17



「服を着ろ、ゆめ」

発せられた一言。

事後の気だるい余韻に酔い、肩で息をしていた私に投げつけられた声はバクラのものだった。

のろのろと身体を起こし、言われたとおりに服を着込む私。

たとえ眠っているとはいえ、別室には盗賊王が居るのだ。
冷静に考えれば、色事に時間を使っている場合ではないのはその通りだろう。

しかし。

次にバクラがした行動は、私の予想を遥かに超えたものだった。

ベッドから降り立って数歩踏み出した私の、背後に回ったバクラ。
彼は私の両手を後ろ手に掴み、何やらガサゴソとやっている。

「え……」

既視感。
カチャリ、という金属音と硬い感触に、再び手錠を嵌められたのだと悟った。

「なん、――」

疑問を口にする間もなく、再びベッドに体を放られる。

「ッ!」

まさか、『また』――!?

反射的に身体が疼くが、こちらの心を見透かしたように即降って来た一言が、さらに私の頭を混乱させる原因になるのだった。

「残念だがそんな暇は無いんでね」

私はお腹と脚に力を込め、ベッドの上に座るように起き上がった。
何事かとバクラを振り向いてみれば、パシャリ、という音が室内に響く。

「っ、」

バクラが手にしていたのは携帯電話だった。
音からして、写真機能のシャッター音だろう。

「悪ィが使わせてもらうぜ。『保険』のためにな」

バクラはそんなことを言った。

保険……?

バクラが、私の写真を……しかも、手錠を掛けられてる私の写真を撮った……?

「なんで……」

たとえば――
卑劣な行為をした犯人が、犯行の後で、口止めの為に被害者の恥ずかしい写真を撮って脅す、というような話なら聞いた事もあるが……

でも、私とバクラの仲だ。
この場合は全く当てはまらないし、意味が無いだろう。

それにその手の脅しなら、服を着る前じゃないと効果が無いんじゃ――

「クク、裸でも良かったってか?
さすがに男子高校生に見せるには、ちょいと刺激が強すぎるんでな」

「っ!?」

不穏な音を立てて跳ねる心臓。

男子、高校生……に見せる!?

「タダでオマエの肌を見せてやるほど、お人好しじゃねえんだよオレ様は……!
そこまで追い詰められてねえっつーの」

ククク、と肩を震わせて喋るバクラの声色は、軽口の裏で何かを企んでいる時のそれだった。

「安心しなぁ……!
いくらオレ様でも、自分の女をみすみす危険に晒すような真似はしねえからよ」

闇を湛えた双眸。
不敵に釣りあがる口元。
さりげなく挟み込まれる殺し文句に、息が止まりそうになる。

わかっている、バクラは私を煙に巻こうとしているのだ。

何か言わなきゃ、ちゃんと訊かなきゃ――!

