

「……?」

「客にベッドを譲ってくれるってんだろ?
見直したぜ、バクラ様よぉ……
女も付けてくれるってんだから、なかなかサービス精神旺盛じゃねえか」

言い切った瞬間。
ピリ、と場の空気が殺気立ったような気がした。

千年リングに宿るバクラは、至って平然と、まるで哀れな動物を見下すような眼差しで盗賊バクラを睥睨し、言い放つ。

「現代人にも分かる言葉で喋って欲しいもんだな」

あ…………

嫌な予感が頭をもたげる。

こういう空気は既視感どころの騒ぎじゃない。

私は怒られることも覚悟し、二人の視界に入るよう立ちはだかると、慌てて口を開いた。

「ちょ、ちょっと待って……!
私にも分かるように説明してほしいなー……なんて……

……バクラさんはベッドで寝たい。バクラもベッドで寝たい。
……そういうこと?」

だが、二人は私の問いにうんともすんとも答えない。

ややあって、痺れを切らしたらしい盗賊王が己の希望を語る。

「別にソファだろうが何だろうが何処でもイイぜ。
……だが、条件付きだ。
どっかの誰かさんに寝込みを襲われないよう、保険を掛けさせてもらうぜ……!
貴様も千年ロッドっつー保険を持ってるんだから、これで対等だろ?」

「っ!?」

盗賊バクラの口から、とんでもない事実が明かされる。

千年ロッド――
それは、バトルシティが終わったあと、墓守のマリクから遊戯君が譲り受けたはずだ。

でもそれを、バクラが持っているということは――

ああそうか。
夕方の『あれ』は――

どこからか帰宅したバクラと盗賊王の不可解な会話は、あれだったのか!

ついでに言うと、手錠を嵌められた私の写真を『保険』に使うと言ったバクラ――

彼はきっとそれを、遊戯君から千年ロッドを借りるための道具にしたんだ!!

――頭の中で線が繋がり、思わず深い感嘆のため息を漏らす私。


ああでも、今はそんなことに感心してる場合じゃない。

ええとたしか、盗賊王も保険が欲しいとか何とか――

「……だからコイツを寄越せと?
またコイツを人質に取るような真似をして、オレ様からの盾にしときゃ安心して眠れるってか?

