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2009 夏

2013.06.25.Tuesday

ほぅ、と。
暗闇に溜め息が落ちた。


視線を上げれば窓の外で、白い吐息が浮かんでいた。
真夏の夜の事である。
焼付くような昼間の暑さは幾分和らぎ、じっとりとした熱気が残る夜だった。
クーラーの効いた部屋の中で机に向かっていた千種は、一時間前から進んでいない宿題を置いて窓辺へ向かった。
カーテンを閉め忘れた窓は真っ暗な外の裏庭を、額縁の如く飾っている。
その奥に、ぼんやりと白いモノが浮かんでいた。庭といっても、道路と敷地を鉄柵で区切った、僅かな隙間に勝手に生えた植物が覆い茂っているものだ。
その柵に絡み着いた蔦には、いくつも綿のような花が開いていた。


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01:44

PM3:35 東京にて

2013.06.13.Thursday

『おめめをお探しかい、ぼうや?』

唐突に揶揄を含んだ男の声がして、彼は不機嫌も露わに振り返った。
「あ?」
下校途中の事だった。
背後を歩いていた下級生と思われる一団が、さっと顔色を変えて固まった。
理由も分からず凄まれて、戸惑う彼らの様子にしまったと内心悪態をついたが、時すでに遅し。繕うように舌打ちをし、何事も無かったかのように歩き出した青年の背中越しに、ひそひそと話声が広がっていく。
「なに今の」「ビビった、何で俺ら怒られたの?」「しっ、聞こえるぞ!」
「あれが、谷城だよ。……谷城千種」

千種は普段からの仏頂面をますます深めて、それらの声を黙殺した。

くすくすと。
一方で彼の耳は、別の声が忍び笑いを漏らしているのを捉えていた。
苛々とした乱暴な手つきでポケットから携帯を取り出した彼は、耳に当てたそれに向かって小さく怒鳴る。
「ざけんなよ、八代」
四角い液晶は黒く沈黙したままだった。
「あ? 何の話だよ。つーか、どうせならその目ん玉入れ替えて貰えば、不愉快な映像も見せられねえだろ」
繋がっていない携帯電話で会話を続ける千種は、けれど彼には聞こえていた。
正確に言うと耳にではない。彼の意識に、だ。
――教えない。それに無理だよ。目、云々の話じゃないし。

彼の、此処には居ない片割れの声が。


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23:05

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