でも。

「オマエはオレ様だけのモノだ。
いちいち言わなくてもわかってんだろ……?」

私の心臓を人質に取るバクラの言葉。

火照っていく頬が、私の喉から声を奪う。


「オレ様が帰るまで、黙って大人しく留守番してな。
『ヤツ』から目を離すなよ。それから、他の奴が連絡や訪問して来ても今は無視しろ。
絶対に出るな。……いいな?」

これはお願いや提案ではない。命令だ。

有無を言わさず私に念を押す、バクラという闇の存在。

バクラの思惑は分からない。

私の写真を誰に見せるのか。何に使うのか。
バクラはどこへ行こうというのか。

分からないことだらけだ。

だが、どれだけ疑問があったとしても、私にはそれを確かめることは出来ない。

何故なら――

バクラに命令されたら、いつだってたった一つしか答えはないのだから。


「……わかった」

唇を震わせて告げれば、満足そうに嗤ったバクラが近付き、手錠を外してくれた。

「……」

無言でバクラの顔を見つめてみる。
彼は確実に何かを企んでいるが、今の私ではそれを推し量るのは無理だった。

交差する視線。

何事かを言う前に、まるで子供をあやすように頭をひと撫でされる。

それで誤魔化されてしまうのだから、本当に私はどうしようもない。

「――っ」

空気が揺らいで、さらなる駄目押しが唇を塞いだ。
一度だけ、軽いキス。


それからバクラは私に背を向け、部屋の隅に掛けてあった黒いコートを引っつかんで羽織りながら、部屋を出て行った。

玄関のドアが閉まる音。鍵が閉まる音も聞こえた。

この601号室の鍵を持っているのはバクラだけなのだから、これで私たちは外出できなくなったということだ。

未だ火照る頬。
少しだけ不穏なものがまとわりつく心。

それらを抱いて、私はベッドを降りたのだった――






軽くシャワーを浴びてリビングに戻ってみると、未だ盗賊バクラは寝入ったままだった。

彼から離れたソファの端に、そっと腰を下ろす私。

盗賊王はクッションを枕にして寝息を立てている。

黙って近付くのはやめろとあっちのバクラに言われたことを思い出し、私は彼を起こさない程度の小さな声で呼びかけてみた。

「バクラさーん……
もうちょっと近付いても、いいですか……?」

――もっとも、起こさない程度の声量で注意喚起することに、果たして意味があるのかどうかは微妙だが。

敵じゃないよというふうに、まるで手品師が手品を始める前に空手であることをアピールするような格好で、両手をひらひらさせながら彼の頭の方へ近付く私。

幸い反射的に襲われることもなく、私は眠る盗賊王に接近する事が出来たのだった。

(やっぱり寝顔かわいいなぁ……)