……ハッ、精霊獣が無い夜がそんなに不安かよ……?
悪ィが却下だ。貴様は一人でそこで寝てろ。
毛布くらいは貸してやるからよ」

千年リングに宿るバクラは、親指で私を指し示しながらそう捲し立てた。

「…………」

盗賊王は、紫がかった双眼に剣呑なモノを宿し、無言で白いバクラを睨みつけている。

もはや様式美になりつつあるこのやり取り。

彼らを手っ取り早く結束させるためには何が有効か、私には薄々分かっている。

――だから。

それは、つまり。




「で……?
これが最適解だと言いたいのか? 貴様は……」

「だって……」

「チッ、イカレてやがる……」


ありえないと思うだろう。

私だってありえないと思う。

でも、今日の私達はちょっとどうかしてるのだ。

たとえば、連れ立って焼肉を食べたり、だとか。

あるいは、言われるがまま似合わない服を着てみたり、どこに誰が寝るかで揉めてみたり、だとか。

そう――とあるベッドで、三人いっぺんにいかがわしい事に興じてみたり、だとか。

そして――
そのベッドで、三人身を寄せ合って眠りにつこうとしている、だとか。


「あはは……なにこれ夢みたい……
死んでもいい……今すぐ死んでもいい……あはは……」

「……おいバクラさんよ、てめえコイツに千年アイテムの力使って洗脳してんだろ……?」

「……そう思うか?
生憎だったな……コイツはこれで『素』だぜ……、信じられるかよ?
オレ様が悪霊だつった意味が分かっただろ……?」

「マジかよ……そりゃあまた……」

「あは……幸せ…………」

「まぁ、そうし向けちまったのはオレ様でもあるからな……
コレはコレでなかなか悪かねぇよ……玩具としてはな」

「そりゃ同感だ……ファラオをぶっ殺すまで退屈せずに済みそうだぜ……!」

「はは……もう無理ィ……心臓止まるぅ……」


ひどく現実味のない光景。

何もかもが信じられない。
だが、この上なく幸せだ。


豆電球だけの、ほとんど暗い部屋。

左側には一つの体温。
そして右側にも、一つの体温。

合わせて二人の体温が私を挟み込み、狭いベッドの上に肉体を押し込んでいた。


「つーかいくらなんでもキツすぎんだろうよ……!!
おい、てめえが場所取ってんだよもっとそっちに行きやがれ!!」

「んだよ、てめえこそ幅取ってんじゃねえよ、こっから落としてやろうか?」

「なんだと……?
そもそも誰のベッドだと思ってやがる……!
オレ様の寛大な温情が理解出来ねえなら床で寝てな!!」

「っ、……」

――どちらがどちらのバクラかなんて、今の私には分からない。

だって彼らは、よく似た声で、同じようなことを喋るのだから。


二人のバクラに身体を挟まれ、私が正気で居られるわけがない。

とっくに全身は火照り、頭はぐちゃぐちゃになって、ただ二人の温もりを貪るだけの機械と化してしまうのだ。

嬉しい……

千年リングに宿るバクラの温もりと、盗賊王バクラに宿る温もりと――

しかもあろうことか、今二人からは同じ香りが漂って来てるのだ。

獏良君ちのシャンプーやボディソープといった、優しい香りが。


パーカーを脱ぎシャツ一枚で寝ている盗賊王が苦しそうに身じろぎし、私は仰向けだった体を横にして隙間を作ってあげた。

彼に背を向け――必然的に、目の前には白い肌を持つバクラの顔が現れる。

「……っ」

ずき、と高鳴った心臓が胸を打つ。

少し首を伸ばせば届く距離にある唇は、私の理性をごっそりと奪い取った。

