ミツルとミツユキ_1




『瑞樹くん、童貞卒業おめでとう🤍_前編』を読んでいるとちょっと「ふぅん……」となります。




「あ、生地はパンピザにしてください。……駄目ですか?」

 仕事のストレスと疲労が爆発して今日はカロリー摂取する以外なーんもしたくない! 夕飯はピザ買ってかーえろ!!

 と心の中の駄々っ子が地団駄を踏んだので、ついでに学校帰りのミツユキを車で拾ってピザ屋のレジ前に並んでいると、ふと真隣からそんな注文が挟まれる。ぱっと目線を肩の高さまで下げればミツユキが顔色を窺うように俺を見上げていた。
 最愛の兄の忘れ形見の片割れは、中学校に上がってからぐんぐんと背が伸びて身体つきもしっかりしてきた。このまま高校生にもなれば同じぐらいか、それどころか抜かされてしまうかもしれない。
 引き取った頃はあんなに小さかったのに……と近頃はミツユキを見るたびに毎度感動を覚えてじーんとしてしまう。

「ミツユキは分厚い生地が好きなんだったかな? もちろん構わないとも。私は特にこだわりがあるわけではないから」

 我が子同然に育ててきた少年に今さらよその子みたいな遠慮をしているわけでもなく、実際言葉の通りだった。
 美食は人並みにもちろん好きだが際立った食に対する拘りがない俺は、カレーは甘口から辛口までなんでも気まぐれに食べるし、ピザ生地の厚さも気分や共に食卓を囲む者の嗜好でがらっと変える。人によっては戦争にまで発展するきのこたけのこやあんこの粒を残すかどうか、果てには唐揚げにレモン汁問題まで俺には無縁のものだった。
 娘のミカゲも俺と同様なんでも美味しく食べられる子だし、ミツユキとタマキも特になにも言わないのでそれこそ稀にピザを買って帰るときなどは好き勝手に生地の厚さを変えて頼んでいたのだが。
 それならそうともっと早く言ってくれればよかったのに、やはりまだ遠慮があったのだろうか。しんみりしつつもようやくその壁をミツユキのほうから壊してくれたことを嬉しく思っていると、彼は「いや、」と小さく首を横に振った。

「俺はクリスピータイプのほうが好きだし、正直厚い生地が好きな人間とは食の宗派が合わないなとは思うけど、」
「譲れない思想があるんだね……」

 しかもかなり強めな。

「多分、タマキはパンみたいなピザのほうが好きなので」

 しかしそれならどうして問う間もなく続けられた言葉に思考の読み込みが極端に遅くなる。

「…………えっ? タマキ、そんなふうに言ってたことあった?」
「あいつ、言わないんですよね、そういうこと。出されたものはなんでも黙って食べるし」

 確かにタマキは子供らしい好き嫌いもこれといって特にしていた記憶はない。食事を用意する立場からするとこれほどありがたいこともないので、とりわけ食が細いというようなこともなかったからあまり気に留めてはいなかったのだが……。

「でもピザ生地が薄いときは後で物足りなさそうにしてるし、厚いときは喜んで食べる辺り食べ応えあるほうが好きなんだと思うんです」

 喜んで食べてたっけ……?
 返す返すもほんとに記憶にない。これはなにも俺が子供たちの食生活によほど無関心だったとかではなくて(と思いたい)、彼らは本当に食べものに関する注文をつけないのだ。嫌いなものどころか好きなものさえまともに主張があったことがない。俺が把握しているのはパンより米、魚より肉のほうが食いつきがいいなとかせいぜいそのぐらいのことだ。
 だが、ミツユキがこうしてタマキの食の嗜好をしっかり押さえているあたり、やはりこれは俺の向き合いかたが足りなかったと反省するべきなのだろう。
 ほんのり落ち込みながらも、俺はミツユキに少しだけ呆れる。

「ミツユキ、お前……もう少し真正面から優しくしてやればいいのに…………」
「なんの話ですか?」

 わざわざタマキの目に見えないところでこんなお兄ちゃんっぷりを発揮せずとも普段から普通に可愛がってやればいいものを、どうしてこう妙なところでひねくれているんだか。
 しっかり生地を分厚くしてもらったピザを受け取りながら、俺は苦笑してミツユキの頭を撫でた。


―――
22/08/26


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