古代では王墓を縦横無尽に荒らし回り、最強クラスの精霊獣を操り意のままに力を振るっていた彼も、現代で獏良君の体と並んでしまえば少しだけ背が小さかった。

普段は鋭い眼光と頬に刻まれた痛ましい傷痕が少年らしさを遠ざけているが、しかし瞼を閉じて眠りにつく彼の寝顔は、どこかあどけなく――
微笑ましいものだった。

「…………」

時代が違うとはいえ、私たちが学校で勉強だの友達と遊ぶだの、はたまた背伸びをして恋だの――をしている頃に、盗賊バクラはその身を暗闇と闘争の中に置いてきたのだ。

己の全存在を賭けた目的のために。
血塗られた復讐のために。

哀しくて、壮絶で、同情すら寄せ付けない孤高の衣をまとう彼。

自信満々で不敵に嗤い、時に人を茶化す仮面の下には、どこまでも昏く、深くて黒いモノが潜んでいる。

「バクラさん……」

命を燃やして最短ルートを全力で走破してきたであろう彼の人生を思うと、胸が潰れそうになる。

ただでさえハードモードだった彼の人生は、今、予期せぬタイムスリップ的な現象のせいで、ナイトメアモードまで押し込まれたと言っても過言ではない。

それでも盗賊王は、戸惑いや怒りや不安といった感情を極限まで抑えて、この世界で足掻いているのだ。


彼の寝顔を見つめながら、考える。

盗賊バクラは、短い半生の中で、たとえば泣き言をこぼしたり己の運命を呪って喚き散らしたりしたことなどは、無かったのだろうか。

……だとしたら、もはやそれは地獄ではないのか。
少なくとも、平和な現代人から見れば。

バクラは同情を欲しないだろう。
悲壮感が滲むその生き様を慰撫しようとしたところで、くだらねえ、ふざけんなと鼻で嗤われるだけだ。

わかっている――
わかっているけれども。

平和な現代人の上から目線の共感だとは分かっているけれども。

それでもやはり、思慕を寄せた者として、彼に寄り添い、抱き締めて、戯れでも暇つぶしでもいいから、この身がほんの僅かの慰めにでもなれたらいいなと――

そんな、くだらないことを私は思ってしまうのだ。

本来そんな資格もない、何の力もない、ただの女子高生の傲慢じみた馬鹿な感傷だと自覚はしているけれども。



不意にのそり、と寝返りが打たれ、寝息が止まる。

ややあって、バクラがゆっくり体を起こした。

その手はしっかりとポケット――に隠されているナイフに添えられていて、私は思わず苦笑したのだった。

「おはよう、バクラさん」

「……」

現実を把握するように、部屋をぐるりと見回す盗賊王。
それから、かち合う視線。

紫がかった双眼が私を捉え、唇がそっと開かれた。

「……いつからそこに居た」

「うーん……15分くらい、かな」

「……『ヤツ』はどうした」

「出かけちゃった。留守番してろって。鍵が無いから何処にも行けないんだ。
私たちがここ出ちゃったら、この家鍵開けっ放しになっちゃうから」

「何処へ行った」

「それがわからないんだよね……というか、教えてくれなかった。
でも、敵を連れてくるとかそういう事は絶対ないと思うよ」

「……」

起きるなり矢継ぎ早に放たれる質問に、さくさくと答えていく私。

寝起きのバクラの声は少しだけかすれていて、何だか恥ずかしくなった私は腰を上げると、キッチンの方へ向かったのだった。


「……お水、飲む? 喉渇いてるかと思って」

獏良君ちのコップを拝借し、水を汲んでソファテーブルに置く。

コンビニで調達したジュースの類はすでに飲み干した。
獏良君の冷蔵庫を漁るのは申し訳ないので、それはしないでおくことにしたのだ。

少しの間コップを見つめていたバクラだったが――
やがてコップを手にし、素直に口をつけていた。

もしかしたら彼は、目が覚めてもこの摩訶不思議な現象が夢ではなく現実だったことに、少しだけがっかりしたのではないだろうか。

これが夢ならば、もしくは神様の一夜の戯れならば、彼にとってはどれだけ良かったか。

私ごときがおこがましいとは思うが、心中察するに余り有るという感じだ。

「ソファで寝て、体痛くなってない……?
体じゃなくても、頭痛とか打ち身とか切り傷とか、現代には便利な薬が沢山あるから必要だったら言ってね。
病院……は保険証ないとダメだから……そのへんはどうにかしなきゃ」

「地面や穴倉で寝ていたことを考えりゃ十分すぎるくらいだな」

ぽつり、と吐き出された言葉は彼の正直な感想らしかった。

盗賊王は、私の言葉を正確に受け止めて、何だかんだで割と律儀に返してくるところがある。
その内容が好意的か否かはさておいて――

与えられた情報を最大限活用するために、素早く咀嚼する。
相手の反応や言葉尻をよく観察し、裏を読む。
一見ふざけた軽口で相手を煙に巻き、本当に重要な本心は滅多に表に出さない。

状況判断力、注意力、観察力。

元々回転の早い頭に、それら盗賊らしい要素が上乗せされている今の彼は、かつて幻想世界で見た彼の印象とは少しだけ違う部分もあるが――

だがきっとそれは、現代で精霊獣の力を失ったがゆえの微妙な軌道修正なのだと思う。
『必要があるから』そうしているのだ。

そしてその性質は、あのバクラにも通じるわけで。

やはりバクラはすごい人なのだ、と私は感心せざるを得ないのだった。


「テレビ見たり、何かする? 一応デッキ持ってきたよ。
あと雑誌や本もあるし……獏良君のだからちょっとだけ借りて、読んだら戻す感じで」

先程までの、元の世界に戻る方法云々の話はもはや進展が見込めないので、何か別のことをした方が良いかと思い提案をする私。

だがバクラは「いや、」とそれらを拒否し、重要な事柄について口火を切った。

「オマエに訊きたい事がある。
……この時代で千年錐――千年パズルに宿るという、ファラオの魂についてだ」

「……っ」

「ヤツは――あの『バクラ』は、己がバクラであることをファラオの魂に明かしてねえのか?」

真剣な眼差し。

盗賊バクラは明らかに不審がっていた。
まるで、一連のいきさつの中でどうしても腑に落ちない部分があると言うように。

「うーん……あのバクラが、千年リングに宿る邪悪な意思であることは、遊戯君……ファラオの魂も知ってるよ。

遊戯君がパズルを完成させて、ファラオの魂――当時は古の王様の魂だなんて知らなかったんだけど――を蘇らせた後だったかな。
獏良君が私たちの学校に転校……えっと、初めて獏良君と私たちが出会ったの。