駄目だ、と自分に言い聞かせ、反射的に目を瞑る。

早く寝なければ。

この、どこまでも非現実的で、灼熱の慕情を2倍に増幅させて煽るだけの状況に、溺れている場合ではない。

それはわかっている、のだけれど――……


「クク……そんなに興奮して眠れんのか? ゆめ……」

目の前のバクラが、密やかな声でそんなことを囁く。

「…………」

この『距離』は、イコール睦事のときのそれだと、体と脳に刻まれた経験が全力で訴えかけてくる。

駄目だ、ダメだ。

本能に流されたら、私の体力はもっと奪われて、睡眠不足にもなってしまう。


――だが。

背後でじっと大人しくしているばかりと思っていた褐色の腕が、まるで蛇のようにすすすと私のお腹を這い、ゆっくり胸へと滑って行った。

「……っ」

まるでスイッチを押したように反射的に疼く身体。

だめ、それ以上触ったら――

私の上で蠢く手を控えめに剥ぎ取り、後ろへと押し戻す。

しかし次の瞬間、別の腕が前から伸びて来て私の腰を抱き寄せた。

前のバクラ――獏良君の肉体を持つバクラだ。

「っ……!!」

バクラに抱き寄せられた形になり、目を瞑ったまま思いきり息が止まってしまう私。

何もかもが分からなくなって俯けば、頭にバクラの胸先が触れ、下半身は彼にピタリと密着して微動だにしないのだった。

「…………、……っ!」

言葉など一言も発せない。

心臓が自分でもわかるほど激しく鼓動し、バクラの心音さえ聞こえそうな距離で、温もりに包まれて。

到底目など開けられず、とうとう伏せた顔の下で控えめに息をついて――


だが、衝撃はそれだけではなかった。

ごそ、と背後の気配が身じろいで、次の瞬間、胸に逞しい感触が触れた。

言うまでもない。

背後の盗賊バクラが、私を後ろから抱き締めるように胸に手を回してきたのだ。

まるで取っ手だと言わんばかりに、膨らみをそっと掴む熱い手。

その手がごくごく控えめに胸を揉み、反射的に下半身に流れ込んだ熱に、私はつい甘い吐息を漏らしてしまった。

盗賊王の戯れはそれだけではない。

彼は私の首筋に唇を寄せ、まるで髪に顔を埋めるように、後頭部に擦り寄って来たのだ。

ばくばくと暴れ続ける胸の鼓動。

二人分の熱とぬるい欲に挟まれて、私の体温は一気に上昇して行く。


――でもさすがに、この状態は互いが許さないだろう。

二人はきっとまた私を挟んで何事かを言い合い、最終的には二人とも私に背を向ける形になったあたりで手打ちだ。

そうなれば私は、興奮しつつもなんとか眠れる、はず――

そのはずだ。


……けれども。

いつまで待っても、その展開はやって来なかった。

彼らは一言も発さず前から私を抱き寄せて下半身を押し付け、あるいは後ろから腕を回して胸のあたりを触りながら、髪に顔を埋めている。

――それだけだった。

(ちょっと待って……ちょっと待って……!!)

二人の抱き枕にされた状態で身動きが一切取れない私は、暗闇の中で呼吸を荒くしながら、ありえない現実に窒息死しそうになっていた。

嬉しい、幸せ、好き、気持ちいい、好き、嬉しい!

なにこれ。

なにこれ、なにこれ……!!!!

あらゆる感情が頭の中を暴れ回り、滅茶苦茶な雄叫びを上げている。


さらに私は、とんでもない事に気付いてしまった。

私の下腹部と、お尻あたり――

その両方に、心なしか硬いモノが当たっているということに……!!

