タマキとライセ_1




「そういえば、」
「うん?」
「ずっと気になってたんだけど、ライセくんてなんで子供のカッコしてんの? リンネさんはちゃんと大人のカッコしてるじゃん」

 「そういえば」などとは言いつつ前置きも前触れもなく切り出したおれの問いに、ライセくんはきょとんとしてこちらを見た。両手で抱えた湯呑みがちっちゃなおててのサイズ感に合っておらず、ちょっぴりお間抜けで愛らしい。
 こうして黙って茶をしばく姿は一見して両家のご子息といった風体だが、実のところ彼は子供ではないし人間ですらない。

「子供って、色々不便だと思うんだけど」

 なにも全人類の幼体を取っ捕まえて吐く暴論というわけではなく、あくまで精神年齢と肉体年齢とに大きく開きがあった場合の話だ。セレモニーホールの経営者でもある彼は、見た目は幼い肉体がためにわざわざ代理人を立ててまで業務運営をこなしている。企業経営の経験がないおれにはよくわからないが、ただ自分の手でなにかをするのと人に指示を与えてなにかをするのとでは勝手が違うだろう。
 しばし考え込むように目を伏せたライセくんは、卓袱台の上へ湯呑みをことんと置いた。そんな彼を、おれは少し意外な思いでまじまじ見る。本当に前々から気になっていたことではあるものの、まともな答えが返ってくると思って聞いたわけではなかったからだ。
 しゃんと背筋を伸ばして座布団に正座する彼を畳で怠惰にごろごろ転がり頬杖をつきながら見上げているのがなんとなく申し訳なくなって、起き上がり胡座を掻く。根っからの現代っ子なおれには正座は無理だ。五分で足が痺れてしまう。

「ふむ、どこから話したもんか」
「いい感じにかいつまんで話してよ」
「そうさなァ。昔、居眠りをしているときに身体を盗まれたことがあってね」
「なに? 怖い話しようとしてる?」

 あまり組み合わせて耳にすることのないワードたちだ。もちろん彼が人でないことはわかっていたが、突然人外ムーヴをフルスロットルで押し出されてちょっぴり引いてしまった。
 そんなおれに構わずライセくんは事もなげに続ける。

「身体がないんじゃあんまり不便なんで作ってみたんだけれど、なんせ初めて身体を作ったのが随分前のことだったもんだから勝手を覚えてなくってね。こんな姿になっちまった」
「盗まれたっていう身体はどこに行ったの?」
「盗まれたまま燃えたから、それきり」
「やば。ていうか誰に盗まれたの?」
「リンネ」
「ああ、だからあんま仲良くないんだ」

 その名を聞いて脳裏にぽこんと浮かぶは黒髪の麗人の姿。ライセくんの妹さんだ。掴みどころのない人(人じゃないけど)だが、おれはなにかとよくしてもらっている。
 納得、納得とひとり頷いていたところで、ライセくんはふるふると首を横に振った。

「いや、仲良くないのはリンネが儂の知人の孫娘を殺そうとしてたからなんだが」

 リンネさん、やってんな〜。

「それに、この姿も坊が思うより悪いばっかりじゃないんだよ」
「マジ?」
「ウン。交通機関とか、大概の施設の利用料が安くなる」
「セコいな……」

―――
22/07/21


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