そして、獏良君が千年リングを所持してること、そこには邪悪な意思が宿っていることが分かって……
獏良君を宿主とするバクラは、千年パズルを手に入れるために、遊戯君たちに闇のゲームを仕掛けたの。

でもバクラは負けた。遊戯君たちが勝って、それで――

あ、そもそも人間の遊戯君と私たちがもう一人の遊戯君と呼んでいるファラオの魂は、獏良君とバクラの場合と違って、互いに協力し結束してるのね。
だから遊戯君ともう一人の遊戯君は、バクラにとっては強敵だったから――

でもあのバクラは消えなかったよ。千年リングに潜んで、そしてまた後で表に出て――」

「待て、待てよ……!
いきさつはとりあえず分かったぜ。だがそうじゃねえ。

そもそも、だ。
何故あのバクラと、ファラオ――遊戯とやらは、そんなに回りくどいことをする?
その『一度負けた』らしいバクラが慎重になるのはわかる。
けどな、その後がかみ合わねえんだよ……!

3000年前、ファラオは己の魂を邪悪なモノと一緒に千年錐に封じたと言ったな。
ヤツは当然、敵が盗賊王オレであることはわかってんだろ……?

何馴れ合ってんだよ。千年アイテムを集めるまで呑気に待つ? 様子見? 友達ごっこってか?
意味がわかんねえんだよ!!

……なぁ、まだあんだろ? 隠してるコトがよ……!
あの『バクラ』が、何故ンな回りくどいことをすんのか――
あのファラオが、何故呑気にこの時代を満喫してんのか。

答えろゆめ……! 誤魔化しは無しだ。譲歩も懐柔もしねえ。
素直に答えねえってんなら、この場でてめえの喉笛を切り裂いてやる……!」

私の胸倉を掴み、いきり立つ盗賊バクラ。

急展開に戸惑うも、私はどこか冷静に何故このバクラがここまで興奮しているのかを考えた。

すぐに、あ、と気付く。

それから、力の篭る褐色の拳に自分の手をそっと重ね、口を開いた。

「もう一人の遊戯君は――千年パズルに宿るファラオの魂はね。
記憶を、失くしてるんだ……。
当時自分が生きていた頃の記憶を、全部……」

見開かれる紫色の瞳。

盗賊王は何が起きたかわからないというように硬直し、それから目線を下げると、眉根を寄せて歯をぎりぎりと噛み締めた。

緩まる胸倉。
力を失った褐色の手がぱたりと落ち、「なんだよそりゃ……、」と小さな声が漏れた。

「バクラさん……」

「ふざけんなよ……
記憶を、失ってる……だと……!?」

ソファの上で、再び拳が握られる。

力の篭ったそれは、立ち上る怒りをこらえるようにわなわなと震え始めていた。

「っ、ヤツが、全部忘れちまった……?
オレ様と闘り合ったことも、千年アイテムを生み出した張本人の名をオレ様が教えてやったことも――

いや、それだけじゃねえ……
てめーの親父が何をやらかしたか……その血塗られた真実を最終的にヤツは全て知ったはずだ!

それを、忘れちまっただと……?
3000年も後に目を覚まして、呆けた面で平和を満喫してるだと……?