駄目だ。駄目だ。ダメだ。

心を無にしなければ。
一刻も早く眠らなければ。

ぐずぐずと潤む下着の中など無視して、さっさと眠りに落ちなければ――


腰に回されているバクラの手が、そっと下へ滑り、盗賊王と私の隙間をこじ開けるように私のお尻あたりを撫でた。

一方で、胸に回された盗賊バクラの手は、私と白いバクラの密着を引き離すように私の胸をゆるゆるとまさぐっている。


彼らは何も言わない。

ただそうすることが当たり前だというように、玩具の輪郭をなぞるように私に触れ続けるだけで。

そんな中、私はふとあることに気がついた。

獏良君の体を持つバクラと、盗賊王バクラは、この暗闇で1体の共有玩具をまさぐる中で、幾度か手が触れ合っている。

だが、彼らには『異変』がない。

闇の中の恐ろしい声が、私の脳裏に響く。

――やはり、そうか。

二つと存在するはずの無いモノ同士を、重ね合わせれば……

獏良君の体と盗賊王の体は、肉体自体は別人だ。
それはつまり、肉体同士の接触では条件を満たせないということだ。

であれば。


私は深呼吸し、肺を二人分の『バクラ』でなみなみに満たして、二つの千年リングを脳裏に思い浮かべた。

それから、この瞬間が永遠に続けばいいのに、と願う。

勿論そんなことはありえない。
それは分かっている。

――それでも。


二人のバクラに挟まれて、2倍のバクラを貪って、この熱を、感覚を、永遠に忘れないようにと。

頭に、全身に、魂に、刻み込んで。


愛して、る…………

心の中で唱えれば、だんだんと意識が遠くなっていった。

ようやくやってきた眠気に襲われ、どこか勿体無いと思いつつも、素直に身を委ねる私。

朝になれば――
朝になれば。


温かい。
これ以上の幸せなんて何処にもない。

だから。


おやすみ、二人のバクラ。


………………

…………

……


――――いや、無理でしょ。


もうちょっとで完全に眠れそうだった私の意識は、とある行為によって一気に覚醒方向に引っ張り上げられた。

何が起こったか。

そう、答えは簡単である。

硬いモノを押し付けながら私の胸に手をやっていた盗賊バクラが、とうとう我慢出来なくなったらしく、下着ごと私の下半身の衣服をずり下げたのだ。

「っ……!!」

それから彼は、ガサゴソと身じろぎをすると、私の脚を撫で、『それ』をするのに邪魔になっていたらしい白いバクラの手を、遠慮なく押し退けたらしかった。

「おい」

たちまち前から上がる抗議の声。

だがそれに答えたのは、至極勝手な褐色肌男子の言い分で。

「悪ィがちょっとコイツを借りるぜ。
どうしても邪魔ってんなら、床に移動してやってもいいがな」

…………。

彼の思惑に気付いた私は、一瞬で眠気が吹き飛び、ここから移動するまいと前のバクラにしがみついた。

だが。

てっきり更なる抗議をしてくれるものとばかり思っていたバクラは、しかし。

「……さっさと済ませな」
とだけ言って、盗賊王の邪魔にならないよう、腰にやっていた手を私の後頭部へと移動させてくるのだった。

同時にそれは、私が逃げないよう押さえておく、という意味も込められているようで。

声にならない声を上げた私が、僅かな抵抗とばかりに、後ろのバクラを手で引き離そうとした瞬間――

お尻に触れる、生の人肌の熱と、硬いモノ。

「えっ、や……」

下半身を寛げた盗賊バクラがじかにそれを私に押し付け、次に彼の手と思われる熱が私のお尻ごと脚をこじ開けて、強引に己のモノを押し込んで来るではないか!