ふざけんじゃねえ……!!!
クソが……!! 何だよそりゃあ!!!」

血を吐くような叫びだった。

見開いた目には怒りと殺意のようなモノが浮かび、血走って揺らいでいた。

「、…………っ」

私は一言も声を発せなかった。

盗賊バクラの怒りと、失望のようなものは部屋を満たし、唇を噛み締めることしか私に許してくれなかった。

胸が、痛む。
息が詰まって、涙腺がちりちりと燻り始めた。

「で……?
ファラオの記憶が無くなっちまってるから、それで何だってんだ?
思い出させてから殺そうってか?
そりゃそうだろうなぁ、全部忘れちまったまま被害者面されて死なれても胸糞悪ィもんなぁ……!!」

「っ、」

「答えろ!!」

伸びて来た腕が、ガッと私を引き寄せ、そのまま抱き締めた――

否。

そんな生温いものではなかった。
私の体を丸ごと腕の中に拘束した彼は、拳を握った両腕で私をぎりぎりと締め上げ、さらに力を込めて来るのだった。

「か、はっ」

――痛い。
バクラの力強い腕に抱き込まれた私の骨が軋み、肺からは空気が漏れた。

痛みをこらえ、言葉を紡ぐ。

「ファラオの、記憶の中には、『鍵』の、秘密がある……
千年アイテムを七つ揃えたあとに、必要な、鍵……っ
それがないと、冥界の扉を、開けられ、ないって……!」

「ッ……!」

未だ力の抜けない腕。

潰れる胸と軋む骨がずきずきと痛み、涙を滲ませた。

痛い。
でも、私はそれを口にしなかった。

何となく分かってしまったから。

今私に表情を見せずに私を締め上げ続ける盗賊バクラの心が、どれだけ痛みに悲鳴を上げているかを。

だから我慢することにした。

唇を噛んで、次に繋げる言葉を頭で考えて、そして――

「ファラオ、だけじゃないんだ……
あの、バクラも、ね……
3000年を、経て……いろんなことを、忘れちゃった、みたいなの……っ
徐々に思い出して、『最適』を探して、それで……

遠回りだったかも、しれないけど……!
でも、ようやく、ここまで、来たんだよ……!

ファラオの、記憶を、取り戻す、中で……っ
最終、決戦の、舞台を、用意、して……、くっ……」

切れ切れに吐き出す。

溢れた涙が頬を濡らし、バクラの力で深呼吸の出来なくなっている私は、浅い呼吸を繰り返し痛みに耐えるのだった。


ふと、緩まる腕の力。

体を後ろに引けば、ふらついた体幹がバランスを失わせ、私は背中からソファに倒れこんだ。

ちり、と唇が痛み、先程噛み締めた時に唇が切れたのだと悟る。

「、はぁ、はぁ……っ」

力の入らない腕で何とか体を起こし、ソファに座り直してバクラに目をやった。

暗く澱んだ双眸。

俯いたその顔はいつもの不敵な彼のそれとは全く違っていて、まるで深い闇を見つめるように暗澹としていて、触れたら殺されそうな剣呑な気を発していた。

人間である『バクラ』の奥底にあるモノ。

いつも余裕綽々で、自信満々で、不敵に嗤う彼の秘められた激情。

怒り。憎しみ。恨み。哀しみ。反抗心。

人間であるが故に捨てられない、ありとあらゆる負の感情。

普段ほとんど感じることが出来ないその生の感情、バクラという生身の人間の情動、狂熱に触れて。

私はただ、唇を震わせて、それを受け止めることしか出来ないのだった。


「、バクラさん……」

ようやく発した一語は、しかし。

「……失せろ」

容赦のない一語で返されて、霧散する。

涙を拭い、立ち上がる私。

何も言わずバクラに背を向ければ、さらに言葉が返って来た。

「どっか行ってろ。
……別に何処にも行きゃあしねえよ。
行くあてもねぇしな」

ほんの少しだけ補足するように紡がれた台詞は、彼なりの気遣いだったのかもしれない。

私はその言葉を、一人にしてくれ、というバクラのメッセージだと受け止めた。

だから何も言わず、リビングを後にする。

廊下を歩き、そして――

私はしばらく、獏良君の部屋で一人過ごすことにしたのだった。


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