「っ……! や、うそ」

うそ。

こんな、不自然な体制で。
まるで、道具のように、そうしたいからという理由だけで、自分の欲を、歪に突き入れようと――

「や、ぁだ、」

吐き出した声はほとんど声にならなかった。

何故なら、本能と愛情が全てを肯定し、私はそれを悦んでいたからだ。

まるで手軽な性欲処理の道具のような扱いをされて。
愛撫も掛けられる言葉もなく、猛ったモノだけを捩じ込まれようとされて。

それでも、とっくに火照った私の身体は内心それを待ち望んでいたし、灼けつくような恋慕の情は、こうなることをどこかで期待していたのだ。

『バクラ』の欲望の対象にされることが、とてつもなく嬉しい。
拒む素振りを見せながら受け身でいても、実はそれを全力で貪っている。

ただでさえ二人のバクラに挟まれて、自分の体に蓄積した熱はとっくに満タンなのだ。

本当は、本当は……バクラが欲しくてたまらない。

その渇望は、理性を――明日の朝が辛いとか、また二人の前で醜態を晒して恥ずかしいとか、そういったもの――を容易く吹き飛ばしていく。

だから。


「あ、……っ」

ずずず、とゆっくり沈められる杭に、私は恍惚に身悶えて甘い声を漏らした。

「ゃ、ぁ……」

流れだけで言えば強引に身体をこじ開けられているも一緒なのに、とっくに準備が出来ている私の身体は、痛みもなく彼を呑みこんでいく。

盗賊王にとってもこれはかなりきつい体勢だろうに、それでも彼は器用に己のモノをねじ込み――
やがて奥を突いた。

「は、ぁ……ん」

閉じた瞼の裏がチカチカと明滅する。
声を押さえて吐く息は、自分でも恥ずかしくなるくらい淫靡だった。

自分の中が盗賊バクラのモノでいっぱいになっている。

楔を打ち込まれた私は精神的にも物理的にも抵抗することが出来ず、ただ彼の獣めいた欲望に嬲られるのだ。

「……滅茶苦茶濡れてんな、オマエ」

耳元で囁く声は、どこか面白そうで。

その唇が髪を掻き分け、戯れるように耳朶を食むと、反射的に下半身が収縮して彼のモノを締め上げた。

「ゃ、だめ、こんなの……っ」

吐き出した声は虚しく空気に溶け、私を穿つバクラがゆるゆると控えめな律動を始める。

狭くて体勢が限られているためか、それとも前のバクラに遠慮――というか邪魔だと思っているためか。

盗賊バクラは昨晩や先刻のような荒々しさは見せず、まるでこういう抱き方も出来るのだと言わんばかりに、ぐずぐずと私を犯しているのだ。

「ん、ぁ……っ、はっ、や、あ、」

中をゆっくりと擦られる度に走る、ゾクゾクとした甘い痺れ。

唇からは自然と艶めいた嬌声がこぼれている。


私は後ろのバクラからもたらされる快楽に喘ぎながら、前のバクラの体に抱きついてその首元に顔を埋めた。

助けて、と言うわけではないが、横たわって下半身だけを犯されているというこの不安定な状況に、縋りつけるものが欲しかったというところが大きい。

否――それだけではない。

私は『足りない』と思ってしまったのだ。

『バクラ』のもう半分が、ただ何もせず、そこに在るという事実――

勿体無いし、あと半分足りない。

それは、飢えた獣のような浅ましい欲で。


そんな私のじりじりとした燻りに気付いたのか、ふと、前のバクラに顔を撫でられ、掴むように顔を上げさせられた。

いくらほとんど暗い中だとは言え、今の淫らな表情を彼には見られたくない――

そう思ったのだが。


「ん、……っ」

私の唇を塞いだ熱は、白いバクラの唇だった。

髪ごと耳を塞がれ、ぬるりとしたものが口内へ滑り込む。

ちゅ、ちゅ……という水音が鼓膜の中に反響し、暗闇の中で絡まる舌が呼吸を奪っていった。


……なに、これ。

なにこれ。なにこれ……!

背後から盗賊バクラにぐぶぐぶと潤みの中心を掻き回されて。

前から千年リングのバクラに息も出来ないほど口付けられて。

「ん、んん……っ!」

声にならない声が、喉の奥で破裂する。


これは現実なのだろうか。

もはや分からない。

力を失った手を、そっと自分の下半身に遣ってみる――

二本の指を開き、繋がった部分に当てがってみれば、指の隙間を盗賊王の猛った分身が往復していって……
今自分が確かに犯されているのだと自覚する。

ずぶ、ずぶ、と静かに、しかし確実に私の肉を繰り返し押し広げる彼の杭。

「ん、ん……!」

ぬるぬると絡まって貪られる舌とあいまって、繋がった部分からは、蜜がとぷとぷと溢れ出していた。


「オマエ、本当に、エロいな」

背後から発せられる熱っぽい声。

その声は私の淫乱を詰るというよりは、どこか面白そうな、満足だというようなニュアンスを滲ませた声だった。

ほんのちょっとでも、たとえただの道具でも、彼が私の体を好ましいと思ってくれるなら――

それは何よりも嬉しい。
嬉しすぎて死にそうになるくらい。

すっかり悦楽に溺れた私は、繋がった部分に当てがった指をずらし、すぐ側にある一番敏感な突起を自らなぞり上げていた。

「ぁ、はっ……! んぅぅ、ん……!」

それは本能的なものだった。
ぬるぬると陰核を押し潰しながら、繰り返される抽送を受け止める。

唇は塞がれ、胸に降りて下着の下に潜り込んだ白い手に、ゆるゆると膨らみを揉みしだかれる。

気持ち、いい……

閉じた瞼の闇の中でもたらされるのは、快楽と、熱で――

私の中で増幅するのは、『バクラ』への愛情で。


――強烈な『バクラ』の存在感が、私の魂を呑み込んで行く。

刻まれる。穿たれる。

溶けて、いく……

『バクラ』に溶けていく。

私の全てが。


「あいして、る」

紡いだ声は声にならなかった。

二人の『バクラ』に溶けた私は、まるで恍惚の海に溺れるように、喘いで、沈んで、蜜と吐息だけを吐き出して――

『最後』になるだろうこの時を超えた享楽を、永遠に忘れないようにと、魂に、刻み込んで――


そして。

そして――――







私は再び闇の中にいた。

夜の暗闇とは比べ物にならないほどの、濃厚な闇。

眼を凝らしても何も見えず、それどころか『この空間を認知することを本能が拒否している』ような、理解しがたい闇。

それでも今回は、二つの千年リングに触れたことによる突発的な転位ではなかった。

そう――これは、夢の延長のような。

夢……そう、夢だ。


あれから。

計らずも盗賊バクラに後ろから襲われた私は、千年リングに宿ったバクラと唇を重ね合わせながら道具のように扱われ――

ようやくコトが終わり、盗賊王への抗議の意味を込めて背後を振り向けば、待っていたとばかりに伸びて来た褐色の腕に、頭を捕われたのだ。

まるで肉食獣にじゃれつかれるような感じで盗賊王に唇を塞がれた私は、背後で身じろぎする不穏な気配に気付き、まさかと思った時にはもう白いバクラに犯されていた。

まさに2倍。
前後が反転しただけの淫猥な茶番劇。

当然の如く気をやった私はそこで、半ば気絶するように眠りについてしまったのだ。


そして――この『闇』に至る。


得体の知れない闇の中。

ひたり、と背後に迫る気配。

既視感と、襲い来るだろう恐怖に耐え、私は奥歯を噛み締めて身構えた。


『声』が、再び耳元を舐めるように囁いた。


《昨日 言ったことを 覚えているな》

《時間が 無いから 早くしろ》

《それから おまえに 一つ忠告だ》

《『その時』になったら おまえは 『彼ら』に 触れては いけない》

《異物である おまえが 彼らに 触れてしまえば 法則が 捻じ曲がる》

《そうなれば 彼らを 在るべきところへ 還す事が 出来な――》


「おい!」


――突然、だった。

何かに意識を引っ張られ、それから――

浮上した。



眼を開ける。

視界に映る、『彼ら』。


二人のバクラ。
愛しいバクラ達だ。


「…………っ」

「朝だっつってんだよ! いつまで寝てやがる……!
何か作ってコイツに食わせろ。ウザくてかなわねーんだよ!」

降って来た声は、獏良君の体を持つバクラのものだった。

「……っ」

ぶるり、と震えた背中が強制的に思考を遮る。

「…………ぁ、」

無理矢理体を起こし、震える唇でバクラ達に視線を向ければ、何事かと察した白いバクラが眉をピクリと動かした。


「……何があった」

問われた時には、反射的に抱きついていた。

既視感しかない。

私は昨晩、褐色肌のバクラにもこうして縋りついた。

だが、千年リングに宿るバクラは――
私のことをよく知っているためか、もしくは人ならざる超常的存在を内包しているためか、盗賊王よりも察しが良かった。

彼は私の頭を抱きかかえるように腕の中に閉じ込めると、感情を読み取ることが出来ない平板な声で――
こう、言った。

「……オマエが知ったことを全て話せ。ゆめ。
オマエは何を見た。何を聞いた」

ああ。

やっぱりこのバクラには、隠し事は出来ないな――

私は心からそう思った。

だから。


「朝ごはんを食べ終わったら話す。
私が聞いたこと、全部」

言い切れば、良い子だというように一回だけ頭を撫でられた。

それだけで、たった今まで感じていた深い恐怖が吹き飛ばされる。


やはりバクラは『バクラ』だ。

私にとっての『基準点』。

どんなに怖くても、どれだけ深い闇の底でも、『バクラ』が居れば私は帰って来れる。

きっと。必ず。

だから――


「……ごはん作るよ。二人とも待たせてごめんね」

そう、彼らに告げて。

私はようやく、ベッドを抜け出したのだった――


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